カリフォルニアの電力危機とその教訓
主任研究員 武石 礼司
2001年10月
要旨
米国のカリフォルニア州で生じた電力危機は、日本の電力自由化を進めるにあたって大きな教訓を与えてくれる。発電能力の維持・増強を可能とするためには、制度上の制約(固定小売価格といった制度)を取り除いておく必要がある。一方、送電容量の確保のためには設備投資のためのインセンティブを与えて、送電設備の能力を維持・増強する必要がある。競争を喚起して余剰コストを削減する必要がある発電部門・電力小売部門と比べて、適正な能力を維持できているかの確認が必要である送電部門に対しては、情報を公開しつつ、適正な送電容量を確保するための方策が必要となる。
電力危機発生の原因
カリフォルニア州の公益事業委員会(CPUC)及び最近破産申請をしたPG&E社からのヒヤリング(2001年3月)の結果、米国全体にあてはまる構造的な問題がカリフォルニア州で端的に現れ、そのために電力危機が発生したことが明らかになった。同州では、発電能力の増強は10年間にわたり行われておらず、しかも送電線に関しても能力増強が不十分であった。一方、米国の好景気が持続するとともに同州へ流入する人口が増え、更にIT化の進展により、電力を夜間も含めて持続的に消費するサーバー等による電力負荷の増大があった。このため、負荷率の高いベースロード向けの発電設備が不足気味となり、ミドル及びピークロード向けの設備も動員して2000年の夏季は何とか乗り切ったものの、電力需要ピークが夏季の最大時の3分の2となる2001年1月に至って、計画停電を実施せざるを得ない事態に至った。しかも、カリフォルニア州の送電線による電力供給網はバランスが取れておらず、サンフランシスコで停電が生じたときに、ロサンゼルスでは電力供給余力があったにもかかわらず送電することができなかった。
その後の状況と展望
民主党の地盤であるカリフォルニア州に対しては、ブッシュ政権は事態を静観する構えを見せた。米国の太平洋岸等の西部地域各州間では、不十分ではあるが送電線による電力融通が行われているが、この地域に隣接するブッシュ大統領の地元のテキサス州は、米国の電力網の中でも独立している。米国西部地域との連繋はほとんど取れておらず、独立した供給エリアであり、カリフォルニア州に向けた送電を行うことは設備的にもできない。今夏には、再び供給不足が生じて計画停電(rolling outages)が発生するのではないかと考えられたが、現在(8月末)までのところ電力供給は安定している。
今夏の供給安定の要因としては、ITバブルの収束という経済要因が一番大きく働いている。ただし、カリフォルニア州で構造的な問題により現在の電力危機が発生した以上、ガス焚きの発電所の建設許可が即座に出されるといった対処策がとられても、より長期的な視点からの対策が必要となる。カリフォルニア州外からの電力供給に期待しても、隣接するネバダ州等の電力供給余力は大きくなく、カリフォルニア州に売ると自州内の電力価格が上昇してしまう状況にある。アイオワ州等の近隣州のどこにおいても、州間をつなぐ送電系統を通じて、カリフォルニア州で生じた電力価格上昇の影響を受けた。このような状況から見て、発電に関して他州に大きく依存することはできない状況に変わりはない。
カリフォルニア州内における電力供給能力の増強は、最近10年間ほとんど進んでいなかったが、電力供給が不足するとの危機感から、同州内での発電所の建設に対する住民の反対(NIMBYイズムと呼ばれる、自分の家の裏庭にすら送電線も発電所も何も作らせないとの主張 : Not in my back-yard)も、若干緩和の兆しが見られ、発電設備の増強計画が進められている。今回、カリフォルニア州では、緊急手段が採用されて州が一時的に電力供給を肩代わりしているが、事態が沈静化すれば、電力部門は再び民間に任されることになる。民主的な手続きをとりながら何とか電力供給不足の問題を解決していこうとすると、採用できる手段も限られており、電力取引の市場の中で解決していく必要がある。例えば、リアルタイムメーター(電力需要家が消費している電力価格が即時に表示されるメーター(電力量計))の導入をあげることができる。このメーターを個々の電力需要家に設置すると、需要の抑制効果が生じて、ピーク需要がカットされる効果が生じるとされる。メーター導入を電力会社が行い、「需要家に無料で配ってもピークカットの効果により電力会社はペイする」ことから、メーターの導入を勧めている民間企業が存在していた。電力需要量を減らす経済停滞が、電力危機に対する特効薬であることは確かであるが、危機が発生したという記憶が新鮮な間に、エネルギー節約のための各種の手立てを導入していくことが望ましい。米国内では、現在こうした様々なアイディアが出されてきている。
日本の電力自由化に向けてのインプリケーション
2003年に向けた自由化の見直しにおいては、自由化範囲を、特別高圧で受電する大口需要家から高圧受電する需要家まで拡大するとともに、電力卸売りの面において一層の自由化が進むように、既存電力会社の発電部門に競争を促す制度を導入すべきであると考える。そのためには、送電部門に対する区分経理が既に導入されている中で、既存電力会社の発電部門においても託送料金を負担させる方式の導入が、卸電力部門における公平な競争を促すために有効であると考えられる。カリフォルニア州での失敗を繰り返さないためにも、小売価格に上限を定めるといった制度の設定を避ける必要がある。送電容量の確保策、そのためのインセンティブの提供も必要となる。
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