社会実験としての構造改革特区
主任研究員 小野 達也
2003年10月
要旨
165の構造改革特区が誕生
政府は特定地域限定で規制を緩和・撤廃する構造改革特区として、4月・5月に第1次の117件、8月に第2次の47件を認定し、これまでに合計164の特区が誕生した。特区制度のねらいは、[1]地域の特性に応じた産業集積や新規産業創出によって地域を活性化すること、[2]特定地域における規制改革の成功事例を示すことによって全国的な構造改革へと波及させ、日本経済全体を活性化すること、の2つである。
特区の認定にあたっては、まず自治体・企業から特区の構想を募集、寄せられた提案について関係省庁が事前調整した結果を踏まえて地方自治体が正式申請する。第1次認定では申請された129件のうち9割が認定され、第2次では申請された49件のほとんどが認定された。
この間、政府部内の事前調整では、所管省庁、関係団体、族議員が大幅な規制緩和に揃って異議を唱えた医療、教育、農業の3分野が焦点となり、小泉首相が直接乗り出すことによって、条件付きながら株式会社の病院や学校、農業経営への参入が認められることとなった。ただし、医療分野において株式会社参入の対象となる自由診療(健康保険外診療)の範囲を巡って、特区の実現まで調整の難航が予想されるなど、これら3分野には課題が残った形である。
なお、政府は今後更に提案と申請を順次受け付けていく方針で、小泉改革の目玉にしようとする政府の特区室と、地域活性化の切り札としたい自治体の息が合った格好で、当初の少数精鋭の方針から転じて、大量認定による競争と相乗効果をねらう積極的な展開となった。
効果の大きい成功事例は全国展開へ
小泉首相は施政方針演説で、構造改革特区を「日本再生の鍵を握る分野」のひとつとして挙げた。政府は特区創設と都市再生プロジェクトを合わせて今後5年間に全国で20兆円の投資効果があると試算しており、米国政府も大きな関心を表明している。
このような大きな効果は、特定地域の成功事例を全国に展開することによって可能となる。特区を全国に広げるべきかどうかは、特区において発生した効果(あるいは弊害)の評価に基づく。その評価を受け持つのが今夏特区推進本部に設置された評価委員会である。評価委員会は一般公募された3人を含む、民間事業者、学識経験者等の第三者10人で構成され、毎年度実施状況を評価することとなっており、評価の具体的方法については評価委員会発足後の9月から審議されている。
特区における社会実験が日本経済の活性化をもたらす
規制の緩和・撤廃に限らず、特定の施策を限られた対象に施して、その効果を評価し、評価結果がよければより大規模に、例えば全国的に実施するという手法は米国などでは古くから盛んに用いられている。先行して限定的に行う実験が、効果について科学的に評価できるように設計されている場合、これは「社会実験」と呼ばれる。
効果を科学的に評価するための必要条件は、施策の対象となる集団と、その集団とできるだけ同質になるように選ばれた集団について、施策実施の前後の状態を観察して比較することである。こうすることによって初めて、当該施策の効果が他の要因や偶然の効果を取り除いて、どれだけあったのかが明らかになる。このような設計が完全にはできなくても、それに準じたものとするのが評価の基本的な考え方である。
このように考えると、残念ながら現在の構造改革特区は社会実験とはいえず、このままでは科学的な評価ができないことがわかる。評価の設計なしで、必要なデータの検討もせずに、特区における特例措置という施策が始まってしまったからである。事後的な観察だけで科学的・客観的な評価を下すことはできない。また外国語教育特区や医療特区など、最大の注目と期待が集まる経済効果以外の評価尺度を明確にしておく必要がある。評価があいまいなままでは、「特区で規制緩和をやっている」として全国的な緩和措置をかえって遅らせる事にもなりかねない。
いま、地方自治体では、行政評価制度の導入が進んでおり、特区における取り組みの評価もそれぞれなされるであろう。しかし、特定地域の措置を全国に広げるか否かは、政府が独立に評価を行った上で判断すべきであることは言うまでもない。これは、特区制度において国がモデルを示すことはないという方針とは別の次元の問題である。
今後の提案・申請を経て認定される特区については、何よりも評価の仕組みをあらかじめ整えておく必要がある。既に認定済みの特区も、効果が発生する前に評価の仕組みを整備すべきである。そのためには評価委員会を中心とする評価作業のできるだけ速やかな開始が必要である。
全国的に適用されている規制の効果(または弊害)の評価は難しい。規制が国民の利益に合致しているか否かは常に実証の難しい問題である。しかし今回の特区において社会実験を行えば、各種の規制の必要性の有無が誰の目にも明らかになる。社会実験によって規制を緩和・撤廃していけば、数年を経て日本経済の活性化をもたらすことも大いに考えられる。
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