インターネットを活用した商品開発の可能性
主任研究員 浜屋 敏
2002年10月
要旨
インターネットを活用した商品開発のパタン
電子商取引(EC)の消費者向け取引(B2C)分野におけるインターネットの活用といえば、ネット通販、すなわち、インターネットを使った消費者への商品の販売が中心である。しかし、いままでのメディアと異なり情報が双方向に流れるインターネットは、販売やプロモーション、問い合わせ対応などだけでなく、商品開発に活用することもできるはずである。実際に、ネットを使って消費者のニーズを収集し、ユニークなヒット商品を開発することに成功している企業も増えてきた。
インターネットを活用した商品開発は、中心となる主体別に3つのパタンに分けることができる。第1のパタンは、メーカー自身によるものである。特に食品やアパレルの分野で事例が多く、1,000人以上の消費者の声を集めて開発された東洋水産の「インドメン」や、トリンプの「理想の下着」などの事例がある。大手下着メーカーのトリンプは、2001年5月からネットを利用して消費者の声を集めて女性用の下着を開発し、ウェブサイトで販売したところ、当初予定の5,500枚は2日で完売し、店頭も含めれば累計4万枚が売れた。低コストで開発できたために、利益も黒字になっている。
第2のパタンは流通企業がインターネットを活用して商品開発を行うもので、例えば無印良品がムジネットというウェブサイトで自動車を開発した事例がある。日産のマーチをベースとし、ムジネットの会員の声を参考にすることで、シンプルで使いやすいという「無印らしさ」を追求した車を開発した。93万円という低価格もあって、限定1,000台をすべて売り切った。
第3のパタンは、メーカーでも流通企業でもない第三者がインターネットを活用して商品開発を行うものであり、コミュニティサイト「@コスメ」などの事例がある。@コスメでは、1999年12月の開設以来収集した20万件以上に及ぶ化粧品に関するクチコミ情報を、評価者の年齢や肌の質などで検索できる。また、@コスメは会員から得られた情報に基づいて商品開発も行っており、化粧用のブラシやパウダーなどを商品化してウエブサイトで販売した実績がある。
その他のパタンとして、複数の消費者がインターネットで意見を集約して、自らメーカーに商品化を働きかけるというケースもありえる。しかし、意見を集約するために必要な時間やコストを考えると、何らかの組織が消費者の代理人(エージェント)として機能することが必要だと考えられる。
インターネット活用のメリット・デメリットと留意点
商品開発にインターネットを活用することの第1のメリットは、開発にかかわるスピードの向上とコストの削減である。電子メールやウェブサイトを利用すれば、従来の市場調査に比べて大幅なスピードアップとコスト削減を実現できる。ただし、インターネットユーザーの属性にはいまだに偏りがあるため、その特徴を理解した上でネットを活用し、従来の手法と補完しあいながら利用する必要がある。
第2のメリットとして、ネットを使えば従来の市場調査手法よりも濃密な消費者とのコミュニケーションが容易に可能になるため、多様化する消費者のニーズをより正確に吸収し、しかも消費者の参加意識を醸成してロイヤリティを高めることもできる。
一方、一部の消費者の意見を重視しすぎると、ロイヤリティは高まるものの、一般向けではない商品ができてしまう危険性も高い。例えば、東洋水産の「インドメン」は熱狂的なファンに対して150万食を販売したものの、一般消費者には広がらず、その後生産中止になった。トリンプの「理想の下着」も4万枚が売れたとはいえ、従来手法で開発された同社のヒット商品「天使のブラ」の売上は7年間で累計1,000万枚に達しており、それには遠く及ばない。
インターネットの特徴は、コストやスピード、情報の質だけではない。企業は、ネットを活用することで、開発から販売、アフターサービス、そして次の商品の開発にいたるまで、商品のライフサイクルを通じた、あるいはそれを超えた期間にわたって、新しいビジネスモデルを作り上げ、消費者との新しい関係を築くことも可能になる。インターネットは、多くの消費者に受け入れられる大ヒット商品を単発で開発することよりも、一部の消費者に熱狂的に受け入れられる商品を低コストで継続的に開発するような場合に適していると言えるかもしれない。
もちろん、商品によってはネット開発に向かないものもある。たとえば、トリンプはネットで開発した男性用下着も販売しているが、女性用下着ほど成功しているわけではない。女性用下着のように、機能やデザインがある程度複雑で、消費者のこだわりが強い商品ほど、ネット開発に向いていると言える。
その他にも、インターネット上のコミュニティ運営のノウハウ、第三者企業と協力して商品を開発する場合の企業間関係のあり方、生産や販売、アフターサービスといった他の企業活動と商品開発を統合する方法など、ネットを活用した商品開発を実践する際の留意点は少なくない。しかし、ネットを効果的に活用すれば競争力の源泉である商品開発力を高めることができるのは間違いない。したがって、企業にとっては、上述したようなメリットや限界・留意点を理解した上でネットを使った商品開発に取り組んでいくことが、デフレ時代に競争力を向上させるための重要な要件になる。
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PDF インターネットを活用した商品開発の可能性 [134 KB]
