電子商取引課税の新たな動き
上級研究員 吉田 倫子
2002年10月
要旨
米国の動向 : モラトリアムの延長
1998年に3年間の期限つきで導入されたインターネット・タックスフリーダム・アクト(以下ITFA)は、2001年11月に、更に2年間(2003年11月1日まで)延長されることが決定された。この法律がモラトリアムとして掲げているのは、[1]インターネット・アクセス料の新たな課税を禁止すること、[2]電子商取引に対する複合的で差別的な(公平性と中立性に反する)課税を禁止するというものである。ただし、ITFA施行以前にインターネット・アクセス料に対して課税していた州に対する制裁や法的な拘束力はない。米国の動きを見ていると、ITFAの議論の過程には、この法律を実質恒久的な措置とする意見や、デジタル財にかかる売上税をすべて廃止するという案もあった。また、もし将来的に州売上税の仕組みが簡素になるのであれば、州の課税当局が、遠隔地事業者に対しても課税できるように制度を改革すべきだという議論もあった。
電子商取引課税を考慮する際、課税の対象として考えなければならないものは、インターネットへのアクセス料、インターネット上での商品の売買、インターネット上でのソフト等のダウンロードである。各州の法律を見ると、有形資産には課税しているが、無形資産もしくは非課税対象となるサービスとみなされるデジタル財は、課税されていない場合が多い。取引の中身が有形か無形かという区分は重要である。また、ネクサス(課税拠点)も問題である。例えば、ISPは必ずしも消費者のいる州に拠点を持つ必要はない。州際取引において、消費者が州外からコンピュータサーバにアクセスして閲覧するだけ、またインターネットアクセスサービスやオンラインサービスを提供している事業者の州外コンピュータサーバにアクセスする事だけでは、徴税義務は発生しない。事業者が州外に設置されたサーバにウェブサイトを使用している場合に、それをネクサスとして特定するのは難しいという議論も存在するが、多くの州では、もしその州の中に州外の事業者がウェブサーバを所有もしくはリースしていればネクサスと認識されるだろうと解釈されているようだ。
ITFA導入以後の変化をみてみると、例えば、コネチカット州では2001年6月にインターネット・アクセス料への課税が免除になり、2002年7月にはデータ処理サービスの課税が免除になった。しかし、それ以外の、ITFA導入以前から課税していたノースダコタやテネシーなどは継続してインターネット・アクセス料に売上税を課している。
米国では連邦レベルでの売上税や消費税タイプの税はなく、売上税・使用税は州・地方単位で課税されている。売上税の仕組みはネクサスをめぐって州際取引において厄介なものになっており、実際には、例外的なケースを除けば、州際取引に対してはほとんど徴収されていないと言っても過言ではない。売上税のコンプライアンスに関する簡素化の議論が行われていないわけではないが、州間で意見の相違もあって、議論の進度は遅く、実際に売上税システム改革へと繋がるにはある程度の期間が必要であろう。また、簡素化するために必要となる納税ソフトシステムは高価で、入手と維持が難しいとも言われている。
EUの動向 : 新ルールの導入を決定
EUでは、EU域外事業者がラジオやテレビ放送、デジタル財の配信や電子的サービスをEU域内消費者に販売した際にはVAT(付加価値税)を徴収しなければならない、という新しい指令(デレクティブ)が2002年5月に決定され、EU加盟国は2003年7月1日までにこの新しいルールを導入することになった。現在は、デジタル財などをEUの消費者に販売する場合、EUの域内事業者は消費者の居住地に関係なく徴税しなければならないが、域外事業者はEUの消費者に販売したとしてもVATが課税されないため、EUの事業者は不利であると考えられてきた。また、現在、VATは、通常は輸出には課税されないことになっているのにもかかわらず、EUからのデジタル財の輸出には課税されている。新しいルールは、輸出・輸入両面でのEUの域内事業者の不利な競争条件を取り除くことを目的にしていると言ってもよいだろう。
この新しいルールによって、EUの域内の全電子商取引による収入のほぼ90%を占めるBtoB取引においては、域外事業者に新たな義務は発生しない。BtoBでは輸入業者がこれまで同様自己申告によってVATを納税するためである。変わるのはBtoC取引である。EU域外の業者がEU域内の個人消費者に財の提供を行う際、事業者は15のEU加盟国のうちいずれか一国の税務当局に登録し、消費者の居住地の税率に従ってVATを価格に上乗せし、登録した国の税務当局に納税しなければならない。そして次に登録国の当局が消費者の居住地の当局に税収を配分することになる仕組みである。
EU諸国のVATは、日本の消費税と比較して段違いに税率が高い。ゼロ税率や軽減税率も存在するものの、米国とは対照的にEU諸国の間接税は税収の約50%を占めるところもあり、電子商取引についてもVATが大きな議論の対象になっている。徴税方法についても、域外の電子商取引事業者は、財務代理人や物理的な存在を有していなくてもオンライン上で税務手続きが完了するという新しい仕組みや、課税・徴収のためのソフトウェアの開発と導入などが検討されている。
新しいルールに従えば、日本の事業者ももちろんEU内で納税する必要がでてくる。一国の税務当局に登録するだけでよいために各国の税制に精通する必要がないというプラス面が指摘されることも少なくない。しかし、事業者が消費者の所在国をいちいち確かめる手間が生じるし、たとえこのような識別がソフトを使って自動的に行うことができるようになったとしても、やはりかなりの負担になることが予想される。実際にコンプライアンスが単純になるかどうかは新しい仕組みの導入やソフトの開発の状況に左右される。わが国の制度のあり方や日本企業の税務戦略を検討するためには、各国の租税政策や技術の動向にも注視しつつ、新たな電子商取引課税制度が示唆することを探っていく必要がある。
*貴重なコメントを下さった中央大学大学院・渡辺智之先生に感謝したい。勿論残された課題と誤りは筆者の責任である。
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