公益法人改革は百年の大計で
上級研究員 楜沢 徹郎
2004年1月
要旨
財団法人ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)汚職事件などをきっかけにスタートした公益法人改革の議論は、基本方針の閣議決定という形で一応の結論に達している。自民党が衆院選にあたり打ち出したマニフェスト(政権公約2003)でも、民営化を視野に置いた改革の続行がうたわれた。しかし、現時点での評価は、あくまで暫定的なものとならざるをえない。所轄官庁の許可を温床とする行政委託型の公益法人制度を抜本改革するという理念を保留したまま、主要な論点を先送りしたからである。
ただし、基本方針の取りまとめ過程で、非営利を標榜する各種の法人(公益法人、NPO法人、中間法人)がその歴史や文化、理念であまりにも多様であることが浮き彫りとなり、最終決定までの困難な道のりを関係者に実感させたという点では、議論にも一応の評価を与えられるだろう。
求められる公益性の判断基準
補助金を受け、官庁の委託業務を独占的に行う旧来型の公益法人は絶えず、天下りや高額の役員報酬など、政官界と不明朗に結びつく危険にさらされている。いったん主務官庁に設立が許可されると、優遇税制など数々の特典に恵まれ、活動内容を事後にチェックする体制も比較的甘いからである。
一方、阪神・淡路大震災のボランティア活動に象徴されるように、NPO法人は市民の主体的な活動をその存立基盤としている。もともと役所の許可制にはなじまず、旧来型の公益法人とは同列に論じづらい性格がある。
このように公益法人、NPO法人、中間法人を包含する「非営利法人」という概念が、法制度上からみても、はたして成立しうるのだろうか。公益性を定義し、それをクリアした法人と、そうでない法人とに分けたほうが、すっきりするのではないか。その定義をこそ、まず議論すべきではないかとの主張もあった。その意味で、今回の基本方針が、公益性について客観的な判断基準の確立を明文化したことは注目される。
今後の方向として[1]非営利法人の「公益性」を明確に定義する[2]公益性を判断する機関を設立するならその独立性、中立性を保障する[3]そのうえで優遇税制などの議論に移行する、というプロセスが望ましい。公益性という言葉は、きわめてあいまいである。今後の正確な議論のためにも、まずしっかりとした定義が欠かせないだろう。
非営利法人の社会的貢献度について、事前の審査制度を設け、審査に合格した登録非営利法人(仮称)に優遇措置を付与するのも一案ではないか。登録や審査の詳細は今後詰めなければならないが、英国のチャリティー委員会のような第三者審査機関を設け、現在のNPO法人認証に準じた手続きを課すことが現実的と思われる。
優遇税制の帰結が最大の争点
特定非営利活動促進法(NPO法)が成立した98年3月から5年あまりが経過し、既に1万を超えるNPOが法人格を得た。01年10月には、認定NPO法人制度が追加設定され、事業法人からNPOへ寄付する際の優遇枠の拡充と、更に1万円を超える個人寄付についての課税控除(年間所得の25%が上限)など、各種の優遇税制が認められた。
税制面で次第に恩恵を受けるようになったとはいえ、NPO法人の財政はまだまだ磐石でない。NPO関係者も優遇税制には多大の関心を払っている。今回の議論でも、税制面でNPO法人を公益法人と同列にみなし、収益に対しては原則課税するという案に対して、NPO側が強硬に反対した。
今後の議論でも、非営利法人として公益法人とNPO法人をひと括りにし、税制上扱いを同列にするやり方は、十分な根拠を示さない限り、到底NPOの理解を得られないだろう。
かといって、NPO法人と公益法人の扱いに税制上差をつける方式も、公益法人側が難色を示しそうだ。現在、NPO法人は原則届け出だけで設立できる。そのNPO法人に優遇税制を与えたうえで、なおかつ法人間で公平性を期すような制度設計は、現実的にかなり難しい。今後NPO法人の活動範囲が拡大し、ある分野で公益法人や民間企業と競合するようになった場合、税の公平性をどう確保するのか。
スタート時こそ「市民に近い立場で活動してくれる」「柔軟で機動性も高い」など好意的な評価が寄せられたが、今後はNPO法人に対する社会の見る目も厳しくなるだろう。NPO法人だけを特別扱いするような制度が、コンセンサスを得られるとは思えない。公益法人改革は06年3月末までの実施が決定されているが、それまでに課税のあり方を含めたNPO法人の将来像を十分議論し、提示しなければならない。
成立後1世紀を経た公益法人制度は、時代状況に即応できない、制度疲労が目立つなど、様々な批判にさらされてきた。しかし長年にわたる制度の負の蓄積(利権、その他)を壊し、再編するプロセスは容易なものでなく、抜本的な制度改革の実現までには、もう1世紀かかるだろうと言われていたことも事実である。
このような旧態依然とした構図が、NPO法人の登場によって変わろうとしている。非営利法人のあり方を抜本的に見直そうと、基本法である民法改正まで視野に入れた議論が始まっている。こうした議論を誘発した点でもNPOの台頭は評価できるが、具体的な制度に結実しなければ意味がない。
最終決定まで時間的猶予はあまりないが、拙速は禁物である。今回の制度改革は、今後100年にわたってNPO法人、ひいては社会のありようを決めるといっても過言ではない。
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