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アジア地域の大気汚染とその対策

主任研究員 武石 礼司

2002年1月

要旨

アジア諸国では経済成長に伴ってエネルギー使用量は増加の一途をたどっており、硫黄酸化物(SOx)及び窒素酸化物(NOx)の排出量も増えて大気汚染が深刻化している。今後もアジア諸国では、SOx及びNOx排出量が多い石炭にエネルギー供給を依存する状況が続かざるを得ず、技術面・資金面両面からの発生抑制の対策が必要である。アジア諸国は「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」を結成し活動を開始しているが、この活動を更に進めるために、越境性がある酸性雨に対する取り組みを条約化し、SOx及びNOx排出量削減のための資金をアジア諸国に回す工夫が必要である。

中国の現状

アジアでは世界のSOx排出量の15%を排出しており、中国がそのうちの70%を占めている。中国では石炭以外のエネルギー源の確保に努めているが、石油、天然ガスともに石炭に代替し得る量は国内では確保できていない。中国では選炭及び排煙脱硫は不十分であり、石炭燃焼により酸性雨が発生し、森林、農作物、健康、更に鉄橋等の構築物にも被害が発生しており、経済的損失は大きい。硫黄含有率が高い石炭の使用が続いているために、重慶や成都といった内陸都市では深刻な大気汚染とともに、酸性雨による被害が生じている。重慶の1980年代におけるSOx濃度は、日本の最も汚染がひどかった時期の2倍を超える高濃度であり、現在も中国の大都市中最悪の大気汚染状況となっている。現在、中国は日本の約6倍のSOx、4~5倍のNOxを排出しており、アジア全体として見ると、中国はSOxの6割、NOxの5割近くを排出している。

中国国内における大気汚染は深刻であり、中国政府は石炭依存度の低下と大気汚染防止のための対策を進めている。しかしながら、一次エネルギー源の75.5%が自国産の石炭であり、特に、四川省及び雲南省から産出される石炭は硫黄分が多く3%を超えている。その他、貴州省、広西省、陝西省の石炭も硫黄分が2%を超えておりエネルギー効率も悪い。褐炭、泥炭など5,000kcal / kg以下のカロリーが低い石炭が燃料として用いられている点も、環境悪化をもたらしている。

中国政府は、1998年以降大・中都市の市内と近郊には石炭火力発電所を建設させず、硫黄分1%以上の石炭を使用する発電所は、排煙脱硫設備を2010年までに建設し、新設発電所は新設時に排煙脱硫設備を設置する政策を導入した。電気事業者のSOx排出量は2000年の排出量を超えることは認めず、SOx排出に対する排出課徴金が課される(0.2元 / SOx 1kg)ことが、1998年に決定されている。この規定どおりに排煙脱硫設備が設置されると、2010年の設備能力は5,000万kW分に達する。ただし、1996年現在で排煙脱硫装置の設置された設備能力は114.5万kWに過ぎず、どこまで実際に増強が進むかは、資金投入がどこまで可能かに依存している。今後、中国全体としてはエネルギー使用量が増えざるを得ず、大気中に硫酸及び硝酸等の酸性物質が増加し大気が酸性化した場合には、酸性雨問題が深刻化し、土壌被害による農産物と森林への影響、健康被害が増加することが懸念される

韓国の対応

韓国でも一時大気汚染が深刻化し、酸性雨の発生が頻繁となった。韓国では暖房用の燃料消費からSOxの3分の1が排出されてきた。ただし韓国では1992年の1,614億トンをピークとして総排出量の抑制に成功している。特に、1998年以降、石炭火力発電所のほぼすべてに排煙脱硫装置の設置と稼動が達成されており、同装置を備えた発電能力の合計は982万kWに達している。韓国の国民所得が上昇し、脱硫設備の設置が1990年代に急速に進んだ効果の現れである。

その他のアジア諸国

台湾の都市部での大気汚染が深刻化している。マレーシアのクアラルンプールを含むクランバレーやタイ北部、ベトナム北部の中国国境に近いラオカイ、及び、南部のホーチミン市近郊においても被害が発生している。

SOx、NO汚染の越境性

大気汚染物質は数千キロメートルにも及んで長距離輸送される。越境性の大気汚染に関しては正確な影響が測定できていないが、中国を発生源とする日本でのSOx沈着寄与率は、中国科学院の見積りの5%から、日本の複数の研究機関の40%まで大きな開きが出ている。日本の研究者の間では、中国での硫黄排出量の数%が日本に輸送され、日本での硫黄沈着量における中国大陸経由の硫黄の寄与率は10~50%との共通認識がある。

アジアにおける取り組み

アジア諸国は1998年4月から「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)」を結成し活動を開始している。各国間の取り組みを効果的に進めるためには、越境性がある酸性雨に対する取組みを条約化することが望ましい。欧州では既に1979年に長距離越境大気汚染条約が締結されている。ただし、アジア地域には経済発展の程度が異なる国が存在しており、そのため汚染を押さえるために経済的に担える費用には大きな差異がある。火力発電所に公害防止装置が導入されるには、1国の1人当たりGDPが3,000ドルから6,000ドル以上に達する必要があると言われるが、中国をはじめとしてアジア諸国で設備導入が進むまでにはまだ時間が必要である。

ただし一旦発生したSOx及びNOxは、CO2とは異なり、脱硫・脱硝設備を設置することで排出量を大幅に削減できる。特に日本の石炭火力では、脱硫率95%の排煙脱硫装置が設置されており大幅な削減が達成されている。アジアの酸性雨問題を克服するためには、SOxの限界排出削減費用が高額となっている日本で更にSOx排出を削減するよりも、中国をはじめとしたアジア諸国に資金を回す工夫をし、越境による被害の減少を図ることがアジア全体としてみると最も効果的であり、そのための条約締結に向けた各国の取り組みが期待される。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF アジア地域の大気汚染とその対策 [131 KB]