電子商取引と課税制度
エコノミスト・アシスタント 吉田 倫子
2002年1月
要旨
電子商取引が世界的規模で急速に拡大してきたことによって、取引に関わる課税問題が焦眉の問題として浮上している。課税上のモニタリングの困難さや納税機会の減少、また各国の租税政策上の相違も懸念の対象である。今後、特に国境を越えた電子商取引の規模が拡大すればするほど、租税収入へのインパクトや制度的脆弱性が深刻な問題として露呈してくる。一国のみの問題ではないため国際的に足並みを揃えられるようにしなければならない。
捕捉の困難性と租税原則における問題点
取引がネットワーク化されることで、個人(消費者)はインターネットにアクセスできさえすれば、世界中どこからでも簡単に商品を購入できるようになった。個人による国境を越えた商品の購入については、国によって税制が違うため、現在は税関を通じてしか捕捉することができず、しかも税関ではコスト面の問題から個々の輸入物をすべてチェックするのは不可能である。
物理的な商品の場合はまだしも、ソフトウェアや音楽データなどのデジタル財の場合は直接コンピュータにダウンロードされるため、取引を捕捉することは非常に困難であり、個人取引だけでなく企業間の取引においても脱税が行われる可能性がある。
電子商取引に対する各国のアプローチは多様である。このような事態の進展は、国家間の租税競争条件の歪みという問題を引き起こしている。税の中立性の原則に従えば、電子商取引と他の形態の取引を差別して、どちらかを有利にまた不利にも扱ってはならない。
米国及びEUにおける現状
米国の売上税は、日本の消費税とは違い連邦税ではなく州・地方レベルで課せられており、その扱い(何を課税対象とみなし、何%の税率が適用されるか)はそれぞれ異なる。しかも、アラスカやデラウェアなど5つの州では小売売上税が課せられていない。
米国では州際取引においても問題がある。州際取引において売上税を課すことが困難なものに対して使用税を課す制度があるが、これは売り手が買い手の州にネクサスと呼ばれる何らかの物理的な存在を有していれば、売り手に徴税義務があり、なければ買い手が自分で納税するというものである。しかし実際には買い手がそのように納税するケースはほとんどないと言ってよい。日本経済新聞2001年10月8日(データの出所はテネシー大の調査)によれば、米国の州政府が電子商取引により捕捉不能となる税収は2001年で133億ドルに達するという。
EUにおける現行のVAT(付加価値税)ルールでは、原則としてEU域外から域内へのサービスの提供に関しては十分に法的整備がなされておらず、課税されていない。これは、EU域内の事業者の立場を不利にするものとされている。
EUではこのような制度的欠陥をふまえ、EUにおいて消費されるものはEU内で課税できるようにする改正案を出している。改正案に盛られたオンラインのデジタル財取引における主な提案は以下のとおりである。
(1) EU加盟国間の企業間取引 : デジタル財の輸入業者が自国で自己申告。
(2) EU加盟国間の企業・消費者間取引 : 財の供給業者の所在地で課税。
(3) EU域外企業→EU域内企業 : 財の輸入業者が自国で自己申告。
(4) EU域外企業→EU域内消費者 : 域外事業者は任意の一国でVATの登録をし、登録国の税率で納税。(ただし、EU域内消費者への売上総額が年間10万ユーロ以下の企業は免税。)
(5) EU域内企業→EU域外消費者 : EUのVAT税制は適用されず、消費者の所在地の税を適用。
しかし、現在EU内で最も低税率であるルクセンブルク(15%)に税収が集中するという問題が持ち上がっており、英国などが批判している。
国際協調の必要性と新しい技術の利用
OECDでは1997年頃より議論が行われ、課税問題に対する基本的な視点についてはコンセンサスが得られつつあり、2001年2月にはその進捗状況が報告されている。
直接税に関してはPE(Permanent Establishment : 恒久的施設)と呼ばれる課税上の拠点が問題となるが、ウェブサイト自体はPEとならないと決定されたものの、実際にPEとなりうるものの条件が明確だとは言えない。
インターネットの性格上、ネットを使ったクロスボーダー取引は珍しいものではないが、税制がそれに追いついていない。もっとも問題の大きいのはクロスボーダーのデジタル財の取引だが、それだけならば税制全体への影響は小さいものかもしれない。しかし、「公平・中立・簡素」という税の原則からいえば決して無視できるものではない。国際的な整合性を考慮しながら、最適な税制のあり方を議論していくべきである。
徴税のあり方を簡素化するものとして、第三者的な機関の活用やソフトウェアの利用が検討されている。実際にクロスボーダー取引に応じたソフトウェアも開発されており、制度の検討とともにASPなど新しい技術を利用したソフトウェアの動向にも注目すべきである。
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF 電子商取引と課税制度 [97.9 KB]
