環境経営の新潮流 : 多様なステイクホルダーとの関係強化へ
上級研究員 生田 孝史
2001年10月
要旨
定着する社会的責任としての位置付け
多くの先進国では、企業の環境問題への対応は、社会的責任の一環として考えられるようになってきた。企業は社会の一部であり、エルキントン(1997)が唱えたように、収益(Profit)、人々(People : 人権、健康、安全など)、地球(Planet : 自然環境)の「3P」について、価値を創造する責任があるという考え方が定着してきているようだ。
社会的責任を果たしていない企業は、顧客・消費者、株主、金融機関、地域社会、従業員などのステイクホルダー(利害関係者)から敬遠される。更に、情報化の進展によって、ステイクホルダーは企業や製品の情報を容易に入手できるようになり、その評価情報が瞬時に広範に伝播されるようになった。企業のアクションに対するステイクホルダーのリアクションはより迅速かつ大規模となりうる。
社会的責任に留意しない企業はマーケットを失うリスクが高い。2000年9月に欧州12ヵ国で実施された消費者調査では、70%の消費者が商品購入の際に企業の社会性に留意し、また20%の消費者は環境・社会的責任に配慮した商品を高くても購入すると回答している。
企業の社会的責任に対する市場の関心も高い。何らかの形で企業の社会性を考慮したファンドの規模は、イギリスで500億ポンド(約9兆円)以上、アメリカでは2兆ドル(約240兆円)以上と言われている。1999年9月にはダウジョーンズが、企業の社会的責任投資インデックスDJSGIを開始し、世界で20以上の金融機関がライセンスを持ち、15億ドル(約1,800億円)以上の資金が運用されている。今年7月にはフィナンシャルタイムスが同様のインデックスFTSE4Goodを開始した。
更に、環境に配慮しない企業は優秀な人材を確保できないという認識も高まっている。オーストラリアでは、企業の環境設備の投資判断において最も重視するのが従業員(以下、顧客、投資家の順)という調査結果が報告されている。音楽産業のEMIは、社内調査によって「従業員の77%が自社の環境対応の社会的信頼性が競争力を高めると考える」ことが判明したため、従業員を強く意識した環境経営を行っている。
政府の役割の変化とグリーン・アライアンス
企業の環境対応を促すための政府の役割も変わりつつある。欧州では、企業市民の責務は、政府ではなく、社会全体が決定するという考えが強い。このため、政府は規制者としてではなく、社会の意思決定の調停者として働くことが望ましいと考えられている。
オランダでは、企業の持続可能なビジネスを促すための組織として、1999年にNIDO(National Initiative for Sustainable Development)が政府のファンドによって設立された。NIDOプログラムの特色は、企業とステイクホルダーの対話を主軸とすることである。現在、オランダ国内大手25企業が、NGOや金融機関などとの協力の下、持続可能ビジネスの計測と市場コミュニケーション手法の開発のプログラムに参加している。
近年、企業がNGOとの間で、環境対応の目標に対する取り決めを行う「グリーン・アライアンス」が活発となっている。このように、環境問題に関してステイクホルダーの意識向上と専門知識の習得が進む一方、企業側もより積極的な環境対応を進めようとしているなかで、その仲介役としてNGOが重視されている。例えば、マクドナルド(容器素材・リサイクル分野)、ボディーショップ(非動物試験商品)、林業組合(持続可能な林業)、ユニリバー(持続可能な漁法)などが、それぞれ大手の環境NGOとアライアンスを結んでいる。「グリーン・アライアンス」が政府の役割を代替するかどうかは議論が分かれているが、企業の環境問題の対話相手として、政府の重要性が薄れていることは確かなようである。
もちろん、すべての企業が環境対応を積極的に進めているわけではない。今年6月にはイギリスのトップ200社の半数近くが、企業の社会的責任及び環境パフォーマンスの情報開示を行っていないという調査結果が発表された。イギリス政府は今年中にトップ350社が年次環境報告書を提出しなければ、義務付けも辞さないという態度を示している。
このように、政府の役割は、調整機能に加えて、自主的行動を取ろうとする大手企業の監視者として、また、環境意識が低く企業体力も弱い中小企業の支援者として、徐々に変化しつつある。
日本へのインプリケーション
日本企業も、最近では、ISO14001の取得や環境報告書の作成・公表など、ステイクホルダーに判り易いかたちで、環境経営に取り組む努力を行っているようである。
しかし、他の先進国と比較すると、日本企業が重視するステイクホルダーの範囲は狭く、ステイクホルダーとの双方向型の意思疎通も十分ではない。
今後、日本企業に求められることは、第1に、環境経営を企業の社会的責任という観点から実行することである。第2に、株主重視の経営から更に一歩進んで、社会の全ステイクホルダーを対象とした企業経営を目指し、企業市民としての企業価値の創造を図ることである。
全文はPDFファイルをご参照ください。
PDF 環境経営の新潮流 : 多様なステイクホルダーとの関係強化へ [99.6 KB]
