「ニュー・パブリック・マネジメント」と「電子行政」を結ぶ「システム」を
主任研究員 小野 達也
2002年4月
要旨
ニュー・パブリック・マネジメント広まる
経済の右肩上がり成長の終焉に伴う財政事情の悪化は、行財政運営の効率化を否応なく迫り、また国を挙げての行政改革の一環として地方分権が進んでいる。このような中、多くの地方自治体では1990年代後半より、行政評価の実施や公会計改革、PFI導入等の改革を進めている。これらの取り組みは、欧米の新しい行政運営理論であるニュー・パブリック・マネジメント(NPM)に直接・間接に学んだものである。
国においても中央省庁改革に伴って行政評価が本格的に導入され、民営化・独立行政法人化が進むなどしており、小泉内閣の「骨太方針」ではNPMに言及した上でその「考え方を十分に活かし、政策プロセスの改革を図っていくことが重要である」旨明記されている。
電子行政への加速
電子行政については、昨年政府のe-Japan戦略が決定し、e-Japan重点計画によって電子政府・電子自治体が推進されるなど、国・自治体における情報・通信の基盤整備が一層加速することとなった。
電子行政の推進においては、単なるハード・ソフトの調達や各種手続きの電子化に止まらず、業務プロセスそのものまで変えるビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)など、行政運営自体に関わる取り組みが必要と考えられる。
NPMと電子行政の間の距離
NPMも電子行政も「行政サービスの質的向上と効率化を実現する」という目的は共通であり、行政における改革の取り組みとして両者にはオーバーラップする部分がある。
NPMの基本概念の1つは行政におけるマネジメント・サイクルの導入であり、そのために数量ベースの目標管理が重視され、財政システムとのリンク、アカウンタビリティ(説明責任)の遂行などが求められる。NPMを本格的に実践するためには、PDCAサイクルの導入など行政運営手法自体の改革に加えて、数値データやその補助情報、その他の文字情報など膨大な情報処理が必要となる。
ところが、多くの行政機関では、現実に保有する膨大なデータ・情報が体系的に整理されていないのが現状である。部分的なデータベース化がなされていても、多くが個々のパソコンに散在したり、紙ベースで積み上げられたままであったりする。総務省の研究会が最近行った地方自治体へのアンケートでも、庁内LANが急速に普及する一方、各種データのLAN上での活用が部分的なものに止まっていることがわかる。
一方、電子行政に関しては、IT関連の中央省庁・地方自治体による政府調達が巨大市場となる中で、開発・導入するシステムの重複や連携の悪さといった非効率が指摘され始めた。また、単なるハード・ソフトの導入や手続き・文書の電子化、個別分野への電子化システム導入といった個別の取り組みを超えた、行政運営の全体に関わるような取り組みが、一部の自治体を除いて進んでいないのが現状である。
その最大の原因の1つが、発注側のセクショナリズムである。国であれば個別の分野を越えたシステム構築という発想が乏しく、地方自治体では電子化の担当セクションとマネジメント・セクションとの連携が弱い。これでは個別のシステムはともかく、総合的なIT投資の効果は低くならざるをえない。そもそも統合的な戦略のない投資効果の算定自体難しい。効率という点では、マネジメントが変わらないIT導入は単なるコスト増に終わる可能性がある。
NPMを実践するためのシステム
公共部門においてNPMと電子行政が浸透し始めた現在、求められるのはNPMを実践するための広義の「システム」の構築である。
それは3つの異なるレベルにまたがるシステムとなろう。まず(1)NPMの実践に必要な情報・データを管理するデータ・ウェアハウスが必要で、各種の手続きや業務分野のシステム、庁内のコミュニケーション、アカウンタビリティ遂行といった個々の「アプリケーション」から独立したデータベース本来の性格をもたせる。次に(2)行政運営においてNPMの手法を実践するための制度である。そのための組織(改革)、ルール整備を含む。そして(3)前二者をつなぐ、単なる制度でもツールでもないマネジメントそのものが必要である。過去において各種のコンピュータ・システムの導入や行政運営上の制度導入の多くが、行政サービスの質的向上や効率の向上をもたらさずに終わった原因が、マネジメントの不在にあることは、近年のNPM導入に伴う議論でも明らかになっている。
このようなシステムを構築するためには、コンサルティングやソリューションを提供するベンダーなど、行政の外からの支援も必要となるであろう。