欧州におけるエネルギー安全保障
主任研究員 武石 礼司
2003年1月
要旨
英領北海からの石油とガスの生産が頭打ちとなったことを受けて、欧州では、再びエネルギー安全保障の確保に対する深刻な懸念が表明されるに至っている。
日本は石油供給の中東依存度が高いことが大きな問題であるが、日本及びその他アジア諸国と比べて、欧州では、特定の国にエネルギー供給を依存する度合いは圧倒的に低い。このように供給源の分散化策が積極的に取り入れられており、ある程度成果が出ている欧州であるが、従来欧州での石油とガスの域内における生産の中核を担った英領北海の供給量がはっきりと減少に向う傾向が明らかとなったために、エネルギーの域外依存度の上昇が再び懸念されるに至っている。
欧州においてエネルギー安全保障の確保のために真剣な議論が行われている現状を教訓として、日本においても、アジア全体を視野に入れたエネルギー供給源の分散化と、安定的なエネルギー確保、環境負荷の低減を達成するための方策実現に向けて議論を深めていく必要がある。
欧州におけるエネルギー問題
欧州諸国は旧ソ連邦諸国の崩壊が決定的になるとともに、欧州エネルギー憲章を制定して、近隣諸国からのエネルギー供給の確保を目指すと共に、近隣諸国との政治的な安定性を維持する最大限の努力を払ってきた。EUによる通貨統合が成功裏に推移し、EU加盟希望国が中東欧諸国を始めとして多く存在している欧州であるが、域外からのエネルギー供給にある程度依存せざるを得ないという構造に変化はない。
日本を始めとしたアジアの多くの諸国と比べると、欧州は域内からの石油とガス生産も一定程度維持されており、エネルギー供給の域内自給率も高い。それでも、当面ロシアに対するガス依存度が拡大することが、どのような地域内での政治的・経済的な意味を持つか、現在分析が熱心に行われており、国際会議でも特別のセッションが設けられて検討が行われる例が見られる。
北海の石油生産
北海油田の英国側における石油生産量が、1999年の290万バレル/日をピークとして減少が止まらなくなっており、2001年の生産量は250万バレル/日となっている。石油の確認可採埋蔵量も、2000年末で50億バレル、2001年末が49億バレルであり、生産された分だけ減少し始めている。1981年末に148億バレル存在していた英領北海の今後の埋蔵量の増大は不可能となっている。生産可能な年数も、現状の埋蔵量と生産量の比率から見ると、5.6年に止まる。ノルウェーにおいては、英国側よりは埋蔵量が多く、2001年末で94億バレルとなっている。生産可能な年数は7.8年となる。
北海の天然ガス生産
天然ガスの生産量も英国側では減少が始まっている。英領北海からのガス生産量は、2000年がピークで、年間1,083億立方メートルであった。2001年には1,058億立方メートルに低下しており、今後も2000年のピーク生産量まで回復することはないと見られている。
一方、ノルウェー側からのガス生産量は増大中である。2001年の生産量は575億立方メートルに達し、オランダのガス生産量を抜くのは時間の問題となっている。埋蔵量もノルウェー側の1兆2,500億立方メートルに対して、英国側は7,300億立方メートルであり、英国の1.7倍の埋蔵量がノルウェー側に存在している。英国のガス生産可能年数は6.9年となる。ノルウェー側の21.7年と比べても、英国側は資源枯渇が近付いている。
EU域外からの石油とガスの輸入
欧州は2001年に、933万バレル/日の原油と220万バレル/日の石油製品を輸入した。輸入先は、最も多いのが367万バレル/日の旧ソ連圏諸国からで、次いで、中東から355万バレル/日となっている。軽質原油が多いアフリカ諸国からの輸入量は266万バレル/日である。欧州域内における石油生産量が680万バレル/日あることから、石油における供給先の分散策が採用されており成功している。
天然ガスについては、欧州域内からの供給量は2001年で2,925億立方メートルであり、一方ロシアから、パイプラインにより1,269億立方メートルのガスを輸入している。地域別の内訳は、西ヨーロッパが757億立方メートル、中東欧が383億立方メートル、トルコが109億立方メートルである。
その他、アルジェリアからジブラルタルを越えるパイプラインにより306億立方メートルのガス輸入が2001年に行われている。液化ガス(LNG)も、アルジェリアから201億立方メートルが欧州向けに輸出され、トルコに向けても36億立方メートルが輸出されている。アフリカからは、ナイジェリアから68億立方メートルのLNGが、またリビアから8億立方メートルのLNGが欧州向けに輸出されている。
エネルギー需給
域内需給率が高い欧州において、英領北海からの石油とガスの生産量が減少に向かうことが明らかになった途端に、エネルギー安全保障に関する議論が急速に高まってきている。
欧州では、エネルギー自給率が低下することが、政治的・経済的な地域のバランスに即座に影響する点が広く認識されている。英領北海の生産減は、ロシアへの石油とガスの供給依存度の上昇に繋がるが、これは容認できる水準であるのか、取引市場への影響度はどうか、供給価格は上昇するのか、他の供給源への影響はどうかが検討されている。更に、将来のエネルギー源の選択に対しても影響が生じるのか真剣な議論が続けられている。
このように欧州ではエネルギー安全保障に関して真剣な議論が行われており、アジアにおいてもエネルギー供給の安定性確保に関する議論を更に深めていく必要がある。
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF 欧州におけるエネルギー安全保障 [118 KB]
