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制度改革を迫る地方財政の危機

客員研究員 (立命館大学教授)白川 一郎

2003年4月

要旨

とまらない自治体財政バランスの悪化

自治体の財政バランスの悪化が叫ばれて久しい。1997年には、大阪府、東京都、神奈川県、愛知県など大都市が相次いで財政危機宣言をして世間の注目を浴びたことは記憶に新しい。大阪府では、横山前大阪府知事の時代に、このままでは財政再建団体に転落するのでは、との危機感から財政再建プログラムが策定されている。財政再建団体への転落は免れているものの、その後も一向に改善するどころか、むしろ悪化の一途をたどっていると言っても過言ではない。

自治体全体の財政バランスも悪化している。自治体の地方債の負担を示す指標である公債費負担比率は、90年度半ば以降一貫して上昇を続けている。都道府県レベルでは、公債費負担比率は1990年度の11.3%から2000年度には19.2%の水準に達している。公債費負担比率が20%をこえると危険水準であると言われている。47都道府県のうち19の都道府県が20%をこえている状況にある。都道府県の4割が危険水準にあるということを意味している。政令指定都市では、2000年度の公債費負担比率は18.3%だが、神戸市のそれが27.6%と95年の震災以降急速な悪化を示しているのが目立っている。

また、自治体の歳入・歳出面の硬直度を示す指標である経常収支比率も都道府県レベルでは、86.6%(2000年度)と高水準で推移している。経常収支比率の高さは、人件費・扶養費・公債費など義務的な経費に歳入のほとんどがついやされ、新たな行政サービスへの余裕がないことを示している。それだけ、自治体財政の硬直度が高まっていると同時に、財政バランスが厳しくなっていることになる。都道府県別に見ると、顕著な特徴は、財政危機宣言をした東京都・神奈川県・大阪府・愛知県・岡山県など大都市圏の指標が軒並み悪化していることである。大阪府、神奈川県、愛知県などは90年代半ばから既に100をこえている状況である。2000年度のデータでも、神奈川県、愛知県は若干改善してそれぞれ94.1%、99.0%だが、大阪府は102.9%と依然厳しい状況となっている。

このように、問題となっている自治体の危機意識にもかかわらず継続している自治体財政悪化の問題はどのように評価すべきなのであろうか。日本の場合、民間企業のように、たとえ財政的に行き詰まったとしても、自治体が破産するということは想定されていない。詳細は後で述べるが、いわゆる準用再建団体になることが自治体の実質的な破綻と見られている。しかし、それにしては90年代の後半から財政危機が叫ばれているにもかかわらず、現在準用再建団体になっている自治体が存在しない状態はどう解釈したらよいのであろうか。そもそも、自治体の財政収支そのものについても、「形式収支」、「実質収支」更には「実質単年度収支」といろいろなものが存在し、自治体財政になじみのない者にとっては、きわめて分かりにくいのが実情である。そうした統計の透明性や説明責任も問題だが、本稿では、現在の自治体財政の現状をどう評価するか、という点にについて論じたい。

財政悪化の背景は国と地方を通じる制度に

これまで見たように、自治体財政は1990年代半ば以降悪化の度合いを強めている。大都市圏のみならず、市町村も同様に悪化している、のが特徴である。それぞれの自治体によって特殊な要因、個別事情があることは否定できないものの、おしなべて共通して全国の自治体財政が悪化の傾向を強めていることは注目してよい。今日の地方自治体の財政悪化の背景には、国と地方をめぐる財政システムによる制度的要因が大きく影響していると考えられる。

都道府県とりわけ大都市圏においては、92年のバブル崩壊による景気の低迷によって地方税を中心とする税収の落ち込みが大きく自治体の財政を圧迫した。都道府県の税収の3~4割を占める法人事業税は景気の影響を受けて変動が大きいのが特徴である。バブル崩壊によって、大阪府・神奈川県などでは法人事業税は90年度にくらべ、半分以下の落ち込みとなっているほどである。固定資産税などの税収に依存している市町村では、当初都道府県ほどの財政的逼迫を感じなかったのは、そうした違いを反映している。こうした税収の落ち込みに対して、人件費や扶養費などの経常的経費の削減の困難さから経常収支比率が大都市圏を中心に大きく高まったものと考えられる。

都道府県の地方税収入と経常収支比率の関係をプロットしてみると、共通して90年度から95年度、2000年度と年を追って、地方税収の減少と経常収支比率の高まりが見られる。財政危機に陥った大都市圏の経常収支比率の上昇が顕著だが、他の都道府県もおしなべて上昇傾向を強めているという特徴が観察される。

そうしたなかで、1990年代、自治体財政と国の財政との関係がどのように推移してきたかを見てみよう。具体的には、都道府県など地方自治体が減少する税収をどのようにファイナンスしてきたか、を見ておこう。

この点は、都道府県でも大都市圏とそうでないところ、都道府県と市町村で少し内容は異なるが、平均的な姿としては90年代初めの税収の落ち込みはまず地方債の発行によってまかなわれている。90年代景気対策が頻繁に取られたこととも関連がある。現在自治体が発行する地方債は、原則として投資的経費への充当が条件になっているからである。地方債発行のピークは95年度であるが、90年代前半は地方債の発行によって赤字がファイナンスされてきたことを示している。ついで、90年代の半ば以降は地方交付税の増加によって、赤字がファイナンスされてきた。とりわけ重要な点は、90年代に急増した地方債の元利償還の費用を地方交付税で負担する方法が取られたことである。地方交付税の税収源は国税(5税)であるが、これらが落ち込んでいることから、自治体に交付する交付税額と国が徴収する交付税のための税収との間に乖離が生じている。この差額は97年度以降、急増している。この赤字の補填は、これまでは財政投融資からの借入れでまかなわれてきた。その結果、地方交付税特別会計の赤字は累増している。97年以降増え続けてきた地方交付税特別会計の赤字累計額は、2002年度末で46.7兆円となっている。

以上みたように、今日の地方自治体の財政赤字には、国との関係における財政システムそのものが大きく関わっていると考えられる。更に、交付税特別会計の赤字の累増に見られるように、そうした制度そのものが機能しなくなりつつあるものと考えられる。

最近の自治体をめぐる動きの背景には財政危機がある

最近、地方自治体をめぐる動きが毎日のように報道されているが、実はこうした動きの背景にはまさしく自治体の財政赤字の逼迫があると考えられる。自治体をめぐる動きとは、一つは自治体の増税の動きである。現在裁判で係争中だが、2000年に石原東京都知事が導入を決めた銀行への外形標準課税がある。これを契機として、各地で法定外目的税の導入があいついで実施また検討されている。2000年4月に改正された地方自治法の改正によって、法定外普通税(使用目的を明示しない税)の事前協議の要件が緩和されたことに加え、新たに法定外目的税が設置された。地方分権推進会議の委員のなかには、こうした課税自主権は絵に描いた餅で自治体の首長が実施する筈がない、という評価さえなされていた。現実に、数多くの地方自治体で実施に移されているという事実は、まさに自治体のかかえる台所事情の厳しさの現実を反映していると言っていいだろう。普通目的税以外にも、手数料も原則自由に決定できるし、個人住民税についても一定の範囲内で標準税率以上の課税が許されており、そうした超過課税を徴収し始めている自治体も既にある。

二つは、最近の自治体の合併をめぐる動きである。各地の自治体の合併をめぐる話題は毎日のように紙面を賑わしている。地方自治体の数は、現在3,300ほどあるが、政府は2005年度までに1,000程度に減らすことを目標にしている。最近、自治体の合併話が急増している背景に、そうした政府の意図があることは否定できない。1995年に合併特例法の改正が行われたが、この中で合併支援策、よく言われる飴とムチ、が用意されているのである。合併後10年間は、地方交付税を減らさないこと、更に新たな地方債の発行を認める、ということになっている。こうした特例が認められるのは、合併特例法の期限である2005年3月末までに行われた合併市町村に限られる。

人口規模の小さい自治体にすれば、地方交付税が減額されるため、そうでなくても逼迫している財政状況の更なる悪化につながることが懸念されることから、合併話が急増しているものと推測される。政府は、自治体の合併によって事務の合理化が図られること、更に全国で8割をこえる自治体が合併の検討に入っていることを喧伝している。しかし、こうした中央主導の自治体の合併に強い危惧を感じる。現在の地方財政の危機を引き起こしている制度面の改革に何ら手をつけることなく、合併によって現在の財政危機をしのごうとするのが狙いなら、それは自治体財政の将来への深刻な危機を先送りすることにつながるだけだからである。

三位一体の改革は自治体財政改革の絶好の機会

日本の自治体財政は、現在財政赤字の累積過程をたどりつつある。財政赤字のサステイナビリティをはかるプライマリ - バランスの状況からも、そのことが読み取れる。国のプライマリ - バランスも、92年度以降赤字を記録しているが、地方自治体のそれも全く同じである。日本の地方自治体全体のプライマリ - バランスも、92年度以降赤字となっている。つまり、自治体においても経常的な行政サービスを行うために毎年新たな借金を重ねなけれならない状況に陥っていることを示している。

小泉総理は、2003年6月までに「国庫補助金、地方交付税、税源移譲を含む税源配分のあり方を三位一体で改革すること」を確約している。これらの改革は、国土交通省を中心とする各省、総務省、財務省の省益が絡むだけに、その解決には困難が伴うと思われる。しかしながら、上に述べたように、自治体財政の本質的な改革のためには、これまでの延長線上ではない抜本的改革が要請されており、小泉総理の改革への公約は自治体財政改革の絶好の機会になると考えられる。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 制度改革を迫る地方財政の危機 [317 KB]