実行段階に移行する環境開発問題と日本の課題
主任研究員 生田 孝史
2003年1月
要旨
理念共有から計画実行へ
南アフリカのヨハネスブルグにおいて開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(環境開発サミット)」が、実施計画と政治宣言を採択して2002年9月4日に閉幕した。このサミットは、1992年の国連環境開発会議(地球サミット)で採択された行動計画の実施状況や、新たな課題等を検証して、今後の取組みの強化を図る目的で開催されたものであり、約190の国・地域が参加する史上最大規模の国際会議となった。
地球サミットからの10年間で国際社会が直面した新たな課題として、[1]大量生産・大量消費パターンと貧困の拡大による地球環境の悪化、[2]グローバリゼーションの進展や情報通信技術の発達による恩恵の不均等な共有、が挙げられた。特に、途上国の貧困問題が大きくクローズアップされた。
環境開発サミットでは、これらの課題に対する新たな取組みを促す提案が期待されたが、結論から言えば、新制度の採用が少なく、新味に乏しかった。152項目からなる実施計画も、全体的には抽象的な記述が目立った。貧困撲滅のための世界連帯基金創設に加えて、基礎衛生、生物多様性、化学物質問題については目標年限が設定され、実効性が担保された。しかし、ODAの拠出目標はGNP比0.7%に設定されたが達成期限なし、途上国への貿易上の優遇措置もWTOドーハ閣僚宣言を超えない範囲となり、EUが目指していた再生可能エネルギーの普及も数値目標導入は見送られた。
持続可能な開発という理念の共有が主目的であった地球サミットに対し、環境開発サミットでは計画の実行へ軸足を移したため、各国間の利害の複雑な対立が表面化し、具体性に乏しい結果となったといえよう。また、貧困問題から環境問題、グローバリゼーション、人権問題まで取り扱われ、議論が拡散してしまった面も否めない。
とはいえ、最終的には各国首脳が地球の危機に共同で対処する認識を示し、合意を優先したことは一定の成果と言える。実務レベルで計画の実効性をいかに上げていくかが、今後の課題となろう。
京都議定書発効の確実化
環境開発サミットの間接的な成果は、京都議定書の発効がほぼ確実となったことである。当初、環境開発サミットでの京都議定書の発効が目指されていたが、日本やEUが既に議定書批准を終えたのに対して、アメリカの議定書離脱に加えて、議定書発効のキャスティングボードを握ったロシアが態度を表明しなかったことから、ヨハネスブルグでの議定書発効は絶望的とされた。しかし、環境開発サミットの場で、ロシアとカナダが2002年末までの批准を表明したことによって、2003年前半の議定書発効がほぼ確実となったことは大きな前進である。
更に、将来の温室効果ガス排出大国と想定される中国とインドがサミット会期中に議定書に批准した。当面は、温室効果ガス削減目標の設定対象とはならないが、議定書参加の背景には、先進国からの技術移転や資金供給を獲得できるという短期的なメリットに加えて、環境問題への対応が国益につながるという意識の変化が読み取れる。一方、議定書への不参加路線をつらぬくアメリカは、一層、孤立感を深めている。
とはいえ、削減目標を持つ議定書批准国の2010年における二酸化炭素排出量は、全世界の排出量の3割に過ぎないと予想されている。ブッシュ政権が継続する限り、アメリカの議定書への参加は見込めない。また、途上国への削減目標設定についても、先頃、インドで開催されたCOP8では、先進国と途上国の対立が先鋭化し、具体的なプロセスが明示されなかった。議定書発効が確実となったとはいえ、当面、一部先進国による片肺飛行となり、温暖化対策の実効性確保に向けた努力はしばらく続く。
北九州イニシアチブの評価から学ぶもの
日本は、環境開発サミットにおいて、各国政府等による自発的な取組みを示す約束文書に、10分野29項目のプロジェクトを登録した。特に、途上国への貿易や環境分野での人材育成を約束して存在感を示した。今後は、これらのプロジェクトの円滑な遂行と成果が問われることとなろう。
日本にとってサミットでの重要な成果の一つは、実施計画において北九州イニシアチブが明記されたことではないだろうか。北九州イニシアチブの国際的な評価は、今後の開発・環境分野における日本の進むべき道を示唆している。
北九州イニシアチブとは、都市間協力による地域主導の環境改善を進めるための仕組みである。北九州市における公害克服・都市間協力の経験を参考にして作成され、現在ではアジア太平洋地域の15ヵ国43都市が参加し、成功事例の収集・分析、対策移転のパイロット事業の実施、ネットワークの構築が行われている。
このような地域レベルの成功体験に基づくプログラムが、世界的に評価され、先進事例として他都市に移転していくことは、開発・環境分野における政策・技術分野での日本の潜在力を示すものである。地域・民間主導による多様なプロジェクトの提案力を培うことが、国内の環境問題を改善するばかりか、国際社会での存在感と競争力強化につながるという確信を日本は持つべきである。今後重視すべきことは、地域あるいは民間レベルで様々なアイディアを生み出す土壌を整備することであり、そのための試行錯誤を許すことではないだろうか。
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF 実行段階に移行する環境開発問題と日本の課題 [91.6 KB]
