中国における国有企業民営化の第一歩
- 注目される国有株式の譲渡
主任研究員 柯 隆
2001年10月
要旨
国有企業を株式会社に転換させ、その一部につき株式を公開するというのはここ数年の国有企業改革の趨勢である。株式公開は、国有企業の資金調達の多元化に貢献できるのみならず、国有企業経営に対するガバナンスの強化にも寄与するものと思われる。
ただし現状においては、株式の大半が国家あるいは企業法人によって保有されているため、コーポレートガバナンスの強化が実現されず、現行の制度は、逆に政府による国有企業経営への干渉の温床となっていると指摘されている。政府は、更なる国有企業改革として国家保有の株式を企業法人に譲渡し、それから段階的に市場に放出する計画である。しかし、国有株の大量放出による株式市場の需給悪化が株価の暴落につながる恐れがあり、その影響を最小に止めることが重要である。
現代企業制度の確立とは
中国では国有企業改革が、国有企業を株式会社に転換させ、企業経営と所有を分離し、経営責任を明確化する、いわゆる現代企業制度の確立を目指す形で進められている。現行の国有企業制度においては、1.国家という所有主体や「憲法」で規定されている「全人民所有制」の中身がいずれもあいまいなものである。また、2.所有者である国家に代わって企業経営に携わる総経理(社長)の権限もしばしば政府部門によって干渉されている。この2点は、利益最大化を追求する企業経営の目標達成を妨げる、現行制度の欠陥といえる。
1993年「公司法」の制定・施行をきっかけに、国有企業の株式会社化が推し進められてきた。国有企業が株式会社に転換すれば、利潤追求の動機が働くようになり、中長期的に企業経営の効率化につながることが期待される。政府は、国有企業全体の経営を根本的に改善させるために、これから更に多くの国有企業を株式会社に転換させるとしている。そのなかで、資本関係が明確であり業績が良い一部の企業については、その株式を公開する。現に国内の2つの株式市場で株式公開を果たした企業は、2001年7月末現在1,100社程度となっている。
国有企業にとり株式を公開することは、少なくとも次のようないくつかの意義をもつ。
第1に資金調達が多元化する。これまで国有企業の資金調達は主として国有銀行に頼ってきた。しかし、間接金融市場からの資金調達は、企業の負債比率を高め、経営を悪化させる一因になっていると思われる。国有企業経営悪化の原因の1つは、低い収益率にある。
第2に情報開示を促しコーポレートガバナンスを強化する。政府による企業経営に対する監督が十分ではないことは明らかである。国有企業の経営を根本的に改善させるためには、企業の経営情報を開示し、企業経営に対するガバナンスを強化する必要がある。
第3に経営責任を明確化し、政府部門による企業経営への干渉を排除する。国有企業の複雑な資本関係を背景に、政府部門は恣意的に企業経営に干渉をしてきた。株式公開を果たした企業は、その資本関係が明確化し、政府も配当を得る一株主として位置付けられる。
国有企業民営化の第一歩となる国家保有株式の譲渡
しかし、株式会社に転換したからといって、多くの企業は必ずしも経営改善に向かうわけではない。その原因を上場企業と未上場企業に分けて分析すると、次のとおりである。既に株式公開を果たした企業をみると、公開されている株式のシェアは、企業によって異なるが、株式全体の約3割程度である。残りの約7割は政府が所有する「国家株」と企業が保有する「法人株」になっている。この2種類の株式は規定により公開・流通できない。これでは、株式公開は企業にとり単なる資金調達の手段にすぎず、企業経営に対するコーポレートガバナンスの強化にはつながらない。
一方、未上場企業の場合はその事情が更に複雑である。第1にその資本関係と利権が複雑に入り混じっている。そもそも国有企業はどこかの政府官庁に帰属するものである。たとえば、○○機械工場は機械工業部ないし工業局に帰属する。1980年代以降の行政改革で多くの官庁が統廃合され、国有企業の帰属先もその都度変更された。このようなプロセスのなかで、国有企業をめぐる利権は複雑化している。
国有企業をめぐる複雑な資本関係と利権を整理する唯一の解決法は、国家が保有する株式を民間に譲渡することである。この改革は企業に対するコーポレートガバナンスの強化に貢献するのみならず、既に悪くなっている国家財政収支の収益改善にも寄与する。
社会主義の看板を降ろしていない中国では、国家保有株の民間への譲渡は国有企業の民営化につながり、イデオロギー上の問題が残る。英語のprivatizationは、中国語に訳すと「民営化」と「私営化」という2通りの訳がある。今のところ民営化は幅広く受け入れられているが、私営化はまだまだ政府部内において拒否反応を引き起こす可能性が高い。
このような事情を考慮して、政府部内においては、民営化の第一歩として国家保有株を法人企業に譲渡する改革案が考案され、その基本方針が既にマスコミに公表されている。関係者によると、国家保有株の譲渡は、第1段階としては、企業法人への委譲が中心であり、株式市場では流通しないとされている。その場合、譲渡先として考えられるのは、1.当該企業、2.その他の企業法人、3.外国企業、という3つの案がある。可能性がもっとも高いと思われるのは、1.と2.の組合せである。将来、株式市場での流通が認められる段階で、外国企業への譲渡も十分に考えられる。
国内専門家の多くは、国家保有株の譲渡による株式市場への影響を懸念している。国家株が株式市場に放出されることに伴い、株価が暴落する恐れがあり、大不況を引き起こす恐れがあると懸念しているからだ。このような懸念に配慮し、政府は当面国家株の譲渡先を法人に限定する。株式市場とマクロ経済の状況を十分に見極めたうえ、将来的には市場で売却することも考えられ、今後の動向が注目される。
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