わが国の加工組立型製造業におけるスマイルカーブ化現象 - 検証と対応
主任研究員 木村 達也
2003年10月
目次
I.スマイルカーブ化現象論
1.スマイルカーブ化現象論の拡がり
2.スマイルカーブ化の検証の必要性
II.バリューチェーンの段階別利益率の計測
1.計測対象とするバリューチェーンと指標
2.利益率カーブの計測方法
3.利益率カーブの計測結果
4.まとめ
III.スマイルカーブ化の原因と補正利益率カーブ
1.利益率カーブ変動の背景
2.補正利益率カーブの計測
3.労働分配率上昇の背景
IV.利益率カーブの検証からの示唆と含意
1.利益率カーブ、補正利益率カーブの計測結果からの示唆
2.加工組立型製造業における利益率向上策への含意
要旨
1.近年スマイルカーブ化現象論が拡がりをみせている。スマイルカーブ化現象論とは、加工組立型製造業を中心とした製品の素材・部品 - 加工組立 - 販売 - サービス等というバリューチェーンにおいて、従来は高かった加工組立の付加価値(率)もしくは利益(率)が低下し、素材・部品やサービス等というバリューチェーンの両端の付加価値(率)もしくは利益(率)が上昇したとする考え方である。スマイルカーブ化はまずパソコンで提唱されたが、その後議論の対象領域が拡張され製造業全般にまで及んでいる。また議論は、対象とするバリューチェーンや指標について拡張されてきているが、それらは概念的なものが中心で、データによる裏づけを伴うものは少ない。
2.本稿では、加工組立型製造業の製品につき部品・素材からサービス等までの独立した産業を段階別に捕らえたバリューチェーンについて、総資本営業余剰率を指標にスマイルカーブ化を検証した。対象は加工組立型製造業全体と、民生用電子機器、民生用電気機器、電子計算機・同付属装置、通信機械、乗用車、トラック・バス・その他の自動車の個別6業種で、85、90、95、97、99年のバリューチェーンの段階別利益率(利益率カーブ)を計測、比較した。結果は、スマイルカーブ化が民生用電子機器、電子計算機・同付属装置、トラック・バス・その他の自動車の3業種で観察されたが、加工組立型製造業全体では顕著ではなく、その他の個別3業種には生じていなかった。
3.更に90年代に上昇してきた労働分配率が85年レベルで一定であったとして利益率カーブを再計測すると、スマイルカーブ化は電子計算機・同付属装置のみで観察された。こうした計測からスマイルカーブ化は、加工組立型製造業の一部の現象に過ぎず、モジュール化に伴う競争激化からではなく、労働分配率の上昇に伴い生じている業種が多いことが示唆される。したがって加工組立型製造業の利益率向上策としてのバリューチェーンの上下流への進出は、モジュール化に伴う競争激化からスマイルカーブ化が観察される業種では本質的とみられるが、その他の業種では、実力主義賃金体系への移行や少数精鋭による事業体制の構築といった労働分配率を引き下げる対策の重要性が高い。
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