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ITスコアカードによる情報システム投資の評価

主任研究員 浜屋 敏

2002年1月

要旨

業務プロセスなども考慮した評価手法の必要性

企業が情報システムを導入する場合、その情報システムに合わせて業務の流れ(ビジネス・プロセス)を変えるだけでなく、意思決定構造や従業員の業績評価基準なども変えなければ、大きな効果を期待することはできない。たとえば、マサチューセッツ工科大学のブリンジョルフソン教授らが行った分析によれば、米国企業においてIT投資は生産性向上に貢献しているが、その貢献の46%は「企業固有の要因」に起因するものであった1)。「企業固有の要因」とは、各企業における経営の巧拙やITを使うための従業員の能力など、情報システムそのものとは直接的に関係ないものである。情報システムは企業におけるコミュニケーションや協働のあり方に大きな影響を与えるために、その効果を高めるためには、他の資本以上に、投資に合わせて業務プロセスの見直しや新しい人事制度などの導入を行うことが必要になる。

ところが、これまで情報システム投資の評価を行う際に利用されてきた手法は、投資に対する効果を金額換算して現在価値を計算したり、投資の回収期間や利回りを推計するといった一般的な資本に対する評価手法と同じものであった。最近では、投資に対する不確実性(リスク)を考慮したリアル・オプションを活用した手法や、投資の効果をより総合的に把握するためにバランス・スコアカードを利用した手法などが提案されているが、そのような新しい手法はまだ一般に普及しているとはいいがたい。従来の伝統的な評価手法を使うならば、たとえば情報システムそのものは優れていたとしても、情報システム以外の要因に原因があった場合、あたかも情報システムが悪いかのような結果になってしまう惧れがある。また、従来のIT投資評価手法を使う限り、ITに対する投資が効果を上げているかどうかということは検証できるとしても、何を改善すれば高い効果を得ることができるかといったアクションにはつながらない場合が多い。改善のためのアクションを重視するならば、情報システムだけではなく、業務プロセスの改善度や組織構造・人事制度の適切さをも評価できる手法が必要になる。

以上のような問題意識に基づいて、今般、業務プロセスなどIT以外の要因も考慮したIT投資の評価を行うための「ITスコアカード」を試作し、実証分析を行った。今回試作したITスコアカードでは、IT投資の効果に影響を与える要因として、(1)ITガバナンス(ITが企業経営の中でどのように位置付けられ、IT投資がどのようにコントロールされているかということ)、(2)ITインフラの整備、(3)業務プロセスの見直し、(4)組織構造・人事制度の見直しという4つを抽出し、合計50の質問項目を作成した。試作したITスコアカードを上場企業(3,402社)の情報システム担当部門長に配布し、420社から回答を得た。

今回収集したデータは、回答者が自らの企業について自ら評価して回答するものであるため、スコアの大きさは回答者の主観によって異なり、必ずしもスコアの高い企業が本当に優れているとは限らない。そのようなデータ上の問題点はあるものの、データを分析するといくつかの興味深い結果を得ることができた。

スコアの分散と業績には負の相関

まず明らかになったことは、4つの要因には高い相関関係があるということである。たとえば、「ITガバナンス」のスコアが高い企業は、他の要因(たとえば「組織構造・人事制度の見直し」)のスコアも高い。この点については、ある質問に高いスコアを記入した回答者は他の質問についても無意識に高いスコアをつけてしまうといったバイアスも考えられるが、より単純に考えれば、経営改善の意識の高い企業はITガバナンスも進んでおり、ITインフラの整備も行われており、業務プロセスの改善、組織構造や人事制度の見直しにも積極的であるということである。逆に言えば、経営改善の意識の低い企業はすべての要因において消極的なのであり、今後これらの企業の間で二極分化が進むことも考えられる。

上述したような理由からスコアの大きさをそのまま本当の優劣と考えることには慎重であるべきだが、試みのためにスコアの大きさと企業の生産性(業種調整後の従業員1人当たりの売上高)の相関関係を分析してみると、4つの要因と生産性の間にはいずれも統計的に有意な正の相関があることがわかった。スコアの大きさで個別企業の優劣を判断することは不可能だが、全体的に見れば、スコアと業績の間には相関関係が存在すると判断してもよいかもしれない。更に興味深いのは、スコアの分散と生産性との間に明確な負の相関があることである。スコアの大きさに関係なく50の質問に対するスコアのバラツキが大きいほど、生産性は低くなっている。このことは、当初想定したとおり4つの要因のバランスが取れているほどIT投資の効果も大きいことを示唆している。

今回試作したITスコアカードは、記入者自らの判断でスコアを記入するという恣意性はあるものの、インタビューによってスコアの客観性を高めたり、時系列でデータを集めてスコアの信頼性を評価したりすることもできる。今後、質問項目の改善とともに信頼度の高いデータを集めることができれば、わが国の企業における真の課題がIT投資にあるのか、それとも業務プロセスにあるのか、人事制度や組織構造にあるのかといったことを定量的に分析することが可能になる。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF ITスコアカードによる情報システム投資の評価 [132 KB]