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日本のMOT教育をどう進めるか

主席研究員 安部 忠彦

2004年1月

要旨

低下する企業の研究開発投資効率とその理由

90年代以降、日本企業の多くは多額の研究開発投資にも関わらず、その成果を収益や競争力に結びつけることに成功していない。その理由を当社のアンケート調査からみれば、企業のアイデンティティが不明確で投資が分散され強いコア技術が少ないこと、ロードマップが不明確でコア・コンピタンスが弱いまま、スピード要請に過剰に対応しとりあえずの製品開発に向かっているなど、単なる研究開発管理レベルでなく、あえて他社と違うことに挑むという姿勢が少ない戦略面の失敗が大きい。

戦略不在の責任者としては、研究開発管理を行う層ではなく、CEOやCTOなどの経営トップ層を挙げる回答が多かった。近年好業績を維持しているサムスン電子の例を見ても、研究開発投資効率の向上のため、会長やCEOのリーダーシップのもとに、企業のアイデンティティを明確にし、互いにシナジー効果がある製品群に絞り込み、5年後、10年後どのような製品を主とするかのロードマップを共有し、かつ費用をかけた調査をもとに戦術を柔軟に変更するなど素早い意思決定がなされている。また製品ごとの特性に応じた利益確保手段を実行しており、例えば半導体や液晶パネルなどでは不況時にも高額な設備投資を続けているなど、企業競争力獲得には、戦略と経営トップの役割が重要であることを示している。

高まるMOT教育熱

こうした背景から、日本でも技術と経営とを深く理解する経営者育成の重要性が改めて認識されだした。当社アンケートでも、企業の研究開発効率の向上に関し国が支援すべき項目として、MOT教育の充実が研究資金支援に次いで第2位になっている。今年に入り芝浦工業大学や早稲田大学などでMOTを専門に教育する大学院が開設され始めた。

もともとMOTは、70年代後半以降日本の製造業との競争で競争力を弱めた米国が日本企業を調査し経営者に技術者が多いことを見出し、その対応として米国MITやスタンフォード大学で技術を基盤とした製造業の経営戦略や手法を学ぶコースとして設置されたといわれる。現在全米で240程度の大学や大学院に講座があり、毎年約1万人の受講生を輩出している。日本型経営がアメリカに渡って体系化され、再び日本に戻ってきたものといえる。従来日本でも大学の授業の一部で教えていた例はあるが、昨年の東北大学を初めとして本格的な大学院が次々に生まれ始めている。今後年間で米国の半分程度の受講生輩出が目指され、国からも教材作成などで約30億円の支援がなされている。

日本のMOT教育に必要なこと

日本にMOT教育が必要なことは言を待たないが、MOTが企業の競争力向上を目指していることを考えれば、現状の方向には改善すべき点も多い。

第1は、当面大学生や大学院生よりも、あくまでも企業で困っている企業人を主たる対象とすべきだ。企業人が気軽に集まれる場が必要だが、長期に拘束され受講料も高額な大学や大学院では参加は難しい。新設のMOT大学院では、あてにした企業からの派遣が予定よりはるかに少ない例が多い。その意味では、日産自動車のように企業が独自に社外講師を呼んで行う方式が望ましいし、次善の策としては、民間企業や社団法人などが行う短期コースにおいて企業人が問題を持ち合って解決しあう方式が実践的であり、こうした運営体にも支援が必要だ。

第2は、企業派遣で海外のMOTに学び、企業の研究開発戦略策定などで実戦経験がある教官の育成と活用である。MOTは個別企業の実態理解と汎用的な理論理解が両方とも必要で、企業経験の少ない教官には難しい。ましてやMOT教育を官僚の天下りの具にすべきでない。聴講生の切実な期待を裏切らないことが重要だ。

第3は、日本企業の競争力向上には、国の支援する教材作成についても、アメリカの教材の翻訳ではなく、日本型イノベーション研究に根ざした教材をそろえるべきだ。米国ベンチャー型の破壊的技術をベースとしたイノベーションも重要だが、日本で成功している企業の多くは、蓄積技術活用型の大企業型イノベーションタイプだ。そうした日本の実態に即した教材が必要である。

企業の競争力獲得は急務であり、MOT教育は重要だ。その実効性を高めるには、上記課題の解決とともに、経営者のMOTに対する深い理解が不可欠となるだろう。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 日本のMOT教育をどう進めるか [275 KB]