「日中共同研究シンポジウム:日中経済の新たな展開」の模様
主任研究員 柯 隆
2002年7月
要旨
1.シンポジウムの狙い
2001年12月、中国は念願の世界貿易機関(WTO)加盟を果たした。これをきっかけに中国経済がグローバル経済に組み込まれ、周辺諸国に様々なインパクトがもたらされるものと思われる。論理的に考えれば、WTOに加盟した中国が国内市場を開放していくことは、アジア諸国にとりビジネスチャンスの増大を意味することになるが、逆に、メイド・イン・チャイナの廉価な製品が大量に輸出されれば、周辺諸国が少なからぬ影響を受けることも考えられる。そのなかで重要なのは、アジア域内の分業を推進し、域内の資源の効率的な再配分を進めることである。
1997年7月のタイ・バーツの暴落を発端とするアジア通貨危機がアジア諸国の経済に大きなダメージを与えたが、そのなかで中国は資本規制の自由化を見送ったことで直接には通貨危機の影響をそれほど受けなかった。通貨危機以降、日本、NIESとASEANの国々や地域は軒並みマイナス成長に陥ったが、中国だけは7~8%の経済成長を続け、一人勝ちの様相を呈している。中国の好調な経済パフォーマンスが、周辺諸国の景気低迷と好対照となっている。特に中国の対外輸出が順調に拡大し、中国に対する外国直接投資もWTO加盟をきっかけに急増している。このようなことを背景に中国「脅威論」が台頭しつつあるようだが、中国の経済成長を恐れ、それを抑制しようとする後ろ向きの考えは、アジア域内の経済協力と相互依存関係の構築を妨げることになる。
世界経済に目を転ずると、アメリカや欧州において地域的経済圏が形成されているのに対して、アジアでは、アセアンを除いて経済圏の形成が遅れている。地域的経済圏を形成する経済的意味として、貿易や投資の障壁が引き下げられることによって取引コストが低下し、経済の効率化が実現されるということがあげられる。
アジア域内における経済協力や相互依存関係の構築は、その必要性に関する議論が多いが、how(いかに実現するか)については必ずしも答えが出ていない。そのなかで、日中両国が協力してアジア域内の経済協力を推進しないかぎり、「アジア経済圏」の実現はなかろう。換言すれば、日中両国の経済協力はアジア域内協調と経済繁栄のカギを握っており、このことについて日中の対話が求められている。
2.シンポジウムの概要
以上の問題意識をもとに、富士通総研経済研究所は、中国国家発展計画委員会マクロ研究院、山東省社会科学院、四川省社会科学院並びに対外経済貿易大学金融学院の協力を得て、日中両国の研究者による共同研究シンポジウムを開催した。
本共同研究シンポジウムの狙いは、経済のグローバル化に向けた日中経済の新たな展開について討議することにあり、とりわけ、中国のWTO加盟をきっかけとする、[1]アジア経済の発展、[2]中国経済の国際化の進展と[3]日本の構造改革が、本シンポジウムの議論の中心となった。
シンポジウムの議論を整理すると、以下のとおりである
[1]日中経済については、過去20年の間に、日本による中国への直接投資、日本政府の経済開発援助、日中両国の貿易が順調に拡大してきている。しかし、97年のアジア通貨危機以降、中国経済のプレゼンスが急速に拡大しているなかで、日本では中国経済「脅威論」が台頭しつつある。とりわけ、中国産の廉価な衣料品、雑貨、農産物などが大量に日本に輸出されることは、日本国内においてこれまでも問題となっていた。このような動きに対して日本政府は、中国産の農産物に対する輸入制限措置を講じた。中国政府は日本政府が講じた輸入制限措置に対抗する形で、日本から輸入されるエアコンなどの工業製品に特別関税を課した。日中両国における貿易摩擦が、今後加速度的に深刻化することが懸念されている。
シンポジウムにおいては、経済のグローバル化が進展するなかで、日中両国の経済関係のあり方に関する議論が集中した。日本経済は80年代末のバブル経済が崩壊し、それ以降10年以上の経済調整が続いてきたが、未だ回復軌道には回帰していない。日本経済をデフレ・スパイラルから脱出させ、経済発展の長期的ビジョンを打ち出すことが早急な課題である。そのなかで、日中両国は貿易摩擦に突入すべきではなく、分業と相互依存を図りつつ、日本は中国の経済発展のメリットを享受する戦略を考えるべきである。
[2]日中両国において、分業と相互依存関係を構築していくためには、互いに競争力の強化が必要である。日本については、国内の規制緩和をいっそう推し進め、広義のサービス産業の振興を図り、その競争力を強化していくことが重要である。特に、産業効率性を高めるために、電力や物流などのインフラコストを低減させることは必要不可欠である。一方、中国については、国有企業の非効率性が問題になっており、この問題を解決するためには、段階的に国有企業を民営化していくことが必要である。80年代後半から既に中小国有企業の民営化が進んでいるが、これからは大中型国有企業の民営化が注目される。更に、中国経済の競争力を高めるために、交通・運輸などのインフラ整備が必要である。鉄道、高速道路、航空、港湾などのインフラ整備が進められているが、マクロ経済成長のスピードに比べインフラ整備が十分でなく、特に物流などは依然として経済発展のボトルネックになっている。
[3]シンポジウムでは、実体経済に限らず金融面からの考察も行われた。日本経済は金融機関の巨額の不良債権が大きな妨げになっている。既に不良債権を処理するために、商業銀行及び日本政府は巨額の資金を注ぎ込んだが、経済回復が遅れているため、新たな不良債権が発生している。不良債権の問題を解決するためには、金融セクターによる努力以外に、マクロ経済の本格的な回復が不可欠である。これに対して、中国では国有金融機関の不良債権は巨額にのぼるが、問題として表面化していない。日本に比べ、中国の経済成長率は高いことから、不良債権の問題が経済成長を妨げる状況には至っていない。中国が解決しなければならない問題としては、国有金融機関の経営効率化と金融市場開放に向けた準備である。特に、WTO加盟を果たした中国は遅くとも2006年までに金融市場を開放する必要がある。国内金融市場の秩序を維持するために、国有商業銀行の改革と証券市場の改革が早急に行われる必要がある。
新世紀において日中両国は経済協力関係を強化し、域内経済成長を引っ張っていかなければならないと同時に、多様な価値観を認めた経済協力の枠組みを構築し、域内経済圏の活性化に向けて努力していくことが必要である。今回の共同研究シンポジウムは、このような目的に到達するための第一歩であり、今後日中のシンクタンクによる共同研究を深められていくことが期待される。最後に、本シンポジウムの開催にあたり、外務省の支援をいただいたことに深く感謝の意を表したい。また、共同研究に加わってくださった外部の研究者、中国経済専門家の方々にも厚く御礼を申し上げたい次第である。
「日中経済の新たな展開」プログラム
| 10時~10時15分 | 開会の辞 |
| 理事長 福井 俊彦 | |
| 10時15分~10時35分 | オープニングスピーチ 「WTO加盟後の新しい中国市場のフレームワーク」 |
| 中国国家発展計画委員会 マクロ研究院常務副院長 劉 福垣 | |
| 10時35分~12時10分 | 第一セッション「日中企業の競争力強化へ向けて」 |
| 10時35分~11時 | 報告1 : 「日本産業の競争力強化への道筋」 |
| 主任研究員 安部 忠彦 | |
| 11時~11時25分 | 報告2 : 「国有企業民営化への取り組み・四川省の事例を中心に」 |
| 四川省社会科学院 経済体制改革研究所所長 楊 鋼 | |
| 11時25分~12時10分 | 討議 |
| 12時10分~13時10分 | 昼 食 |
| 13時10分~14時45分 | 第二セッション「WTO加盟後の中国市場の変化と日中企業の対応」 |
| 13時10分~13時35分 | 報告3 : 「WTO加盟後の対中ビジネス戦略」 |
| 上級研究員 金 堅敏 | |
| 13時35分~14時 | 報告4 : 「WTO加盟に伴う物流市場の整備・交通インフラ整備を中心に」 |
| 国家発展計画委員会 マクロ研究院 運輸総合研究所所長 薫 焔 | |
| 14時~14時45分 | 討議 |
| 14時45分~15時 | コーヒーブレーク |
| 15時~17時 | 第三セッション「日中金融市場の新しい発展」 |
| 15時~15時25分 | 報告5 : 「中国における資本市場の育成と海外資本への働きかけ」 |
| 対外経済貿易大学 金融学院助教授 李 琦 | |
| 15時25分~15時50分 | 報告6 : 「中国金融市場の国際化の進展」 |
| 主任研究員 柯 隆 | |
| 15時50分~16時15分 | 報告7 : 「米英に比肩する日本の資本市場作りへの具体策」 |
| 主席研究員 田邉 敏憲 | |
| 16時15分~17時 | 討議 |
| 17時~17時20分 | 閉会の辞 |
| 中国国家発展計画委員会マクロ研究院常務副院長 劉 福垣 理事長 福井 俊彦 |
全文はPDFファイルをご参照ください。
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