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中国のマクロ経済の動向と今後の展望

中国社会科学院副院長 王 洛 林

2003年7月

要旨

中国経済は、高い成長率を維持しているものの、その成長過程では大きな変動に見舞われている。今後、世界経済がますますグローバル化していく状況下で、持続可能な経済成長を実現するためには、市場経済型の制度作りと経済構造の調整を早急に行うことが必要である。

2002年の中国経済の成長

2001年末時点では、2002年の経済成長に関する大方の予測について、GDP成長率が7%にも満たないだろうと見られていた。しかし、実際にはこれらの予測が的中せず、2002年の経済成長率は四半期ごとに上がり、年間のGDP成長率が8%に達した。中国経済の具体的な状況を見れば、経済高成長に大きく貢献している要因として、投資、消費と輸出のなかで、特に投資と輸出が急速に伸長し経済成長を牽引した。

これまでの経済成長を振り返ってみると、中国の設備投資伸び率は99年5.1%だったが、2000年10.3%、2001年13.0%、2002年16.1%と年を追うごとに拡大している。また、中国の対外輸出もGDPの成長に対しては大きく貢献している。2001年には6.8%だった輸出の伸び率が、2002年は22.3%と大きく伸びた。更に、2002年の貿易黒字は303億米ドルにのぼり、GDPの成長率に対して0.68ポイント貢献している。貿易収支が大きな黒字を記録した背景に、輸出の伸びがある。特に、東部沿海地域の産業発展が重要な役割を果たしていると思われる。2002年の工業総生産における付加価値は前年比12.6%増え、うち、輸出の貢献度は2.8ポイントだった。一方、消費は、2002年においてそれほど大きな成長は見られなかったが、2001年と比べて若干の伸びが実現された。では、2002年の輸出と投資の急増についてどのような要因が働いたのだろうか。ここでは、大きく5点を指摘したい。

1つ目は、良好な国際経済情勢に恵まれたということである。テロ事件の影響が予想より小さく、米国への輸出は順調に拡大している。

2つ目は、中国がWTOに入ったことで、外国の投資家が中国市場の開放に対して楽観的な見方を持つようになったということである。中国が受け入れた外国直接投資(FDI)は前年比12.0%増え、527億ドルに達した。外国企業による投資は高い付加価値を生み出していると同時に、外国投資の増加は中国の対外貿易の増加に大きな役割を果たしている。2002年、中国の全輸出の増加額において、外資系企業の輸出増加額は61.9%を占めている。そして、工業全体の売上高のなかで、外資系企業の売上は28.0%を占めている。これが、投資と輸出を牽引した主な要因である。

3つ目は、設備投資が大きく増加したことである。それは、主に企業セクターによる自発的な投資であるということが重要な意味をもつ。すなわち、公共投資への依存度が低下し、民間投資が盛んになり、重要な役割を果たすようになったということだ。この点について更に、次の2つのポイントを指摘することができる。

第1は、建設国債による投資が、新たな設備投資に占める割合が徐々に低下していることである。第2は、2002年、非国有部門(例えば、外資系企業、集団所有制、私営企業など)の設備投資が、これまでに比して大きく増加していることである。2002年の非国有部門の設備投資増加率は21.6%であり、これは、社会全体の投資の伸び率を大きく上回っている(全体では16%増)。国内のエコノミストは、非国有セクターによる投資の増加という点を最も重視しており、今後最も期待している部分である。このまま行けば、市場の役割がますます大きくなるものと期待される。

4つ目は、中国の都市、農村部の住民の消費構造が大きく高度化していることである。特に都市部では消費構造が高度化している。例えば、自動車や住宅の消費においてその動きは顕著である。2002年消費財の小売総額は8.0%増えたのに対して、住宅の販売額は23.0%も増えた。このように、消費者の購買力向上を背景に、設備投資のなかで、不動産開発関連の投資の増加率がもっとも高いレベルにある。そして、自動車についても、2002年自動車総生産量は38.5%伸びた。その中で、乗用車の生産量は55%伸び、売上高は56%と大幅に増えた。

自動車の生産と販売の大幅な増加は、中国のWTO加盟と密接に関係している。輸入自動車に対する関税が大きく下がる期待のもとで、中国の多くの自動車メーカーが競って価格を下げた。それによって、それまで自動車を購入できなかった人々の購入意欲が喚起され、特に大都市においては、自動車の購入が一大消費ブームと化しつつあるのである。

5つ目は、積極的な財政政策である。中国は、1998年以降、内需拡大のために毎年建設国債を発行してきた。2002年の国債発行総額は1,500億元(1元≒15円)、実際公共投資に使われた建設予算は1,700億元だった。公共投資が実際の国債発行を上回ったのは、前の年度に使用しきれなかった国債の繰り越し分があったためである。更に、地方政府は、2002年が政府の指導者の交代期に当たることを考え、様々な突貫工事に着手し投資の拡大をもたらした。同時に、こうした積極的な財政政策は、輸出など対外貿易にも大きな影響を与えた。すなわち、輸出企業が中国で製造された製品を輸出する際に、政府は増値税(付加価値税)の一部または全部を還付する措置を採っている。輸出企業に対する増値税還付の規定によれば、製品が輸出される場合の税還付は、最大で17%になる(全額還付)。財政部の基本方針は、輸出を奨励するために、極力税還付を実施するとしている。

以上において述べた5つの要因は中国経済成長を牽引する役割を果たしているが、中長期的にマクロ経済にどのような影響を及ぼすかについてより詳細な考察が必要であると思われる。特に、市場経済化が進展し、中国経済全体がますますグローバル化していく状況のなかで、これらの諸要因が中国経済にどのような変化や影響をもたらすかについて詳しく分析することが重要である。

2003年の中国経済の成長

2003年の中国経済は、これまでの経済成長を維持できるのだろうか。それは、前述の5つの要因が、引き続き経済成長を牽引する役割を発揮できるかどうかにかかっている。もし、これら5つの要因がどれか1つでも十分に機能しなければ、成長率にネガティヴな影響を与えると考えられる。ここでは、これら5つの要因をもとに、2003年の経済成長について検討してみたい。

まず、第1の要因についてだが、2003年の国際経済情勢については、大きな不確実性が存在している。国際経済情勢を分析しているある中国国内の専門家が発表した研究成果によれば、2003年の国際情勢は全体的には楽観できるとしている。イラク戦争が短期間に終われば、2003年の国際経済は安定的に回復するであろうと予想される。一方、日本のアナリストの経済見通しは、2003年の国際経済情勢には大きな不確実性が存在しているとして、中国のエコノミストの予測に比べより悲観的であり、慎重論が目立つ。

第2の要因については、WTO加盟が中国の外資導入と対外輸出の拡大にどれだけ貢献するかが重要なポイントとなる。今後、外資による対中投資は引き続き拡大すると思われ、中国の対外輸出も拡大するものと予想される。しかし、2002年の外国直接投資がかつてないほど高水準に達しており、今後も同じペースで増加していくのは難しく、伸び率は次第に低下していくものと思われる。個人的な見方ではあるが、2003年における中国の外資導入、あるいは対外輸出の伸び率については、2002年よりも若干下回るのではないかと見ている。

第3の要因に関しては、設備投資の自発的な拡大能力について、非国有セクター及び非政府部門の投資を見ると、全体の投資情勢はとても良い状況にあると判断される。2003年、設備投資は引き続き拡大するものと思われる。

4番目の要因である消費構造の高度化は、2003年においても、更に発展する余地があるものと思われる。

第5の要因は積極的な財政政策の役割であるが、2003年においては、積極的な財政政策の効果は限定的と予想される。

総じていえば、2003年の中国経済は、需要面の輸出、投資、消費という3つの要因から考えると、輸出需要のGDPに対する寄与率はそれほど高くはない、あるいはマイナスになるかもしれない。また、消費需要は、消費構造が高度化する可能性があるということから、2002年に比べ消費が拡大する可能性が高い。更に、投資の増加は、2002年とほぼ同水準になる可能性が高い。したがって、今のところ、2003年の経済成長率は、だいたい2002年と同じくらいになるか、8%の成長率を中心に若干の変動も予想される。

2003年の1月と2月の2ヵ月間だけの経済成長を見れば、経済成長率は予想外に高い伸びが記録された。設備投資はこの2ヵ月で32.8%増加し、輸出は同32.0%伸び、輸入は57.0%伸びている。輸入のうち日本からの輸入が特に目立って増えている。一方、消費は9.2%増加し、M1とM2はそれぞれ18%以上の伸びとなった。したがって、これらの経済指標から推察すれば、今年の第1四半期のGDP伸び率は9.5%を上回り(速報値は9.9%成長)、1996年以来の最高の成長率(四半期)になるものと予測される。そのため、政府部門は今の経済情勢について、少し過熱気味になっているのではないかと心配している。

(注)ここでの予測は、SARS問題発生以前の時点によるものである(富士通総研)。

経済成長に関する2つの異なる視点

2002年と2003年の1月と2月の経済成長の特徴について、国内の研究者の間では2つの異なった見方が存在する。1つ目の見方は、経済成長のスピードが速いが、それは調整段階での成長であるというものである。2つ目の見方は、このような急速な経済成長は、新たな好景気が始まった表れであり、今後の数年間においてかなり高い成長が実現されるという判断である。

1つ目の見方については、3つの理由があげられている。

第1に、現在、国有部門の投資が依然として新規投資の半分を占めている。更に、国有部門の投資の相当部分は国債の発行でまかなわれている。経済成長が国債に頼っているというのは、望ましい動きとは言えない。

第2に、現在の消費は、さまざまな制約を受けており、急速に伸びる可能性が今のところ少ないと予想される。都市部住民の消費構造高度化が経済成長を引っ張っているとはいえ、最終的にはそれほど期待できない。なぜなら、中国の失業状況は極めて深刻であり、雇用問題が深刻化しているからである。また、中国の農民の所得増加が非常に遅く消費の拡大を妨げているということだ。現在、中国の農村の人口は、全人口の62%を占めている。しかし、農村部の消費は消費財の小売総額の25%しか占めていない。農民の消費レベルが上がらなければ、国全体の消費需要が急速に伸びることはない。また、ここ10年の間、都市部と農村部の所得格差が著しく拡大しており、低所得者層の消費は相対的に落ち込んでいる。

第3に、2002年中は、WTO加盟による経済発展の促進効果が主に顕在化しており、マイナス面の影響はそれほど表面化していない。しかし、これからはマイナスな影響がすこしずつ表れてくるかもしれない。外国企業からの投資は今までの速いペースが維持される可能性が低く、いずれは飽和状態に達する。中国市場において外資系企業は、ますます激しくなる市場競争にさらされており、利潤率は下がり始めている。理論的に、他の発展途上国における投資と同じレベルにまで下がれば、外国企業は中国に対する投資の魅力を感じなくなる。外国からの投資が下落すれば、輸出促進効果もそれにつれて下がっていくことが考えられる。したがって、今の対外貿易や国際収支は良い状況にあるが、時間が立つにつれ、赤字化してくる可能性は十分ありうる。いったん赤字が生じると、中国経済に大きなショックがもたらされる。

2つ目の見方は、ここ1年余りの高成長は、中国の新しい好景気の始まりを意味し、これからの数年間は高度成長が維持されるというものである。この見方には3つの理由がある。

第1に、中国の消費構造が高度化しており、それが経済成長構造に大きな変化をもたらしているという点である。

第2に、中国の私営企業の発展により、経済の自力成長力が強化されているということである。

第3に、中国の農村には、まだ大量の過剰労働力が存在していることだ。多くの農民が都市で仕事をするようになり、それによって初めて農民の収入が増える。中国の企業の給与レベルは依然低い水準にある。このような低い給与水準は、中国の輸出競争力を維持する上でプラスの役割を果たす。

以上、2つの見方が存在するが、経済成長を促す要因とそれを阻害する要因が併存しているということでは両者は一致している。異なる点としては、前者が制約要因に注目するのに対し、後者が促進要因に着目しているという点である。個人的には、どちらかというと慎重的な見方を採っている。今後の経済成長について、高い成長率が維持されるとともに、その成長過程においては大きな変動を経験するものと思われる。

(文責 : 富士通総研)

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