我が国電子政府の推進 - 多元的な行政評価体制の確立
主任研究員 栗原 潤
2002年10月
要旨
開始早々「ホコロビ」が現れた電子政府ネットワーク
日本経済再生の鍵として「e-Japan」を標榜し、その一環として電子政府を積極的に推進している我が国ではあるが、「住民基本台帳ネットワークシステム(「住基ネット」)の実現に際し、8月初旬のスタートと同時に早くも問題を露呈した。周知のとおり、福島県矢祭町、東京都杉並区等が不参加を表明し、横浜市は市民選択方式を、また三重県の一部町村は接続延期を決定した。全国を情報ネットワークでおおいつくし、実現すれば世界に誇るはずであった電子政府ネットワークに開始早々「ホコロビ」が現れている。こうした一部地方自治体からの冷淡ともとれる反応は、「住民・地方自治体の利益に直結した電子政府が本当に形成されるのか」という根本問題を投げかけていると理解すべきである。
市場で提供される民間サービスと行政サービスとの違い
行政サービスは、本来「市場メカニズム」における「価格シグナル」と「市場競争」では過少供給されがちな公共財であり、最適供給を実現するには独自の評価基準(benchmark)が必要とされる。加えて、行政サービスは、福祉、教育、産業振興、治安維持、防災・災害復興等、形態が多様で各々のミッションが異なるために、当然のことながら評価基準も多元化を余儀なくされる。一方、民間が提供するサービスは、誰(どの企業)が効率良く提供するかという組織間の選択は「市場メカニズム」という競争・淘汰を通じて実現され、サービスの供給量及び価格(料金)は市場自身が原則最適化する。競争・淘汰の過程で、ある民間企業が「縦割り構造」に固執して効率性向上をなおざりにしていれば「市場」が躊躇なく淘汰という判決を下す。翻って、厳密な意味で競争が存在せず、したがって淘汰という厳しい判決を受けず、むしろ「市場メカニズム」の欠陥を補完する立場にある行政組織自身が効率化を図る場合、(1)首長のリーダーシップ、(2)公務員の公共精神及び能力の高さ、(3)投票・嘆願等住民からのフィードバックという内在的努力に依存する形となる。
「競争不在」の行政サービス供給 - 経済効率化と質的維持・向上の問題
しかし、行政組織が公共財供給に際して経済効率化を推進し、同時に質的水準を維持・向上する場合、以上の内在的努力にのみに依存することに問題があることは、効率性、公共性の観点から内外を問わず明らかである。「市場」の中で生きる民間企業は、株価を指標とする企業価値、マーケットシェアを指標とする市場占有力等、明瞭な評価基準をもとに行動する。しかし、「市場メカニズム」に従えば過少供給になりがちな公共財供給に従事する行政機関を、「市場」の指標で単純に評価することは危険である。ここに電子政府を推進する上での評価基準設定の難しさがある。このため、現在、内外を問わず、行政評価を巡る基準の適切性が注目を集めている。したがって、電子政府を推進する際、多元的な行政評価体制を確立する必要があり、現在、小規模、アド・ホック的で、全国に散在する外部評価体制をネットワーク化し、制度強化することが肝要である。
行政組織間擬似的競争(Quasi-Competition)の醸成し、多元的な評価体制確立の第一歩を
こうしたなか、「スピード・クウォリティ・リザルト」を重視し、短期間で良質の電子行政サービスを実現した米国ミシガン州の経験が注目されている。ミシガン州の場合でも、上述した内在的努力が電子政府推進に重要な役割を果たしたことは疑いない。と同時に、それに加えて「第四」の勢力として、コンサルタント、大学等の「外」からの評価と助言が大きく働いた。先進電子政府国家の一つである米国における最大の特徴は、この外的評価・助言機関の多層性・多元性である。即ち、異なる立場から政府のミッションを評価している機関が、幾重にも重なるようにして絶えずモニターし、評価し、助言を与え、その結果として政府組織間での擬似的な競争を醸成している。
特に、「市場メカニズム」における「価格」に相当する明確な指標が「非排除性」が存在するために存在しえない公共財供給分野では、様々な評価基準が存在すること自体不可避である。したがって、多元的な価値観とミッションを懐く外的評価・助言機関は、(a)ポータル機能性、(b)ポータル発展・縫合可能性、(c)セキュリティ、(d)フィードバック、(e)民主主義対応、(f)障害者・高齢者参画誘導策等について評価を行い、「ベスト・プラクティス」と「ベンチマーク」を例示すると同時に、独自のランキングを発表している。
翻って、我が国の外部評価組織は、極めて小規模、アド・ホック的で、全国に散在しているという感が強い。このため、外部評価組織の外延的な拡大と外部評価組織間の協力・競争関係を包含したネットワーク構築の努力が必要である。外部評価機関は、従来型の「諮問委員会」的な形式的なものでなく、評価の数値化・数量化、具体的事例の例示に注意を払い、外部評価による良否によっては予算額を変更させるなど、実際に行政組織の活動にフィードバックさせるように、制度的にも「内在化」し強化させる必要がある。こうした広域的な多元的評価体制を確立することが重要であり、ネットワーク構築を行うためには、行政組織とベンダーも積極的に協力していくことが肝要である。
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