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マニフェストが政治と行政を変える可能性

主任研究員 小野 達也

2003年7月

要旨

日本にもマニフェストが登場

4月の統一地方選で、マニフェスト(政策綱領)を掲げた首長候補が何人も登場、知事選では岩手県の増田候補(現職、3選)や神奈川県の松沢候補(新顔)などが当選し、この動きは市町村にも広まった。マニフェストとは、選挙の際に就任後の政策を明示した、有権者に対する政策約束集である。今までの公約との違いは、当選したらどのような政策をいつまでに実施する、その数値目標はこうで財源はこう手当すると明示することであり、「景気を回復させる」「明るい○○県をつくる」という類の曖昧なスローガンや「あれもやります、これもやります」式の願望リストとは異なる。

全国初となった増田知事のマニフェストは、2年間で公共事業費を3割削減、事務事業を徹底的に見直して4年間で200億円の一般財源を生み出す、2年間にサービス業の雇用を1万5,000人創出することなどを掲げた。また松沢新知事は、国から都道府県へ5.5兆円の税財源の移譲を勝ち取ることで県税収の1,400億円増収を図る(首長有志で働きかける)、4年間で行政職員を1,500人削減、警察官を1,500人増員して犯罪の検挙率を倍増する、4年間で小中学校の不登校を3割減らすことなどを掲げた。

マニフェスト登場の発端は、自身は3選不出馬を表明した三重県の北川前知事が、国政に先駆けて地方でローカル・マニフェストを掲げた選挙をやろうと提唱、これに改革派の知事らが賛同したことにあり、それが全国に波及した形である。マニフェスト発祥の地は英国とされる。英国では総選挙が近づくと各政党がマニフェストを公表、一般の書店でも販売する。1997年の労働党マニフェストは500万部印刷されている。

マニフェストは地方行政を変えるか

マニフェストを掲げて当選した首長にとって、その内容は有権者との契約であり、正当な理由なしに契約を履行しなければ、次の選挙で審判を受けることになる。今回のマニフェストを履行することは何を意味するだろうか。第1に、期限付きの数字とともに掲げられた各種の行政サービス水準が達成されることになる。上の例のように住民生活に与える影響が大きい政策について大胆な数値を掲げたものが少なくない。しかしここで問題となるのは、自治体の行政が各種の計画に基づいて、首長の任期に関わりなく進められている現状である。マニフェストの内容はそれまでの計画に載っていないか、それを超えるものであるから、計画を改訂するなり両者の関係を明らかにしなければならない。多くの計画もまた住民の声を踏まえて作成されたはずである。

第2に、マニフェストに掲げられた行政改革が実行されるはずである。事務事業の徹底見直しや職員数削減などの数字の約束は、行政内部の改革の数値目標とは自ずから性格が異なるものであり、首長のリーダーシップによる行政改革の断行が期待される。しかし、そのためには予算を始め行政の根幹のシステムを変えなければならない。その改革抜きに職員減や予算削減など数字合せをすれば行政サービスの低下を招く。

市民の側も問われる。首長・行政は実績についてきちんとアカウンタビリティ(説明責任)を果たさねばならないことはもちろんであるが、同時に市民の側もマニフェストに照らして首長の実績を点検して積極的に声を挙げ、任期終了時には採点して選挙の投票行動を決めるという意識がなければマニフェストを生かすことができない。

地方分権改革が道半ばで、自治体が財政的に自立していないことが、マニフェストの作成を難しくしているのは事実である。だが多くの首長がマニフェストを掲げて地域経営にあたれば、地方の側から分権改革を求める圧力が一層高まるはずである。

マニフェストが政治改革をもたらす可能性

マニフェストは本来候補者個人ではなく、政党が作成するべきものである。英国のサッチャー元首相による大胆な改革は1979年の保守党マニフェストの実行であり、選挙の勝利により保守党の長期政権が実現した。またブレア首相によって現在進められている大胆な政治経済の改革も1997年の総選挙で国民が選択した労働党マニフェストの実行である。そこにはマルクス主義的な社会主義との決別が謳われていた。

一方、日本の今回の統一地方選では、「当選したければ無党派」が通り相場となった観がある。有権者が支持する政党と、実際に投票する候補者を推薦する政党が乖離する現象もみられた。中央依存型の地方自治構造において政策本位の政党が育たなかったことの帰結と考えられるが、地方分権の進展によって事態は変わりつつある。地方議会の改革もあわせて地方政党が地方自治分権改革に果たすべき役割は大きい。

マニフェストが普及・定着すれば、選挙を通じて政治改革が起こる。有権者が首長の実績を採点し、選挙では政党の政策によって候補者を選択すれば地方の政治も変わらざるを得ない。地方自治分権改革は、行政の改革のみでは完結しない。地方の政治改革がなされて初めて分権時代にふさわしい住民自治が確立する。

このマニフェストには中央の一部政党も関心を示している。日本でも各政党がマニフェストを掲げて総選挙を戦うことになれば、同じく英国にならって導入した小選挙区制や党首討論などとは異なり、政治を大きく変える可能性がある。マニフェストとして約束される政党の政策への信頼回復は、政治への信頼回復をもたらすはずである。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF マニフェストが政治と行政を変える可能性 [288 KB]