北米における温暖化ビジネス模索の動き
上級研究員 生田 孝史
2002年7月
要旨
民間主導の取組みを積極支援
地球温暖化問題をめぐって、米国とカナダの京都議定書に対する姿勢は異なるが、企業の自主性を重視して支援しようという姿勢は共通している。
米国の京都議定書離脱表明は、温暖化対策への無関心を意味していない。去る2月14日、米国が発表した独自のイニシアチブは、削減目標を絶対量から原単位ベースとすることで経済成長による排出増を許容しており、温暖化抑制効果は確かに疑問視されている。しかし、温暖化対策関連の2003年度予算は45億ドルと、前年度比18%の増額であり、研究開発や新エネルギー及び低公害車の使用などに手厚いインセンティブを与えるとともに、企業の自主的取組みプログラムが強化される。地球温暖化問題をビジネスチャンスと考える企業を積極的に支援する方針は明確である。
もちろん、米国企業にとって、京都議定書からの離脱は、追加的な対応コストが軽減できるという反面、温暖化関連ビジネスの国際的な事業展開に制約が生じるおそれはある。しかし、2004年の次期大統領選の結果次第では、米国が議定書に復帰するシナリオもありえる。今回のイニシアチブにおいても、排出削減登録簿の改善や取引クレジットの担保など、将来の議定書復帰時に先行企業が損をしないような配慮がなされている。
一方、米国に隣接するカナダは、産業界や一部の州政府の反対などによって、調整が難航して予断は許さないものの、首相のリーダーシップのもと、基本的には議定書批准の方向にある。議定書批准となれば、排出削減量割当てが行われる見込みであり、現在、割当方法と取引手法について詳細設計が行われている。カナダの特徴は、企業の自主的取組みを促すための公的プログラムの民間移管である。企業の取組み登録や排出削減登録簿などを実施する民間機関が設立され、効率的かつ自主的な事業運営が行われている。
市場メカニズムを活用したビジネスの提案
既に、北米では、地域主導、民間主導で、様々なビジネスのアイディアが提案・実施されている。特に、市場メカニズムを活用した取組みや、標準化、ルール作りなどの分野で活発である。Pew Center(2002)の調べでは、1998年から2001年までに世界で実施された自主的な排出量取引の7割以上に、北米の企業・プロジェクトが関与している。地域ベースでは、カナダのオンタリオ州とその他の州で、2種類の異なる排出量取引パイロットプログラムが数年前から実施されている。米国マサチューセッツ州でも、発電所を対象に、取引システムを採り入れた二酸化炭素排出規制の導入を決定した。
市場メカニズムを活用したビジネスの枠組みは、両国の政治的思惑を超えて、国際的な連携を強めるものとなっている。昨年6月には、自主的な排出量取引を扱うシカゴ気候取引所が民間主導で設立された。米国中西部7州での排出量取引を皮切りに、2003年には、メキシコを含めた北米全体の取引に拡大し、04年には本格的な国際取引に移行することを目指している。また、昨年8月には、米国北東部6州とカナダ東部5州の間で、域内排出量取引を許容するアクションプランが締結されている。ここでは、両国の議定書への態度の違いは顧みられていない。更に、全米で、製品や企業の温暖化抑制実績の認証事業を展開するClimate Neutral Networkは、今年の冬季オリンピックのプロジェクト認証も手がけており、現在、認証基準の国際標準化を検討中である。
北米は創造的なビジネスの提案力という点で、決して環境先進地域を自負する欧州に引けを取っていない。欧州が強制力のある政策をてこにして先行者利益を得ようとしているのに対し、北米では、民間主導で市場メカニズムを活用しながらビジネスチャンスを模索し、政府が民間の取組みを側面支援している。アプローチが大きく異なる両者に共通することは、温暖化がビジネスになるという認識である。
日本に求められる意識改革
翻って、日本の状況はどうだろうか。日本政府は3月19日に新たな地球温暖化対策推進大綱を決定し、5月31日には国会で京都議定書の批准が承認された。地球温暖化対策推進改正法の成立を経て、国内対策が始動する。しかしながら、段階的アプローチの採用によって、2004年までは、現行対策の充実・強化が中心となる。産業界の一部などでは、この「先延ばし」政策を歓迎する風潮がある。だが、日本は、このモラトリアム期間にこそ、積極的にビジネスの創出を図る努力をしなければならない。温暖化ビジネスを巡る国際競争は既に始まっており、手を拱いていれば、拡大する関連市場の主導権を喪失することになりかねない。
日本に必要なことは、地球温暖化問題はビジネスチャンスを生み、早期取組みによって地球環境時代の国際競争力を獲得しようという意識改革である。企業は、試行錯誤しながら国内のビジネス経験を蓄積すべきである。民間主導のネットワークを早期に形成して、市場整備とビジネスルールの構築を図ることも望まれよう。一方、政府は、投資助成、税制上の優遇、あるいは優先購入や入札時優遇などのインセンティブ供与とともに、認証機関の設立や排出削減実績の登録システムの構築などのインフラ整備によって、企業の取組みを積極支援する姿勢を明確にすべきである。
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF 北米における温暖化ビジネス模索の動き [94.7 KB]
