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クラスターの発展に向けた民間資金と公的資金

上級研究員 湯川 抗

2003年10月

要旨

はじめに

最近、産業政策として注目を集めているのが「クラスター」と「産学連携」である。2001年以降、経済産業省は「産業クラスター計画」、文部科学省は「知的クラスター創成事業」を開始し、全国各地で多額の予算をもとに、実際の支援が行われつつある。そして、これらの政策の特徴は、産学連携による研究開発型企業への支援といえる。

「クラスター」政策とは同業種の企業の特定地域への集積、あるいは既存の産業集積の発展を促すための政策である。クラスターの形成はその内部の企業の[1]生産性の向上、[2]イノベーションの加速、そして[3]新規事業の形成を促すとされ、これらそれぞれの要素がクラスターそのものの強みを更に増強させることから、産業競争力の強化に効果的だとされる。一方、「産学連携」とは大学と民間企業の共同研究や大学の民間企業に対するライセンシング等を促進することで、ベンチャー企業を育成するための政策である。これは、様々なチャネルを活用して民間企業の研究開発に対して公的資金を投入することで、イノベーションを加速して新たな産業を生み出したり、既存産業の活力を回復したりしようとする意図がある。このような公的資金によるベンチャー企業支援は、クラスターの発展にどのような効果があるのだろうか。

公的資金によるベンチャー企業支援とクラスター(米国の事例)

公的資金を用いたベンチャー企業の研究開発に対する援助の代表的なものに、米国連邦政府のプログラムであるSBIR(SMALL BUSINESS INNOVATION RESEARCH)がある。SBIRプログラムとは、アメリカ連邦政府機関のうち一定規模(年1億ドル)以上の外部研究開発費を有する省庁に対して、当該予算の一定比率(現在は2.5%)を優れた研究開発能力がある中小企業に対して支出することを義務づける制度であり、1982年に創設された。

現在は、国防省等7つの省庁とNASA等3つの関連機関が参加しており、各省庁が中小企業に委託案件の提案公募を行っている。SBIRは特にハイテクベンチャーの育成に効果的だとされており、我が国においても同様の制度として日本版SBIR(中小企業技術革新制度)が創設され、1999年から実施されている。

SBIRのような公的資金によるベンチャー企業支援は、クラスターの発展に対してどのような効果があったのであろうか。クラスターの成功例である、シリコンバレーの企業を対象に調査を行った。シリコンバレー企業は1998年には220件、約6,300万ドルのSBIR資金供給を受けている。SBIR資金の供給額・件数を州別にみると毎年全米トップはカリフォルニア州であるが、シリコンバレーには毎年カリフォルニア州の約25~28%のSBIR資金が流入している。

民間資金によるベンチャー企業支援とクラスター

次に民間資金の流入に関して、VC(ベンチャー・キャピタリスト)によって行われた投資をみると、当然毎年大きく変動するが、シリコンバレーは1995年以降常に全米VC投資の金額・件数共に25~33%を占めている。金額では1995年には19億ドル、1998年には62億ドル、その後ピーク時の2000年には約350億ドルに達している。

SBIRとVC投資の額を比較可能な1995年~98年でみると、シリコンバレー企業に対して供給されたSBIR資金はVC投資の1~3%に過ぎない。つまり、全米の中でもシリコンバレー企業は多額かつ多数のSBIRプログラムの便益を得ている地域ではあるが、シリコンバレー企業にはそれをはるかに上回る民間資金が流入しているといえる。

SBIRは研究開発自体に対する支援という側面もあるのに対し、VCによる資金は企業自体に対する支援であるため、これらを同列に比較するのには多少無理がある。しかし、シリコンバレーというクラスターの発展を促してきたのは民間資金であったと考えられる。

結 論 - リスクマネー供給システムの必要性 -

確かに、SBIRのような政府によるベンチャー企業の研究開発に対する効果はこれまで確認されてきた。しかし、シリコンバレーの例からみると、VCによる民間のリスクマネーの供与は、公的資金による研究開発の助成を件数・金額共に圧倒している。つまり、クラスターの発展という観点からみると、ベンチャー企業に対する民間のリスクマネーの供給は、より重要な役割を担ってきたと考えられる。

無論、資金の流入だけでシリコンバレーのようなクラスターを形成し発展させることは困難であろう。シリコンバレーの発展が起業しやすい環境を実現するコミュニティに帰することができるという点は、これまで何度も語られてきた。しかし、コミュニティの重要な軸のひとつとして機能しているのは明らかにリスクマネーの出し手としてのVCである。シリコンバレーのVCは資金供与だけでなく、ベンチャー企業の経営に付随した様々なサービスを自らの人的ネットワークを最大限に活用して提供し、投資した資金が未回収になるリスクを軽減している。こうしたVCの活動がシリコンバレーの起業家コミュニティ、ひいてはクラスターとしてのシリコンバレーの発展を生んでいる。

今後、アメリカ型クラスター発展の道を追求するのであれば、公的資金のベンチャーへの流入や大学等研究機関との連携に関する議論とあわせて、VCに代表されるリスクマネーの供給システムの整備をより積極的に行う必要があろう。公的資金の注入で銀行の経営をもちなおすことはできるかもしれない。しかし、「クラスター」や「産学連携」を活用して、今後産業競争力を強化するには、VC等を活用したリスクマネーの供給システムの構築は必要不可欠である。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF クラスターの発展に向けた民間資金と公的資金 [208 KB]