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都市圏の自治体、高齢者との共生が政策課題

上級研究員 楜沢 徹郎

2003年1月

要旨

高齢者、地域移動を活発化

進学、就職、結婚など若いうちは引っ越す機会が多いが、中高年ほど定住する傾向が強まる - 人口移動のこうした定説に、変化がみられるようになってきた。居住地を移す高齢者が増えているからだ。

高齢者の存在感は急速に強まっている。2000年国勢調査の結果をベースとした2002年国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、65歳以上人口は2018年で3,417万人に達する。その一方で分母となる総人口は2050年に1億60万人と、21世紀前半の40年あまりで27%近く減少、その結果、高齢者比率は2050年に35.7%となる。

高齢者比率を都道府県ごとにみると、現在最も高い島根(25.2%)と最も低い埼玉(13.2%)では12ポイントの差がある。また秋田、山口、高知、島根は全国平均より18年も早く、高齢者比率が30%台に達する。高齢化の進行状況は、都道府県の単位でこれほど違う。市区町村でみて、格差がさらに広がることは間違いない。

市区町村レベルでの高齢者比率は、他地域からの転入(転出)によっても変化する。高齢化を予測するうえでも、高齢者の移動実態把握が、ますます重要となってきた。

人口移動を時系列で追った統計としては「住民基本台帳人口移動報告」「国勢調査」(いずれも総務省)、人口問題研究所が5年ごとに行う「人口移動調査」がある。

1991年の移動調査をみると、5年前と居住地が異なる人の割合は20代がピークで、加齢に従って男女とも低くなった。このパターンはしかし、1996年調査で変化している。女性については55~59歳、60~64歳の移動率を、65歳以上の移動率が上回った。国勢調査でもこの傾向は裏付けられている。65~69歳の移動率は、1990年の8.9%から2000年の10.2%へ上昇した。

高齢者移動、都市部で顕著

高齢者の移動を考えるうえで、出生から65歳までの移動経験も重要だ。年を取るほど増える、と単純に割り切れるものではなく、育った時代や、選んだ職業によって大きく変わる。例えば、現在56~60歳の男性は、高度成長期に青年時代を過ごし、事業の拡大による転勤などで日本全国をわたり歩いたためか、移動回数で年上の世代を凌いでいる。また現在41~45歳の女性は、就職期が男女雇用機会均等法スタートと重なっており、同年代の男性より移動回数が多い。さらに第3次産業の従事者層は第1次産業の3倍近く移動していた。

このように高齢者移動は、都市圏でより顕著に現れやすい。既に1980年代からその兆しはあった。背景として、高度成長期に地方から都市部へ就職した層が退職期にさしかかり、その一部が出生地へUターンを始めたことなどが指摘されている。

さらに近年の現象として、高年齢での離婚がある。「人口動態統計」(厚生労働省)によると、届け出のあった65歳以上の離婚は、1998年だけで5,000件以上に達した。離婚による夫婦別居も、移動率の上昇に関与していそうだ。また福祉面でも、在宅ではなく施設での介護サービスを選んだ高齢者が、入所施設の充実した都市部へ住民票を移し始めたことも見逃せない。

福祉政策、全体像の周知徹底を

今後、移動に関する考えが柔軟な高齢者が、都市圏を中心に、よりよい行政サービスを提供する(と評価された)自治体へ、集住していく可能性は十分ある。

全国規模の調査こそまだ少ないが、自治体レベルでは、高齢者の移動理由を明らかにする試みが始まった。例えば、住居をバリアフリー仕様に改造した際の助成制度や、65歳以上人口当たり特養老人ホーム入所者数2位(23区)など、高齢者施策の手厚さで知られる江戸川区では、(社)エイジング総合研究センターが、65歳以上の転入者にヒアリングを実施した(1998年度)。回答者の42.3%が「自発的な転入だった」と認め、江戸川区を選んだ理由として「福祉サービスの充実」を上位に挙げている。

高齢者の過度の流入は、自治体にとって財政の圧迫要因となる。障害者や保育世帯など、福祉サービスの対象となる分野は幅広いだけに、高齢者への福祉偏重は地域の反発を招きかねない。しかも都市圏の住民ほど、そうした意識が鋭敏だ。江戸川区が成功しているのは、福祉行政の政策決定過程を可能な限りオープンにし、公聴会を重ねるなど、区民とのコンセンサスづくりを絶えず心がけているからだ。

これからの自治体は住民との対話をより一層密にし、高齢者との共生をうたった、バランスのよい「福祉行政の全体像(グランドデザイン)」を周知徹底させていく努力が欠かせない。自治体内での世代間対立の先鋭化が、他地域への転出(逃避)につながるというシナリオすら、十分に現実味を帯びてきたからだ。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 都市圏の自治体、高齢者との共生が政策課題 [101 KB]