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ガバナンスが真に求められる時代が到来

商船三井 代表取締役会長 生田 正治

2002年4月

要旨

昨今ガバナンスという言葉が様々な面で聞かれる。ガバナンスの概念は、単に企業においてだけではなく、国家、ひいては国際社会においても、今後ますますその重要性を増していくと考えられる。

企業のガバナンス改革で最も求められることは、経営者自身の認識とそれを成し遂げようという決意である。コーポレート・ガバナンスというとアカデミックな面が強調される場合があるが、これは本来、あくまでも商業的な要件である。即ち、経営者自身が、自社の競争力強化を進めていく過程で、日本及びグローバルな資本主義と市場の発展度合いを考え、市場と相談しながら自らその必要性を判断し改革を進めていくべきことである。その結果として、個々の日本企業の競争力が高まっていけば、総和としての日本経済も強くなっていくはずだ。

アメリカ型のガバナンスを直輸入型で導入すべしという意見もあるが、私は必ずしもそのようには考えていない。アメリカのガバナンスは1970年代から市場のニーズによって次第に育まれてきた。ガバナンス改革を行い経営の透明性を高めた企業が、市場からの評価を受けた。アメリカの株式市場は、機関投資家が約7割強、個人投資家が約1割強を占めている。機関投資家の株式投資のうちの8~9割は個人からの委託であるため、結局、株式投資のほとんどは個人投資家によるものである。これら個人投資家、即ち個人株主に代わって、企業の内側から経営をチェックし、透明性を確保するための役割を果たすのが社外取締役である。アメリカでは、社外取締役は取締役全体の8割程度を占めており、場合によってはCEOを変える役割も果たしている。

日本では、近年、株式持ち合いが崩れ、機関投資家、個人投資家の比率も徐々に高まっているが、未だ合わせても30%台と理解する。社外取締役たりうる方々の層も未だ薄く、しかも年収も含め、所謂マーケットも成立していない。その上、大切に育てた従業員の中には商法上の取締役の機能も十分発揮しうる有能な人材も多いので、アメリカのガバナンスをそのまま導入するのではなく、日本に適した形を創出する努力をしては如何かと思う。問題は数ではなく、社外取締役として登用すべき人材の質である。

また、コーポレート・ガバナンスは本来、法律で律するべきものではなく、経営者自身が判断すべき事柄である。例えば、今度の商法改正では取締役の任期が2年から1年とされるが、このような細目は法律ではなく、経営者の判断に委ねるべきである。大会社には社外取締役を1名設けることを法律で義務づける試みがあったが、産業界の反対により見送られたことは至極妥当であった。しかし、だからこそガバナンスに対する経営者自身の見識、時代認識そして自己責任が益々厳しく問われることになる。経営者はこの点を肝に銘ずるべきである。

民間企業は各々がガバナンス強化の努力を進めているが、一方、政治レベルではどうだろう。企業は、市場と株主に対して経営プロセスを透明化することが強く求められるようになっているが、こうしたガバナンスの考え方は国家にとっても重要な要件である。「企業」を「国家」、「経営者」を「政府」、「市場と株主」を「国民や納税者」と読み替えて考えるとよくわかる。

従来、小泉内閣成立までは、日本の政治では、党が実質的な政策決定の役割を担い、政府はそれを執行するにすぎない場合が見られた。しかし、党の機関は公のものではなく、私的なものであり、国政決定の役割を担うのは適当ではない。また日本では、立法作業は行政がほとんど担当し、あたかも立法権を下請けしているような歪みがあった。即ち、三権分立も不分明であり、このような権力構造の中で、最近マスコミを賑わしたような議員の行政への不公正な関与といったことも起こった。

本来あるべき姿は、国会で信任された政府の長である首相が自らのビジョンと責任によって国政を主導するというものである。そして、納税者である国民は企業における株主のような存在として、ガバナンスの観点から政府に説明責任を求める権利を持つ。国民が政治家に成果を問う方法は選挙であるが、その際、国民一人一人の国政への参画の権利が公正かつ公平に保全されている必要がある。つまり、一票の格差がないのが民主主義の基本であり、これが崩れると現状のように政治が歪むこととなる。アメリカやイギリスの下院の例では、一票の格差がないのが原則である。しかしこれまでの日本では、こうした基本が全く欠落していた。

企業と同様のガバナンスを政府に求めていこうとする動きは、OECDにも出てきている。OECD加盟30ヵ国の民間代表による諮問委員会では、これまで民間のガバナンスのあり方につき検討してきたが、企業と同様の理念でガバナンスを各国政府にも求めていこうとの作業を進めている。

更に将来は、国家というレベルにとどまらず、国際社会においてもガバナンスの重要性が増していくと考えられる。各国が各様にガバナンスを持って行動していき、その総和としての国際社会がよくなっていけば、それに越したことはない。しかし、平和と安全、環境、資源の有効利用と保全、貧困との戦いなど、国際社会が抱える課題は多岐にわたる。国際社会の健全な発展のためには、政官民を包括したグローバルなガバナンスを形成し、各々が各々の分野で説明責任を果たしていくことが必要になる。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF ガバナンスが真に求められる時代が到来 [130 KB]