中国資本市場開放の第一歩
- QFIIの導入
主任研究員 柯 隆
2003年1月
要旨
WTO加盟と資本市場開放の必要性
中国において証券市場が設立されて既に10年以上の歳月が経過した。その間、上場企業は1,212社(2002年9月末現在、上海と深センの合計)に増加し、証券市場の時価総額は金融市場全体の4割を占めるようになった。今や株式や社債の発行に伴うファイナンスは、企業にとり銀行借入に次ぐ重要な資金調達手段となり、証券投資も家計にとり銀行預金に次いで重要な投資手段となっている。
一方、資本市場が急速に拡大するなかで種々の問題も明らかになっている。第1に上場企業の多くが国有企業であり、これらの国有企業の経営悪化が目立っている。第2に発行済み株式の3割程度しか流通しておらず、上場企業のテイクオーバーが認められていないため、企業経営へのガバナンスが確立されていない。第3に、投資家全体の90%は個人投資家であり、機関投資家の不在により市場が操縦されやすく、投資家からの信認が得られていない。第4に上場企業による経営情報の開示が正しく行われていないため、市場は極端に不安定化する傾向にある。このほかに、政府は証券市場を国有企業救済のための資金調達手段として位置付けており、政府による市場介入は逆に市場の健全性を損なっている。
これらのことを背景に、資本市場が更なる発展を遂げるためには、上場基準、情報開示、証券監督などはグローバルスタンダードに則って行われる必要がある。特に、WTO加盟を、資本市場を外資に開放し資本市場の歪みを是正するきっかけとして捉えるべきである。
中国は外貨流失と海外からの投機を防ぐために、上場企業の株式を、国内投資家向けのA株、海外投資家向けのB株と海外上場株式H株に分類している。それぞれの市場が寸断されているため、同じ企業の株式でも株価水準が異なるという不自然な現象が生じている。すなわち、中国人と外国人はそれぞれ投資できる市場が異なるため、A株とB株を同時に公開している企業についても株価水準が一致しないということである。このような不自然な現象を是正するために、2002年2月以降国内投資家に対してB株市場が開放されたのである。長期的にみれば、金融市場の対外開放の一環としてA、B、H株の市場がいずれ統合され、外国人にA株市場も開放されると予想される。
QFIIによる資本市場の開放
中国の資本市場の現状を踏まえて考えれば、資本市場開放のメリットが多い反面、小さくて未成熟な資本市場を無防備に開放することは、大規模なspeculation(証券投機)にさらされ、金融不安が起きるリスクも孕んでいる。しかも、中国は人民元の為替相場が事実上米ドルに対して固定されているため、現状においては、資本市場の全面開放は投機を誘うようなもので、1997年7月にタイを発端とする通貨危機の徹を踏む恐れがある。したがって、資本市場の開放は漸進的に行われる必要があり、中国で検討されているのはQFII(Qualified Foreign Institutional Investors)方式による資本市場開放である。
QFIIのメリットは、[1]大規模な投機を食い止めることができること、[2]外資の進出によって国内資本市場の健全性が維持されること、[3]国内の資金不足を外資によって補うことができることなどにある。そして、国内資本市場を開放することによって、外国投資家にとり中国経済の高成長のメリットを享受するチャンスを与えることもメリットとして指摘されよう。
ここで重要なのは、外国の機関投資家が適格かどうかを認定する基準を明確にすることである。これについては、世界を代表する投資銀行(証券会社)が対象となり、その規模、取引実績、粉飾スキャンダルの有無などが重要な参考となろうが、現実的には、欧米と日本の最大手投資銀行のなかから選ばれると予想される。
もう一つ重要なポイントは、これら選ばれる投資銀行との取引についてどのような基準を設けるかである。考えられるのは、[1]会社登録手続き、[2]業務範囲、[3]取引規模、[4]海外送金手続きなどの規制により、投機などの不正を事前に防ぐことができるようにすることである。QFIIを導入する狙いは、大規模な証券投機を防止し、急激なキャピタルフライトを防ぐことであり、証券監督当局は上記の諸条件の設定について必要に応じて調節することができる。
中国資本市場開放への日本の対応
QFIIの導入に伴い、新たな政策変更も予想される。1つはこれまでのところ国有企業に限定されてきた株式上場が民営企業や外資企業にも拡大し、日系企業を含む外資企業の資金調達方法が増える。もう1つはQFII導入と同時に、国内の証券会社による外国証券市場へのアクセスもQDII(Qualified Domestic Institutional Investors)の導入を通じて認められることである。すなわち、ニューヨークや東京などの証券市場において、中国の投資家はQDIIを通じて投資できるようになる。
ここ1年来、日本において中国証券市場の発展が大きく注目されており、中国企業の株式への投資も増えているといわれる。日本には1,400兆円の金融資産があるといわれ、中国企業の株式への投資は今後大きく増加する傾向にある。特に、日系企業による中国市場への上場が認められれば、その株式への投資は日中間の経済相互依存の強化につながるとともに、日系企業の中国投資のメリットが日本の投資家にも還元される。
また、中国には2,500億ドルあまりの外貨準備と1,400億ドルの外貨貯蓄がある。これらの外貨流動性の多くは米国債に投資されている。QDIIの導入により、中国の外貨建てファンドによる日本企業の株式への投資も期待される。このような動きを促進するには、日中両国政府と金融当局の協力が欠かせない。
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