高コスト構造はいかにして是正されるか
- 高コストと物価、為替レートとの関係
主任研究員 米山 秀隆
2002年7月
要旨
高コスト問題の意味
日本の物価が諸外国と比べて割高であるとされる高コスト問題(内外価格差)は、為替レートとの関係によって大きく変わるが、厳密には次のように理解することができる。単純化のため、輸出主体の製造業とそれ以外の産業(非製造業が中心だが国内市場向けの製造業も含む)の2部門に分けて考える(以下、前者を貿易財、後者を非貿易財と呼ぶ)。一般に国際競争にさらされている貿易財に比べ、非貿易財の生産性は低いが、これは程度の差はあれどの国でも共通している。
為替レートは短期的には大きく変動するが、中長期的にみればおおむね貿易財の購買力平価によって決まっていると考えることができる。例えば貿易財の価格が日本で100円、アメリカで1ドルの価格がつけられているとすれば、為替レートは100円 / ドルとなる。
一方、非貿易財についてアメリカで1ドルの価格で売られているものが、日本では200円で売られているとしよう(貿易財と非貿易財の生産性格差が、アメリカより日本の方が大きいと考えるとこのような想定ができる)。このとき、非貿易財の購買力平価は200円 / ドルとなる。しかし、現実の為替レートが貿易財の購買力平価で決まっているとすれば、日本で200円の非貿易財はドル換算では2ドルとなり、アメリカでの価格1ドルの2倍となる。このように、貿易財の購買力平価によって決まる為替レートで評価すると、非貿易財の価格は、国際価格より割高となる。
これが内外価格差と呼ばれるものである。日本における貿易財産業と非貿易財産業の生産性の格差が海外のそれに比べて大きいことが、内外価格差を生じさせる要因となっている。より厳密には、現実の為替レートは貿易財の購買力平価とは必ず一致しないため、非貿易財の内外価格差は、貿易財との生産性格差と、現実の為替レートの貿易財の購買力平価からの乖離の部分によって構成されることになる。
高コスト是正のシナリオ
非貿易財価格の割高を是正する方法としては、次の二つが考えられる。第1は、貿易財価格を一定として、非貿易財価格が低下するという方法である。第2は、逆に非貿易財価格を一定として、貿易財価格が上昇するという方法である。問題は相対価格の調整であるため、分子と分母のいずれを調整しても同じことになる。
前者の場合には、一般物価水準は下落しデフレ傾向を示すことになり、後者の場合には、一般物価水準は上昇しインフレ傾向を示すことになる。現在のところは、前者の方法によって、非貿易財価格の割高が是正される方向にある。例えば、高コスト産業の代表である電力、通信、運輸などの規制産業は、規制緩和により競争が激化し、価格引き下げ競争が激しくなっている。また、中国を中心とするアジアからの低付加価値品の流入は、日本の流通合理化にも大きく寄与している。
このように、現在は、これまで非効率が温存されてきた非貿易財の生産性向上圧力が、様々な面から高まることで、内外価格差が是正される方向にある。しかし同時にそれは、一般物価水準の下落をもたらし、デフレを助長する要因ともなっている。むろん、現在のデフレの要因としては、総需要の低下など様々な要因が考えられるが、そのうちの一つの要因になっているということである。
これに対し、デフレを必要以上に加速させることが問題であるとする立場からは、インフレ政策への転換がしばしば主張される。円安誘導がその一つの方法である。こうした政策は、ここでの文脈からいえば、内外価格差を是正するための第2の方法、すなわち貿易財価格を上昇させることによって、非貿易財価格の割高を是正するという方法につながる。第2の方法を現実化するためには、円安の分だけ円建て価格を上昇させればよい。この場合、交易条件は変化しないため、輸出が有利になるというわけではない。
日本の選択肢
以上述べてきたように、内外価格差の是正は、貿易財と非貿易財の相対価格の調整によってなされる性質のものであり、それは非貿易財の生産性の向上によっても実現できるし、円安に伴う貿易財価格の引き上げによっても実現できる。
これを敷延して考えれば、現在の日本経済は、次の二つの選択肢に直面しているといえる。一つは、高コスト分野の生産性を向上させ積極的に高コストを是正させるという道であり、もう一つは生産性の向上ではなく円安に頼る道である。円安は、日本が競争力を失う結果として進む可能性もある。
これまで規制緩和によって生産性の向上が図られるなど第1の方向が進展してきたが、最近では円安政策が模索されるなど第2の方向も進みつつある。現実には両者の組み合わせによって高コストが是正されていくと考えられるが、その際、円安に過度に依存するのは、生産性向上努力がなおざりにされることになるため望ましくない。
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