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中国深?市の産業技術政策

主席研究員 安部 忠彦

2002年4月

要旨

サイエンスパーク中心に進む深?市の産学連携

日本から中国への直接投資と中国からの逆輸入が拡大している。速度を速める日本の空洞化対策を考える上で、日本と中国との位置取りがより重要課題となっている。そのため中国現地の産業技術政策や企業の技術水準などの継続的な分析が必要となる。今回、中国深?市の科学技術局より市の産業技術政策を聞く機会を得たので報告する。

深?市では、サイエンスパークを市内に作り企業誘致を進めている。市では、多くの現地企業の技術レベルは、単に海外の技術を持ち込む段階から、ようやく外国の技術を吸収する基盤ができた段階と認識している。このため世界のサイエンスパークにはありがちな、進出企業を研究開発型企業に限定するなどの制限はなく、工場がほとんどだ。

市が現在重視している産業分野は、半導体や液晶などの電子デバイス、バイオ(製薬)、新素材である。中でも電子デバイス分野は9割程度のウエートで特に重視されている。その推進には大学の技術力に頼る必要がある。しかし深?市には大学が1校と少ない。このため全国の有力大学の分校誘致を進めている。この結果、既に北京大学、清華大学、ハルピン工科大学、香港大学等の誘致に成功している。実際、サイエンスパークの中で北京大学と香港大学の分校が共同で1棟の校舎ビルを建設中であった。

有力大学はその傘下にベンチャー企業を有し、独自でビルを建設する資金を持っている。対象学生は社会人が主で、大学側にも民間の意向を知るメリットがあるとしている。

ベンチャー育成体制も次第に進む

ベンチャー企業を育てるのも、産業技術政策の重要な柱となっていた。このため2つの方向が志向されている。

第1は帰国留学生対象のインキュベートビルの設置である。7、8階建ての専用ビルが既に数棟建っているなど積極的な支援を行っている。実際、ここ2、3年で多数の技術者が帰国しており、彼らが毎年行われる市のハイテクフェアで成果を発表し、既に200社程度の企業が設立されたと説明を受けた。深?市の場合、ベンチャーの担い手としては、大学の先生は基礎研究を専門にしているケースが多いとし、それほど期待は大きくなく、むしろ帰国留学生にかけていた。大学には産業指導が期待されているように見られた。企業からの委託研究も出始めているようである。

第2はベンチャー向けの個人投資を優遇する方向である。まだ法律は完備されていないが徐々に整備されつつあるという。投資家はかつては不動産へ投資した。しかし今は不動産では利が薄くなっている。相当多くのベンチャーが成功しかけているとされる現在、ハイテクベンチャーへの投資期待が高まっている。

大学が少ないのと同時に、深?市の産業技術面で見たもう1つの欠点は、ソフトウエア分野での力の入れ方が、近隣の広州市などと比べても弱いことだ。ソフト分野では知的所有権保護が重要だが、その整備は単なる話題ではなく、さし迫った問題としてようやく認識され出した状況にある。WTO加盟も追い風に、知的所有権の保護は先端的な中国企業自身にとっても不可欠な要件という認識が広まりこの分野の保護強化が進む事は、現地の模倣品対策で苦しむ日本企業にとっても有益な事である。

中国の競争力と今後の賃金動向

ちなみに、中国企業の競争力はどのような点に由来していると認識されているかを尋ねたところ、低賃金だけではない意欲的な若者の存在を挙げていた。中国は人が多く競争が激しく、のんびりできず一所懸命働かざるを得ない。同時に、教育を受け競争力をつけた若者に大きなチャンスが与えられ、若者が主役の国になりつつあるという。新たな技術に対応できない年寄りは交代しつつある。しかし年寄りは単に切り捨てられるのではなく、その知恵は尊重され、家庭で孫の世話をするなど居場所もあり家族が面倒みるシステムになっているという。

今後の深?市での人件費の動向については、広範な後背地から、低賃金の、特に若い女性労働者の流入が今後も続く。既に流入した労働者も、それほど学問もない彼女達が都会で長く生き抜くのは難しく、3年程度で貯めた資金を元手に田舎で商売を始める方が成功確率は高いとみなされ、自ら故郷に帰るケースがほとんどだという。そのため、今後も約500元 / 月程度と言われる最低賃金は、GDPの伸び程度には上昇するが、急上昇することは考えにくいと認識されていた。

現在日本の組み立て工場で広がるセル生産は工員の熟練度を要し、短期間で工場を離れる中国の工員にはなじまない方式であるが、しかし幾つかの日系工場では持ち工程数は3程度と少ないが導入が進んでいる。セル方式のみならず、多くの手法に関し急速に追いついてくる中国に対し日本が競争力を維持するには、立ち止まらずに常に新たな進歩を続けるしかないのである。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 中国深?市の産業技術政策 [96.1 KB]