市町村合併は改革のモラトリアムではない
主任研究員 小野 達也
2002年10月
要旨
地方行財政改革に必要な市町村合併
現在約14兆の財源不足が生じている地方財政の改革基盤を強化し、効率を向上させることを目的として、市町村の合併が総務省主導のもので進められている。政府が目標とする1,000団体への集約は難しいが、現在全国約3,200の市町村のうち約7割が、政令指定都市を目指す合併から小規模町村同士の合併まで、様々な組合せの合併を検討している。
歳出など財政諸指標からみた市町村の最適規模に関する推計が、最近いくつか発表されている。それらによれば、一般に小規模団体では人口が増えると1人当たりの歳出が減少し、一定規模の人口を超えると1人当たりの歳出が増加に転ずることが明らかにされている。これらの推計によれば、行政効率からみた最適規模は15万~30万にあり、現在進行中の市町村合併の妥当性をある程度裏付けるものとなっている。
アメとムチに揺れる自治体
ところで、ここへきて合併への動きが加速しているのは、合併誘導策として改正された市町村合併特例法に盛り込まれた財政優遇措置の実質的な締め切りが近づいているからである。2005年3月末までに合併した自治体には、合併後10年間合併前の普通交付税措置を全額保障する(人口規模拡大による直接削減効果は先送り)、合併後のまちづくり建設事業のために合併特例債の発行が認められ、その発行額の70%を国が後から地方交付税で補填する、などの手厚い財政措置が「アメ」として用意されている。一方、政府は小規模自治体への交付税削減方針を打ち出した。これが「ムチ」である。
その結果、このアメとムチにせき立てられるようにして多くの合併協議が始まり、合併によって如何に行財政の効率化を実現するか、住民サービスを如何に向上するか・低下を防ぐかといった本質的な議論が置き去りにされている観がある。最近合併した自治体には、合併前の各団体が欲しかった箱モノ建設の公共事業を、合併特例債を財源にしてずらりと予算案に並べるところが出てきた。その箱モノの費用対効果は評価したのか、市が将来負担する3分の1の特例債は償還できるのか、懸念される。
一方、地域性を尊重したり独自サービスの維持を優先する自治体、あるいは合併しても行財政の効率化が見込めない過疎地など、合併しない決定をした自治体も増えている。合併するか否かは当然自治体の自主的選択に任されているが、それらの自治体に対しては、政府から合併にかわる何の道標も用意されていない。
地方自治体の改革を阻む地方交付税
市町村合併のアメとムチに使われている地方交付税は、かつての高度成長期における財源保障・格差是正機能はともかく、今日においては自治体の行財政改革のインセンティブを削いでいるのが現状である。一定の基準で政府が算定した各団体の「財源不足額」が、その複雑さゆえに密室化している手続きを経て、自治体から見れば自動的に交付される。団体別にみると交付税の最高額は地方税収の最高額を大きく上回り、その結果人口当たりの一般財源額はこれらの団体の間で完全に逆転するという「逆格差」が知られている。6月に公表された財務総合政策研究所のレポートは、都道府県間・市町村間で逆格差を発生させる日本の交付税制度が、米・英・独・仏・加・スウェーデンの各国と比べて特異であることを改めて示している。
そもそも財政危機の最大の原因は、国の景気対策や巨額の公共投資に地方が動員された結果である。6月に決まった政府の「骨太の方針第2弾」にあるとおり、交付税、補助金、税源移譲を三位一体で早急に改革しない限り、地方行政の基盤強化や効率化はありえない。
市町村合併をモラトリアムにしてはならない
上述のとおり合併する自治体では、合併後一定期間の財政措置というアメにより行財政改革を先送りする一方、きめ細かなサービスが失われ、要らない箱モノが林立する事態も起こりうる。合併後の新自治体も早晩改革を迫られることになるという認識が欠かせないのであり、合併前から経営基盤強化や効率化の方策を練っておかなければならない。
一方、国レベルでみれば、市町村合併は地方行財政改革を実現するための条件整備にすぎず、「骨太の方針第2弾」では1年以内に具体的な工程をとりまとめるということであるが、国・地方関係の改革の断行を待つのみである。中央の仕組みを変えずに地方の改革は不可能である。
2005年までには、多くの国民が住んでいる市町村が変わりそうだが、市の名前が変わることは改革ではない。国も自治体も「平成の大合併」を改革のモラトリアム(一時猶予)にしてはならない。
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