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日本の強みとこれからの外交

国際交流基金理事長 藤井 宏昭

2002年7月

要旨

21世紀の世界は、武力や暴力が冷戦時代に比べてより使いやすくなり、その武器が大量破壊兵器になっていく恐れがある。また、インターネットや衛星放送は世界を直接結ぶという利点はあるが、それがかえって世界の対立を深めているという面もある。例えば中東においては、衛星放送で1日中パレスチナ人の悲惨な状況を目のあたりにして、アラブの大衆が非常に強硬になっているという現実がある。インターネットについても、互いの基礎的理解がないところに、いきなりインターネットを通して様々な情報が入ってくることが、かえって憎悪を増幅させている面がある。他方、冷戦時代に培われた同盟は、NATOに代表されるように、敵が存在しなくなったため、その基盤の強さを疑われ始めている。

このような、ある種の不安定さが増している世界の中で、アメリカと中国という、両方とも自らの文明的な特性に確信を持っている国家の間に挟まれている日本は、よほどしたたかに生きていかなければ、生き残っていくことはできない。日本はもはや、冷戦時代のような予定調和的な世界を渡っていくことはできないのである。

こうした世界で日本が生きていく上で一番大事なことは、経済の競争力としたたかな外交である。経済の競争力の確保は、それがすべての基本となる重要なものである。一方、したたかな外交とは、主体性と柔軟性の両方を持ち合わせた外交である。それは日本人の先祖からずっと伝わってきている心情、心性に根差していなければならない。同時にそれは日本の利益にも根差し、ひいては世界の地球益にも根差していなければならない。この3つに根差していなければ、本当の外交力は生まれてこない。

幸いなことに、この3つを同時に追求するための条件を日本は備えている。それは、日本が次の2つの特徴を持っていることによる。第1の特徴は、古い文化の伝統が、脈々と今日に息づいているということである。日本では、グローバリゼーションが進み、経済、技術は最先端を走っているにもかかわらず、古い文化の伝統もなお生きている。

第2の特徴は、この伝統的な日本の文化が持っている特性である。これは日本人自身もまだ十分に意識していないが、基本的には縄文時代の1万年に培われたものである。縄文時代が1万年も続いたのは、自然を破壊せず自然と共生していたためである。19世紀、20世紀の概念では、自然との共生は未開なものとして扱われ、四大文明が5千年前に出現して初めて人間は進歩したという見方がなされてきた。確かにそれは一面では正しいが、21世紀の世界は明らかにその文明に対して疑問を投げかけている。今は、その文明以前の人類が共通に持っていた、自然との共生という価値をもう一度見直していく時代に入っている。

現在、世界中の様々なところで、このような考え方が現われているが、それを一番強く体現しているのが日本である。日本は自らのそうした部分を遅れたものと見なし、戦前は軍事大国、戦後は経済効率優先でやってきた。日本が持ってきた伝統は、一言でいうと、エコロジーであり、自然にやさしいことである。また別の言葉でいうと、八百万の神に象徴されるように、異文化も含め、あらゆるものを全面肯定するというものである。この2つが、現在のグローバル化しつつある世界の中で、重要な要素となっている。

こうした要素を活用して、日本は具体的に何をすべきなのか。世界にとって共通の課題の1つは、平和の実現、貧困の撲滅である。これに対し最近の世界の対立には、文化や宗教の要素が入り込むようになってきて、それが抜き差しならないところまで来ている。これに対し日本は、世界で最も文化と宗教の対立が存在しない国である。文化の多様性を認める日本は、平和の実現、貧困の撲滅という点で、世界に大いに貢献しうる可能性を持っている。

また、環境問題も世界にとって益々大きな課題となる。現在、世界の人口は60億人で、これが21世紀の半ばには100億人にも達する。同時に、中国などアジアの経済開発も急速に進んでおり、いずれ世界が環境問題で非常な困難に直面することは明らかである。これに対し日本は、縄文時代以来の自然との共生という伝統を生かすことで、世界に貢献していくことができる。さらに、高齢化も世界の重要な課題となる。これからの世界は、中国ですら高齢化が急速に進展していく。日本は世界に先駆けて高齢化していくため、日本の高齢化モデルは、世界に対し大きな教訓となる。

日本が経済の活性化を図っていかなければならないことはいうまでもない。しかし、それと同時に、日本が古来持ち続けてきた価値(value)を再び甦らせる必要がある。この2つを両立することは、世界にとっても重要な課題である。日本固有の価値は、明治以来の近代化の過程で一度は否定された。しかし、それでもなお、日本は両者を両立できる世界で最も可能性のある国である。

これからの日本の外交は、日本が自らの文化の持つ特性を、平和、貧困の撲滅、環境問題、高齢化社会というところで生かすことを基本としたものでなければならない。アメリカ、中国ともこういった面では弱みを持っており、その間に挟まれ、したたかに生きていかなければならない日本が、こうした面で世界をリードしていく意義は大きい。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 日本の強みとこれからの外交 [133 KB]