「日本型アウトプレースメント」は定着するか
主任研究員 浜屋 敏/吉田 倫子
2003年1月
要旨
アウトプレースメント(再就職支援)企業が注目を浴び、様々なメディアで取り上げられている。業界はこの2~3年で30~50%の勢いで事業を拡大してきており、市場規模は昨年で250億円から300億円ほどになる。5年で1,900万人の転職が必要だといわれる昨今、労働市場の流動性を高め、労働力のミスマッチを解消するためにも、アウトプレースメント・サービスは重要性を帯びてきている。しかし、業界は現在「アウトプレースメント・バブル」のような状況に陥っており、必ずしも良質のサービスを提供している企業ばかりではない。米国生まれのアウトプレースメント・サービスがわが国で定着するためには、いくつかの重要な課題を解決する必要がある。
欧米型サービスと日本型サービスの違い
アウトプレースメントとは、雇用の継続が困難になった社員に対して、元の雇用主が費用を負担し、離職に伴うさまざまな問題の解決を支援する民間企業のサービスである。米国で一般的に行われているサービスはカウンセリング重視であり、専門のカウンセラーが、職業生活の総括と展望、職務経歴書の書き方指導等、キャリアに関するカウンセリングを行う他、時には人生の価値観等に関する相談まで踏み込んで精神的なケアやサポートを提供する。これまでは主に契約企業向けのサービスとして行われていたが、最近では一個人が利用できるサービスもなされるようになっている。
わが国では「日本型アウトプレースメント」と称し、カウンセリングに加えて、再就職先の紹介まで行うのが一般的である。米国では、アウトプレースメント企業が再就職先の斡旋までする必要性はない。わが国では、特に中高年労働者が新しい職を見つけるのは容易ではなく、しかも元雇用主が社会的道義性を果たすことの倫理価値や雇用責任を意識し、再就職が決まるまでアウトプレースメント会社が面倒を見てくれる事を求める傾向がある。したがって、再就職の実績ばかりが注目され、サービスの内容が疎かになっている場合もあるようだ。また、心理学を専攻した専門的なカウンセラーも欧米と比較してまだまだ少ない。更に、日本では、転職に失敗した場合の再転職まで踏まえてサービスを無期限で提供している場合が多いのに対して、米国ではサービスに期限が設けられている点も、大きな違いの一つだと言ってよいだろう。アウトプレースメントの位置付けにも、日本と欧米では違いがある。欧米では訴訟回避や福利厚生の一環としての常識、また人員整理時のコスト削減(退職割増金や賦課金等を含めてもアウトプレースメント・サービスを利用する方がコストが安いため)となっているが、日本ではまだまだ「リストラ社員の行き着く先」のように認識されていることも否めない。サービスの価格の面でも大きな違いがある。日本での利用の平均単価は1人当たり1年のサービスで100万円前後であるのに対して、欧米では3~4ヵ月の短期サービスが$5,000以下で提供されているところもあり、利用しやすい料金体系になっている。日本ではアウトプレースメント・サービスを利用できるのは資金に余裕のある大企業が中心で、中小企業が利用することは難しい。
定着のための課題
アウトプレースメント企業がそのメリットを十分に実現するためには、質の高いカウンセリングを提供できる能力を保持することが不可欠である。ところが、わが国のアウトプレースメント企業の中には、宣伝と実際のサービス内容とのギャップが大きい企業もあり、社会的な不信感を招きかねない状態になっている。アウトプレースメント・サービスがわが国に定着するためには、まずアウトプレースメント企業自身が一時的な事業機会を獲得するために量的拡大に走るのではなく、質の高いサービスを提供できるような体制を整える事が必要である。産業カウンセラーや、厚生労働省が進めているキャリアカウンセラーというのもあるが、その量も質も現段階では十分とは言えない。また、スキルスタンダードが見えて来ず、カウンセラーとみなすその明確なスタンダードの設置が求められる。
前述したように、わが国ではアウトプレースメント・サービスを受けることのできるのは大企業が中心で、中小企業も利用できるような環境を整えることも必要だろう。2001年12月から、アウトプレースメント企業を利用した企業に対して、1人当り30万円を上限として支援金を出すという「再就職支援会社活用給付金」制度も始まった。しかし、給付を受けられる条件が厳しく、現実にはなかなか利用されにくい。また、そもそも雇用保険に加入していない企業は最初から給付金の適用外である。地方公共団体や公的機関で提供している無料で受けられるサービスもあるが、受講者数の上限枠が設けられており、利用できる人が限られている。職員の質やサービス内容などの棲み分けが問われる。
厚生労働省は、本年度よりハローワークの求職者を対象とした再就職支援策として、大学や大学院に教育訓練を委託する制度の運用を開始した。多様な機関を利用してアカデミックな知識を身に付けるという目的と、大学における新たなサービスの模索が背景にある。しかし、ハローワークにおける外部機関の選択基準や受講者の人選基準には不透明さが残る。この制度の利用者には、大企業を離職し、民間のアウトプレースメント・サービスと併用している人もいる。また、働き世代の転職ではなく、資金に余裕のある定年退職者が再就職先を探すために活用している場合もある。一方で、中小企業の離職者の中には民間のサービスのみならず、雇用保険に加入していないことで政府のサービスも利用できないという現状もあり、ここでも大企業と中小企業のギャップが問題になっている。
アウトプレースメント・サービスの本質であるキャリア・カウンセリングを、労働者が若いうちから自発的に受けることができるような環境を整備することが必要である。キャリア・カウンセリングを一つのサービスとして認知・独立させるとともに、個人や中小企業労働者もキャリア・カウンセリングを受けやすい環境を作るべきである。若い労働者が将来に対する設計図を描き、キャリアに関する意思決定を行うことが、自分自身の仕事における責任の明確化を促進するだろう。
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF 「日本型アウトプレースメント」は定着するか [42.6 KB]
