XBRL : グローバル経済において無限に拡大する役割*
富士通総研 理事長 福井 俊彦
2003年1月
要旨
XBRL第6回国際大会が東京で開催されることを喜び、心から歓迎いたします。また皆様の前でお話させていただく機会を賜り、大変光栄に存じております。
9月11日以降「世界が変わった」といわれる中で開催される今回の会議は、一段とその意義が大きいと考えます。
テロとの戦いは昨年9月11日にあのように忌まわしい姿で始まり、今なお続いており、今後も世界の人々が新しい平和の到来を確信するまで続く、正に、「見えざる敵に対する終りなき闘い」がその本質であります。
世界がどう対処していくか、全ては今後の課題とも言えますが、これを切っ掛けに世界は変わったと受け止めている人が増えています。私もそのように感じている一人であります。
変化の第1は、新しいグローバルガバナンスの模索が始まったことです。
冷戦時代とは、平和の概念も平和を追求する仕方も相当に変わった、との認識がその背景をなしています。米国の強いリーダーシップに期待するところが大きい点は、変わらないとしても、地球上の多くの国がグローバルガバナンスへより主体的に、より積極的に参画するよう求められるようになりました。
日本も、グローバルガバナンスへの参画については、冷戦時代はいわば「米国の蔭に寄り添う」貌でありましたが、9/11後は、自衛隊のインド洋への派遣、先般の日朝首脳会談(9月17日)とそれに続く日朝国交正常化交渉開始に代表されるように、世界に向けてより明確にコミットメントする方向へ踏み出しています。
変化の第2は、経済のグローバリゼーションの変質です。
テロが発生する源として、地球上に経済のグローバリゼーションの恩恵に浴せない人がいる、つまり「貧困」「貧富の拡大」を指摘する向きが多い。それはおそらく正しい指摘だと思われますが、私は、より本質を尋ねると、地球上に住む全ての人々の価値観の相克の問題に行き当たる根深い問題ではないか、と感じています。
80年代の後半以降特に90年代の経済のグローバリゼーションは米国経済の圧倒的なパフォーマンスにリードされ、世界経済に大きな潮流変化をもたらしましたが、底流において米国の価値観とその他の国に住む人々の価値観との相克が始まっていたように思います。9月11日のテロ事件と既にその前から始まっていた米国経済のハイテクバブルの崩壊は、グローバリゼーションの流れをより複雑なものへ、即ち、地球上に住む全ての人々の価値観のぶつかり合いを通じて、より高度の価値観を追い求めるという風に、進化させ始めているのではないか、そういう予感がいたします。
80年代後半以降世界の経済や社会に大きな潮流変化をもたらしたグローバリゼーションとICT革命の進展は、既に9/11以前の段階で、世界中の企業に地球的規模での競争激化をもたらし、価格支配力の喪失を余儀なくさせることにより、収益の源泉をより多く付加価値の創出に求めざるを得なくなったと実感させるにいたりましたが、更に9月11日後は、複雑なグローバリゼーションの中では、付加価値創出をもたらすイノベーションにおいて、テクノロジーに加えいわゆる知識創造のウエイトが必然的に上昇してくるものと考えられております。
要するに、これからの世界で求められているのは、人々が探し当てた新しい価値を現実のものとすること、つまり創造的な事業展開です。技術と知識のイノベーションを伴うことなくこれを実現することは不可能です。
今申し上げたとおりICTは80年代後半以降グローバリゼーションと並行して著しい進展を示しましたが、90年代後半に到り米国でバブル化しました。日本を含むその他の国々においてもICTの進展、とりわけインターネットの普及は目を見張るものがありますが、企業活動の面で真にこれが有効活用されるところまで到っていないのが実情です。
21世紀は、付加価値創出の最前線で世界中の企業が鎬を削る時代と考えられています。その中で、ICTは知識創造や、付加価値創出のプロセスを演出し、またインフラストラクチャーを築き直すことによってクオリティーや規律の高いレベルで企業活動をサポートするなど、真価を発揮するものと期待されています。
ここで日本経済の置かれている状況に少し触れたいと思います。
日本経済は、今年の初め以降世界経済の動きに助けられ緩やかな回復過程を辿っておりますが、先行きの持続性に確信が持たれるところまではきておりません。日本銀行の供給する多額の流動性も目下のところ企業や金融機関の行動を活発にする方向には使われておらず、これは日本経済が「流動性の罠」から脱却し切れていないことを示唆しています。つまり、日本経済は高度成長型の古い経済モデルから知識創造型の新しい経済モデルへの移行の谷間にあって様々な苦難に逢着し、資源の移動が極めて鈍くなっている状況です。
新しい経済モデルへの脱皮を目指して、私達は懸命の努力を重ねてきましたが、「失われた10年」といわれているとおりこれまで相当長い時間を費やしたことも事実です。しかしながら、日本経済は世界一成熟した経済であること、人口動態の変化により間もなく総人口が減少過程に入ることなど、わが国特有の厳しい条件を考慮にいれると、「高成長でなくとも芯の強い経済へ」の移行プロセスを格段に加速することがいよいよ喫緊の課題となって参りました。改造後の小泉内閣において不良債権問題の処理を含む構造改革の政策体系全般について見直しが行われつつあるのもこうした事情を背景とするものです。
わが国においてもICTの普及は近年相当のスピードで進んできました。特にインターネットの普及は企業段階ではほぼ100%近くなったと申せましょう。これから経済全体の構造改革が本格的に加速されていけば、その中で企業はインターネット普及をベースにBPR、CRM、SCM、ナレッジマネジメントなどを一層積極的に展開し、またニュービジネスの台頭も飛躍的に増加するなど、価値創造の花が急速に開くようになることでしょう。
XBRL(eXtensible Business Reporting Language)について、私の理解するところは次のとおりです。
コンピュータに蓄積されている財務データを、現在ホームページのベースになっている言語HTML(Hyper Text Making Language)でなく、新しい言語であるXML(eXtensible Markup Language)により処理するように改める。そしてこの言語の標準化を進めることにより、世界中のコンピュータ上のデータベースに格納されている財務情報があたかも一つの場所にあるかのように扱うことができるようにする(情報のサプライチェーン化)。これが即ちXBRLだと承知しています。
これは、専門家のご説明のとおり、企業のビジネスサポートの仕組み、資本市場における上場企業の財務情報開示、非公開・中堅中小企業の信用情報充実、金融機関による企業信用情報の処理の仕方、金融監督当局によるオフサイトモニタリングの手法、更には電子納税の仕組みなど、非常に広い範囲に亘り予想以上に大きな変革を引き起こす可能性があるのではないかと思われます。
特にわが国の場合には、XBRLは、今後における金融機関の企業信用情報処理の仕方との関係で、決定的に重要な意味合いを持っているものと考えられます。
ご承知のとおり、現在わが国においては、政治、経済、社会の全体に亘り大幅な構造改革が進められていますが、金融面では、高度成長時代に有効であった間接金融主体の金融の仕組みから、知識創造時代に相応しく市場機能をより積極的に活用する金融の仕組みへの変革が促されようとしています。そのエッセンスは、金融機関融資においても市場を通ずる直接ファイナンスにおいても、企業の価値とリスクプロファイルをより正確に見極め、それに見合ったリスクテイクとリスク分散が行われるところにあります。金融面で今我々が取組んでいる課題については、不良債権問題の処理やオーバーバンキングの是正といった重苦しい表現で語られることが多い訳ですが、苦しくともこれをやり遂げれば、その先はこうした新しい金融の仕組みに到達するという明るい展望が待ち受けていると確信しております。
金融機能のウエイトが金融機関融資から資本市場を通ずるファイナンスに移ると中小企業金融にとって不利な環境となるのではないかと懸念される向きもありますが、この点でもXBRLは重要な役割を果たす可能性があります。中小企業の財務データがオープンに利用可能となれば、従来のように過度に担保に頼ることなく、個々の中小企業の財務の健全性やキャッシュフローの予測といった客観的な判断に基づいて融資が行われるようになるでしょう。また中小企業の売掛金債権を流動化するなど中小企業金融に市場型の新しいファシリティを導入していく際にも、XBRLは投資家に客観性と信頼性の高い信用情報をもたらすことにより、その促進に大きく寄与するものと考えられます。
XBRLの持つこうした特性は、構造改革推進中のわが国金融システムだけでなく、企業会計不正問題の解決を急ぐ米国をはじめ世界各国の金融システムをより望ましい姿に改善していく上に、優れた力を発揮していく潜在性を秘めています。
わが国には、XBRLの標準化を進めていく上に必要な技術的蓄積が十分あると聞いています。今回のXBRL国際大会を契機に、我々としては更に研鑚と努力を重ね、「XBRLが、世界経済の舞台において将来支配的な役割を果たし、特に金融の効率性を高め、金融の規律を強化させるものとなる - XBRL will enjoy its future predominance on the stage of the global economy; especially, it will enhance financial efficiency and strengthen the self-disciplinary nature of the financial community」よう、その実現を期して参りたいと念じます。
XBRL東京大会の成功を祈りつつ、私の話を終えたいと思います。ご静聴誠に有難うございました。
*本稿は、「第6回XBRL国際会議、東京」(2002年11月13日)における講演内容をまとめたものである。
全文はPDFファイルをご参照ください。
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