これからの銀行業と銀行経営
新生銀行 代表取締役社長 八城 政基
2003年4月
要旨
銀行にとって不良債権処理は絶対に必要なことであり、しかも早急に処理しなければならないということは、ここ1~2年の間さかんにいわれている。しかし、不良債権は銀行固有の問題ではない。企業にとっても不良債権といえるものは存在する。例えば、多額の投資を行い工場を作っても、需要がなかったり新しい技術が出てきたりして、収益を生まなくなった場合、その工場は資産として不良になる。要はバランスシートの資産の中身を精査した時、将来にわたって収益が得られる見通しが立たないものが不良資産であり、これを早期に処分しなければならないという鉄則があるのは、銀行にとっても企業にとっても全く同じである。
銀行の場合は、バブル期に土地を担保に貸出を大きく増やしたものの、土地の値段がピーク時の2割にまで下落して担保価値が大きく失われ、しかも日本経済が長期にわたって停滞したことにより、貸出債権が不良化する可能性が高まった。この場合の選択肢は2つしかない。資金を回収するか、あるいは資産が更に劣化する見通しがあるならばそのリスクをカバーする金利をもらうと共に引当金を積みますかである。
しかし日本の銀行はこれまでこのいずれについても積極的に進めて来なかったため、不良債権問題が更に深刻化するに至った。この点については、日本の銀行が企業と特殊な関係にあったこと、つまり銀行が株主であると同時に債権者でもあり、かつ人の面でも深く関わったことにより、本来あるべき経済原則を通せなくなったという事情が深く関わっている。
不良債権問題は、十分な収益を生まないものにお金が張りついてしまっているという現象であり、まずそのよどみを取り除くことが必要である。しかしそれだけでは日本経済の問題は解決しない。企業が投資したものは必ず利益を生み出すという状態に戻す必要がある。企業が強くなってよりよい業績をあげるようになれば、銀行の状態も自然とよくなっていく。
アメリカもかつて不良債権問題を抱えたが、それを短期間で解決することができたのは、経済システムの仕組みそのものによるところが大きい。銀行でも企業でも収益を生まない資産を長く抱えているということはない。また、企業と銀行の関係も、ビジネスに根差した関係を第一義的にしており、理屈に合わないことはやらないという関係にある。
日本では、銀行の社会的公共性という側面が強調され、困った時に助けるのが銀行の役割といわれるが、この時問題になるのはどういう原因でどの程度困っているかということである。銀行が見極めをつけた上で、やり方によってはよくなるという見込みがあれば助ける意味がある。ところが銀行は、膨大な借金を抱えたままリストラも不十分な状態で債権放棄を求める企業に対し、安易にそれを認めているケースが散見される。こういう場合、銀行は過去からのしがらみなど経済外的な理由によってそうぜざるを得ない状況に陥っているケースが多いが、それは銀行の経営責任を放棄していることになる。
銀行が調達している資金は、預金者や株主のお金であり資本市場から調達しているお金であって、その大部分は返済しなければならないお金である。それをどう使うかは重要な経営判断、経営責任の問題である。大きな企業はつぶせないといわれるが、放っておけば縮小均衡に陥るのは確実であり、手遅れにならない早いタイミングで法的整理を含め思い切って手術をすれば、かなりの部分はよい方向に向かう。
ようやく日本の銀行もそうした方向に向かい始めているが、現在の銀行の経営者が求められているのは次の2つの点である。1つは不良債権の処理であり、厳格な自己査定をして不良債権の処理を宣言することである。もう1つは、その結果として自己資本が不足するが、不足分を調達するということである。
資本を調達する方法は、縁故先を中心とする方法と市場から調達する2つの方法があるが、後者の場合、新たな投資家から資金を募るのだから、その結果として1年後、2年後、3年後に銀行をどういう姿に持っていくのか、その経営目標を数値によって明確に示す必要がある。しかし日本の銀行は、まだこの点について十分とはいえない。
更に、これからの銀行経営では、収益の源泉をどこに求めるのかという点について、改めて問い直されていくことになるだろう。その際、重要な点は、個人、法人を問わず、お客様の求めるサービスがどのようなものであるかに十分耳を傾けることである。
日本経済が置かれている環境の中で、今、法人企業が一番困っていることは何であるかというところから始まる。銀行がこういうサービスを提供したいといっても始まるものではない。相手の持っている経営問題、あるいは金融面で困っている点について解決策を提供することが求められている。それにはお金の問題もあるし、知恵の問題もあるだろう。
個人についても、お客様の求めているサービスは何であるかに立脚する必要がある。また、個人向けサービスについては、インフォメーションテクノロジーを徹底して活用すれば、お客様のニーズに合ったきめ細かなサービスを迅速かつ低コストで提供することができる。
こうした意味で、銀行のサービスは、銀行を使う人が決めるものであり、銀行自身が決めるものではない。銀行もごく普通の商売と同じであるという原点から出発しなければならない。
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