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これからのIT産業と日本の課題

富士通株式会社 代表取締役社長 秋草 直 之

2003年1月

要旨

IT産業の課題については様々な側面があるが、1つには過去20年ほど進んできたグローバル化にどう対応するかという問題がある。日本の製造業は、マーケットを求めて、あるいは製造拠点として、また研究開発において世界の頭脳を集めるという目的で海外進出を進めている。この中には、成功している企業もあるしそうでない企業もあるが、自動車産業や精密機械産業はそのあたりをうまく乗り越えてきたといえる。

IT産業はそうしたなかでなかなか苦労しているが、IT産業のこれまでの歴史をみると、例えばノートパソコンなど、ハイテク部品を凝縮しコンパクトな製品を作るという面で強みを持ってきた。こういう点は中国やアメリカに対して、これからも日本の強みであり続けるだろう。日本企業は、こうした強みを発揮していくための頭脳が求められており、さもなければ日本のIT産業の未来はないだろう。

最近では、日本企業は中国への進出を急速に進め、研究開発も中国に移す例も現れている。確かに人件費の面では、労働力の安い中国が圧倒的に有利である。しかし、生産技術の向上や作業の効率化、人件費比率を低下させることなどによって、国内でものづくりを行っている企業はある。日本企業にはまだまだ努力や工夫、頭を使う余地が残されている。

こうした努力がないと、結局のところ日本の製造業は消えてしまうことになるだろう。現在では、空洞化を食い止めるためには、知的財産やソフトを生かすことが重要とする声が多いが、それには限界がある。やはり日本企業は、ものづくりをベースとし、その過程でいかにノウハウを入れていくかということに注力していくべきではないか。

グローバル化というと、それによってコストを削減するという点ばかりが注目されがちであるが、それは本質的な問題ではない。グローバル化が進むなかでは、そうしたなかで生き残っていくために、日本企業がこれまで持ってきた軸足、強みを認識し、そうした原点がしっかりしているかをもう一度問い直すことが求められているのである。

グローバル化が進むなかでは、日本がハブとしての地位を占めることができるかという点も重要になる。例えば空港をみると、成田はいまやアジアのハブではない。通信においてもアジアのハブはシンガポールである。それでは情報システムのハブはどこになるかというと、やはり一番コストが安くかつ安全で、エンジニアの集まる所が、ハブとしての地位を占めていくことになる。

こう考えると情報システムでも、将来、コストが安い中国にハブが移っていく可能性もないわけではない。確かに日本は、コスト面では中国にかなわない。しかし、通信や電力が止まることがないなど、インフラ面の安全性では、日本は中国にはるかに勝っている。安全性という面から考えれば、日本に情報システムのハブを残していける可能性が高い。情報システムはノウハウのかたまりともいえ、国内に残しておくことが重要である。日本が安全性という面で情報システムのハブであり続けることができれば、外国人のIT技術者も自然と日本に集まってくることになる。

IT産業は、ひところの急成長が終わって踊り場にさしかかり、ハード資源のエクセスキャパシティ状態となっている。例えば通信回線では現在ではADSLなど様々なものがあるが、一般家庭でその処理能力を使い切れるところはないだろう。パソコンでも、一般家庭や企業で使い切れる以上にはるかに大きな処理能力が備えられている。

こうしたなかで次の成長につなげるためには、既にあるキャパシティをいかにして生かしていくかが重要な課題となる。この点アメリカの動きをみると、新たな需要を創出する次の世代のアプリケーションをいかにして生み出していくかという点について企業、大学を含め国をあげて取り組んでいる。その結果、教育、防衛、行政、製造などあらゆる分野で知恵が出されている。アメリカは既に次のステージに向けて着々と布石を打っているのである。

これに対し、日本ではいまだインフラ整備にしか関心が持たれていないが、アメリカにこれ以上後れをとらないためには、次の世代のアプリケーションを一刻も早く生み出す必要がある。日本では、製造業でもまだまだITを活用できるところがたくさんあるし、医療、R&D、防災などでも活用の余地が大きい。日本はこうした面の知恵をしぼっていかなければならない。

更に、今後ITの活用が飛躍的に進んでいくなかでは、情報システムの安全性を社会全体としていかにして確保していくかが重要な課題となる。例えば、IPv6が普及し、家電製品すべてがアドレスを持つようになった場合、セキュリティチェックを持たない家庭では、外部から家電製品を勝手にコントロールされるなど不測の事態が起こる可能性がある。この点もアメリカでは、ブロードバンドが主流となっていけば、社会的にセキュリティが重要になるということをあらゆる業界が念頭に置いており、国としてもサイバーテロに対してどう対応するかを真剣に検討している。日本でも国としていち早くセキュリティ面での対応を進めていく必要がある。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF これからのIT産業と日本の課題 [143 KB]