「電子政府」の実現とIT-PFI
主任研究員 峰滝 和典
2002年1月
要旨
「電子政府」についてのこれまでの経緯
「電子政府」構想は、1997年12月に策定された「行政情報化推進基本計画」に沿って進められてきた。その後、小渕政権時のミレニアム・プロジェクトにおいて、2003年までに民間から政府、政府から民間への行政手続きを、インターネットを利用しベーパーレスで行える電子政府の基盤を構築するとこととなった。具体的には(1)行政情報の電子的提供、(2)申請・届出等手続の電子化に関する基盤整備、(3)調達の電子化(公共事業を除く)、(4)地方公共団体の情報化を先導するための実証実験である。このミレニアム・プロジェクトでは、タイム・スケジュールが明確になったこと、省庁横断的なプロジェクトと位置付けられたこと、国と地方を一体化して考えていること等、評価できる点も多い。
現在の小泉政権も「電子政府」の実現を優先課題と考えており、「改革工程表」においても、「次期通常国会に行政手続のオンライン化に伴う関係法律案を提出し、申請・届出等のオンライン化を更に前倒しして実施する」と述べている。
「電子政府」とは、国・地方を問わず、行政の幅広い分野でITを活用することであり、それにより国民サービスの質の向上と行政の効率化を目的としている。行政手続の簡素化は、国民の行政コスト負担を軽減し、時間節約等利便性の向上といったメリットをもたらす。
「電子政府」の推進とIT-PFI
「電子政府」を実現するためには、日本の公的システムに変革をもたらさなければならない。米国の実証研究の多くが教えるように、IT投資は企業組織のスリム化・フラット化を伴わなければ単なるコスト増に終ってしまう。同じことは公的セクターにおいても言える。国・地方の公的セクターをスリム化することが重要である。「電子政府」の実現には、小泉政権が掲げる行政改革の実施が不可欠となる。
また巨額の財政赤字を抱えている国・地方政府にとって、「電子政府」の実現に必要なIT投資のコストはかなり重いに相違ない。そのコスト負担をどう処理するのかが次の問題である。特に財政基盤の弱い地域の地方自治体がどのように取り組むかが課題である。
地方自治体による「電子政府」の推進をサポートする1つの方策は、IT-PFIである。PFIは、公共サービスに民間の資金やノウハウを導入して、効率的で質の高い公共サービスを提供するものである。PFIを導入すると、これまで公的セクターが所有していた資産を民間が所有することになる。公的セクターはその使用料を支払うわけである。こうした、PFIの考えをITに応用したのが、IT-PFIである。IT-PFIのメリットの1つは、通常のPFIより大きなコスト削減効果が期待できるということである。ITプロジェクトは通常、設計、建設が終わった後もシステムの運用・保守・改良のためにかなりのコストが毎年発生する。PFIにより長期契約が可能となれば、民間企業の創意工夫によって、コストを削減することができる。
PFI先進国イギリスにおけるIT-PFIの事例としては新国民保険記録システム(NIRS2)がある。これはイギリス最初のPFIによるITプロジェクトであり、契約金額ベースで欧州最大のITシステムの1つであり、IT-PFI利用によって大幅なコストが削減されたという。また、米国の事例ではノースカロライナ州の情報ハイウェイ(North Carolina Information Highway = NCIH)が有名である。NCIHは官民のパートナーシップにより構築された広域ネットワークであり、これにより遠隔地教育システムの利用、医療サービスの質の向上、行政サービスの質の向上、行政事務の効率化が実現したと言われる。
IT-PFIの普及には公正な入札制度の存在が不可欠であることは言うまでもないが、過度な安値入札競争を防ぎ支障なくシステム開発を行わせるためにも、依頼元が応札企業のシステム開発能力を適切に評価することが重要である。日本においても、今年3月に策定された「e-Japan重点計画」に、システム開発に係る評価指標の策定と普及が必要であると述べられている。ソフトウェア開発の評価システムとしては、米国のCMM(Capacity Maturity Model)と欧州のSPICE(Software Process Improvement and Capacity dEtermination)が有名である。CMMは米国国防総省の依頼によってカーネギーメロン大学に設立され、開発されたものである。完成後、米国国防関連のシステムで導入され、ソフトウェアの品質向上で効果が認められ、世界的に普及している。アジア諸国においてもCMMを利用して、ソフトウェア企業の客観的な能力評価の実現を図り、欧米市場への進出を有利に進めようという動きがある。日本においても2002年4月に、日本版CMMが完成し公表される予定になっいる。
日本のPFIは99年にスタートしてまだ日が浅いが、IT関連分野に応用したIT-PFIに対する期待は今後高まっていくことであろう。「電子政府」を全国規模で実現するためには、地方自治体の取り組みが肝要である。今後、IT産業全体としての付加価値の源泉は、ハードウェアから、ソフトウェア、コンテンツ、情報サービスへと推移していくことが予測される。地元にソフトウェア産業を集積させ、発展させるためにも、各々の地方自治体が「電子政府」の実現に積極的に取り組むことが必要となる。その際、IT-PFIは有効な手段の1つとなるであろう。
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