強まる地方自治体への財政緊縮圧力
主任研究員 田澤 陽一
2002年1月
要旨
実現性が計数面から見えてこない地方財政健全化
小泉内閣の「骨太の方針」においては、国の財政再建への取り組みと「歩を一にして、地方財政の健全化を進める」ものとされた。国と地方の財政関係についても、国の関与縮小、交付税の算定基準の明確化・簡素化、税源の委譲などの基本方針が提示された。これに伴い総務省は、地方税中心の歳入構造を実現すべく、税源委譲等により国税と地方税の比率を現在の6対4から1対1へ変更することを検討中である。
しかし計数面から見た改革の実現可能性は必ずしも明らかではない。地方財政健全化のためには目先の予算編成上の事情のみにとらわれず、中期的にも一定の目標を定め、必要となる「要調整額」を算定しておくことが最低限必要だろう。ここでは国の財政再建策につき一定の前提を置いたうえで、地方財政全体の中期的姿を試算してみたい。なお、試算の起点としては2001年度予算ベースの「地方財政計画」を用いる。
地方交付税交付金が減額なら地方財政バランスは急激に悪化
税源委譲策については、現在6対4の国税・地方税比率を1対1に変更すると、約7兆円の税源委譲となる。税源委譲単体では一見、地方財政収支を改善させる効果を持つようにも見えよう。しかし国の財政バランスの悪化度合から見て、地方への大規模な税源委譲策を実施した場合は、それを上回る規模の地方交付税交付金の削減が必要となろう。その規模を想定するためには、税源委譲策がなかった場合の国の財政要調整額をベースに考えておくことが有用だ。
まず前提となる国の財政動向だが、短期的にはともかく中期的には国債発行額が30兆円を大きく上回る状態を維持できるかどうかは疑問である。2001年2月発表の財務省「財政の中期展望」をベースラインと考え、30兆円を中期的な国債発行額のキャップと仮定すれば、増税がない場合は2002年度以降も毎年3兆円程度ずつ歳出削減していく必要が生じよう。更に「骨太の方針」で財政再建の中期目標とされているプライマリーバランスの黒字化を目指す場合、国債発行額を概ね20兆円以内に抑制することが必要となろう。当然、より一層の増収策または歳出削減が必要となる。
そこでやや大胆な仮定であるが、歳出削減については毎年約2兆円が地方交付税の減額により賄われるものと想定した。これは、仮に国から地方へ7兆円の税源委譲があるとすれば、その一方で地方交付税交付金を9兆円削減することに相当する。
地方税収のうち税源委譲に関る部分以外については、名目GDP成長率を2002~2004年度0.0%、2005年度以降2.0%とし、同率で増加すると仮定した。歳出については、公債費を地方債の予想償還額と金利の将来仮定(名目GDP成長率+1.5%)に基づき試算した。その他の歳出は概ね2001年度水準から増加させないと仮定した。
試算によれば、2001年度計画で約12兆円であった地方債発行額は9年後の2010年度には28兆円まで増加する。また地方財政の普通会計ベースのプライマリーバランスは、予算ベースでは2001年度現在で9,000億円弱の黒字とみられ、概ね均衡圏内にあると考えられる。しかしこのプライマリーバランスも、今後大幅な悪化が懸念され、2010年度時点で約9.6兆円のマイナスと試算される。地方債現在高は2000年度末の129兆円に対して210兆円となり、80兆円強の大幅増と試算される。
地方財政においても数値目標は重要
多くの金融市場参加者や格付機関などの間では、現行の財政制度の下で、国は地方債の元利償還の保証に近似した機能を果たしているものと理解されている。「地方財政計画」に基づく地方交付税による財源保証、地方債許可制度、地方財政再建特別措置法下での財政再建措置などを通じ、国が地方債の信用を補完していると解釈可能なためである。しかし国自体の財政事情が厳しさを増す中で、地方自治体に対する信用補完の余力についても、金融市場では一層シビアに評価されることが予想される。
現実には、前述の試算のような大幅な財政バランスの悪化が実現に至る前に、地方財政赤字の維持可能性に大きな疑義が生じる可能性があろう。こうした観点からは、地方財政についてもプライマリーバランス均衡のような中期的な財政健全化の数値目標を導入することが望まれる。仮に、2005年度以降2010年度までに、普通会計ベースのプライマリーバランス均衡の回復を目指し地方債発行額を抑制するならば、2010年度までの累計で約34兆円の要調整額が生じる。財政再建への取り組みがこれより遅れれば、累計額は更に増大しよう。地方の新たな税源確保が重要な政治課題となっているが、国の財政事情の厳しさから見て税源委譲だけでは足りず、国・地方を通じたネット増税となる可能性もある。こうした中、税源確保策も、その使途を通じ行政サービスの効率化につなげ、経済成長に資するという視点が欠かせないものとなろう。また上記試算に見る要調整額の大きさに鑑みれば、税源確保だけではなく地方自治体の歳出カットも相当の決意を持って進めることが必要となろう。地方債発行によるファイナンスの維持可能性の観点からも、地方財政の「小さな政府」化を強力に推進することが望まれよう。
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