ブッシュの配当課税撤廃案が意味するもの
主任研究員 米山 秀隆
2003年7月
要旨
配当課税撤廃の意味
ブッシュ大統領が年初に打ち出した株式の配当課税撤廃案は、その後上下両院での審議を経て、最終的には撤廃ではなく、税率引き下げによる軽減(2003年から2008年までの時限措置)とされることになった。このようにブッシュ案は、当初の構想から後退を余儀なくされたが、法人課税に関する根本的な問題を提起したという点では評価することができる。長い目でみて、各国の法人課税のあり方にも影響を及ぼす可能性が高い。
配当課税は、個人投資家が得た配当所得に対して、所得税を課すものである。しかし、これを企業の側からみると、配当を含む税引前利益に法人税を課せられた上、法人税を支払った残りの利益から配当を支払った段階でも所得税が課せられることになり、二段階で課税されるという二重課税の問題が生ずる。
ブッシュ案は、配当を受けとった個人投資家は、これを課税所得から控除することで、二重課税の問題を回避するとともに、株式投資を魅力的なものにして株式市場への資金流入を促すことをねらうというものであった。
二重課税を回避する方法としては、ブッシュ案とは別に、企業に配当も費用計上させることで、所得から配当を差し引いたものに法人税を課し、個人投資家が得る配当には引き続き課税を行うという選択肢もある。しかし、ブッシュ案では個人投資家へのメリットをアピールすることに力点がおかれ、この方法は採用されなかった。
二重課税問題については、これを完全に解消している国は少ない。欧州では、二重課税を回避する方法として、インピュテーション方式をとる国が多い。企業が既に支払った法人税も個人株主への配当に回ったとみなし、受取配当に対応する法人税額を個人投資家の所得に加えて所得税額を計算する。その上で、この所得課税から先に加えた法人税額を改めて差し引くという仕組みである。ただ、この方法で二重課税を完全に解消しているのはフランスだけである。
税制を戦略として活用することが必要
二重課税を解消させる方法には複数の方法があるが、大別すると、法人課税の段階で調整する方法と、配当課税の段階で調整する方法とに分けられる。ブッシュ案や欧州のインピュテーション方式は後者であり、配当を費用計上させるという方法は前者にあたる。
調整の方法、度合いについては様々なものが考えられるが、二重課税を解消させるためには、究極的には、法人課税をゼロにするか、配当課税をゼロにすればよい。ただ、どちらかを完全に撤廃すると、課税逃れのため配当を過大に行ったり、逆に配当をほとんど行わなかったりするようなケースが現れるため、そうしたことを防ぐ施策が必要である(ブッシュ案ではそうした点の配慮はなされていた)。
ここで視点を変えると、近年、アジアやヨーロッパの一部で、法人課税の引き下げを積極的に進めている国があるが、こうした動きは、二重課税問題の観点からみると、法人課税を引き下げることによって二重課税を緩和させる動きとも捉えることができる。これらの国では、法人課税の軽課によって、海外からの投資を呼びこみ、経済の活性化を図ることをねらっている。
このように配当課税撤廃の問題は、単に配当課税だけの問題にとどまらず、法人が稼ぎ出した利益を、どの段階でどの程度課税するのが最も望ましいのかという問題が含まれている。一つの方向は、配当課税を撤廃して、投資家を株式市場に呼びこもうという戦略であり、もう一つの方向は、配当課税は撤廃せず、法人課税を軽課することによって、海外からの投資を呼びこみ、企業活動を活性化させようという戦略である。
どちらの方向性を選択するかは、それぞれの国の事情によって異なる。ブッシュ案は前者に基づくものであり、アジアやヨーロッパの一部の国の動きは、後者に基づくものであるといえる。このように考えれば、法人課税、配当課税をどのような制度にするかは、国の経済をどのようにして活性化させるかという戦略に依存する。
ポリシーなき日本の配当課税
翻って日本の現状をみてみると、配当課税(所得税・住民税)については、株式市場に投資家を呼び込む目的で、今年4月から10%に軽減された(08年3月末までの5年間の時限措置)。02年末までは20%の源泉徴収を行った上で、投資家に確定申告させ、他の所得と合算して総合課税するのが原則であったが、03年1月から一律20%の源泉徴収課税に一本化され確定申告が不要となり、4月から税率が時限的に軽減されるという複雑な経緯をたどった。
しかし、新年度に入ってからも株価低迷に歯止めがかからないため、日本経団連など経済3団体は、4月半ばに配当課税の非課税化(1年間の時限措置)を含む株式市場の活性化策を提言した。これに対して政府は、配当課税の簡素化、軽減を行ったばかりであるとして、新たな措置をとることについては消極的である。
日本の場合、これまで配当課税については、株式市場のてこ入れと税収確保という相反する二つの思惑が絡み合うことで、明確なポリシーを欠いたまま場当たり的に変更が繰り返されてきたきらいがある。株式市場の活性化の方向に思い切って舵を切るのならば、配当課税の撤廃などの恒久的措置を構ずる必要がある。
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