富士通総研

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. Economic Review >
  4. Vol.7 No.4 2003年10月 >
  5. 電子商取引(EC)に関する10ヵ国の比較とわが国の特徴

電子商取引(EC)に関する10ヵ国の比較とわが国の特徴

主任研究員 浜屋 敏

2003年10月

要旨

カリフォルニア大学アーバイン校のCenter for Research on Information Technology and Organizations(CRITO)が中心になり、当社も協力して研究を進めている「グローバルEC(電子商取引)プロジェクト」1)では、2002年2月から4月にかけて、世界10ヵ国における企業のEC実施状況を調査した。世界各国におけるITの活用状況については、OECDやITUなども調査結果を発表しているが、今回の調査は10ヵ国の企業(米国は300社、その他の9ヵ国は200社)に対してECの実施状況に焦点を絞って電話インタビューを行ったもので、貴重なデータを集めることができた。本稿では、この調査結果に基づいてECの実施状況を比較し、日本企業の特徴を明らかにしたい。

わが国の企業は技術導入ではトップクラスだが利用では遅れている

今回の調査では、各国の事業所データベースから産業別・規模別にサンプルを抽出し(中国については北京・上海・広州・成都という4つの大都市に限る。その他の国では地域を考慮したサンプリングは行っていない)、ランダムに電話をかけて、その中からEC(この調査では、ECを「インターネットを使った商取引」と定義している)を実施している事業所だけを調査の対象とした。ランダムに電話をかけた事業所のうち、ECを実施していると回答した事業所の比率は、日本では55%で10ヵ国の中でもっとも低かった。これは、日本企業に対してはあまり行われない電話調査という調査手法に起因するバイアスもあると考えられるが、わが国では中小企業におけるECの実施比率が低いために、全体の回答率が低くなったと考えられる。従業員500人以上の企業に限れば、わが国の企業が他国に比べてECの実施状況が特に遅れているわけではない。

調査対象となったEC実施済みの事業所に対して、まず、電子メールや公開ウェブサイトなどECの基盤となる技術・システムの導入状況について調べてみた。わが国の企業は、製造業と金融業(銀行・保険)におけるコールセンターの導入率が他国よりも低いが、それ以外の技術では他国よりも導入が遅れているものはほとんどない。むしろ、イントラネットやエクストラネットは米国の企業よりも多く導入されており、システムの導入状況については世界トップクラスにあると言ってもよいだろう。

しかし、基幹業務におけるインターネットの活用を比べると、わが国の企業は必ずしも進んでいるとは言えない。わが国の企業は、サプライヤや顧客企業とのデータ交換でインターネットの活用が比較的進んでいるが、マーケティングや購買、サプライヤとのビジネス・プロセスの統合といった分野では、B2Bでは専用システムによるEDI(電子データ交換)、B2Cではビデオテックス・システム(いわゆる「テレテル」)といった伝統的なシステムが普及しているためにインターネットの活用が進んでいないフランスと並んで、低いレベルにとどまっていることがわかる。

既存業務の自動化ではなく、ITの戦略的な活用が求められている

ECの阻害要因について分析してみると、わが国では、「インターネットが経営戦略の一部として考えられていない」ことが重要な阻害要因であると指摘している事業所が31%と、中国に次いで2番目に多い。欧米諸国ではこの点を重要な阻害要因として指摘したのは多くても20%程度であり、日本企業では、経営陣が経営戦略の一部としてインターネットを活用しようという意思が弱いのではないだろうか。

わが国の企業における戦略的な視点の不足については、ECのインパクトに関する調査結果を分析しても同じことが言える。日本では、「サプライヤとの調整が改善する」を筆頭にして、「社内業務の効率が上がる」「社員の生産性が上がる」など、社内業務の効率性改善に関する項目が多く指摘されていた。一方、アメリカやデンマークでは、ECの重要なインパクトとして指摘されたのは、「顧客サービスが改善される」という顧客指向の回答がもっとも多い。また、「競争的地位が改善される」という回答の比率は、10ヵ国中で日本がもっとも低かった。

わが国の企業では、「ネットビジネス」という言葉に象徴されるように、インターネットは自社の既存の事業とはあまり関係なく、新しい事業機会を生み出すものであると考えられていた時期があった。もちろん、インターネットが多くの新しい事業を生み出してきたのは事実である。しかし、最近では、大多数の企業にとって、インターネットのもっとも重要な用途は、自社の事業戦略とインターネットの活用方針とを一致させることによって既存事業の競争力を強化することであると主張されるようになってきた。今回の調査では、わが国の企業がECを導入する際に、そのような戦略的な視点が不足していることが明らかになった。しかし、今後は、技術を導入しているかどうかということよりも、ITの活用方針と事業戦略とを一致させる組織能力があるかどうかということが、企業にとって重要な成功要因になる。

1)「グローバルECプロジェクト」とは、CRITOが全米科学財団(NSF)の資金援助を受けて実施している研究プロジェクトで、世界10ヵ国(ブラジル、中国、デンマーク、フランス、ドイツ、日本、メキシコ、シンガポール、台湾、米国)の研究者が集まり、各国におけるECの現状や促進要因・阻害要因、インパクトなどについて調査・分析することを目標としている。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 電子商取引(EC)に関する10ヵ国の比較とわが国の特徴 [301 KB]