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富士通総研

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今こそ消費者心理の回復を

富士通総研顧問(イトーヨーカ堂社長)鈴木 敏文

2001年10月

要旨

消費はドメスティックなもの

消費は国民性や民族性によってかなり異なっており、極めてドメスティックなものである。例えば、米国のウォルマートはドイツで苦労しているし、フランスのカルフールもアメリカから撤退を余儀なくされている。要は時代の変化とその国の消費者の変化に如何に対応できるかである。米国では「もはやコンビニの時代は終わった」と言われた1990年代に、米国セブン - イレブンに資本参加したのも同じ考え方によるものだ。当時、スーパーマーケットの24時間営業に押されコンビニの役割は終わったという論調が多かったが、ポイントは米国セブン - イレブンが米国の消費社会の変化についていけなかったことにある。そこで、当時6 - 7ヵ所あった物流センターをすべて整理し、新しい米国流問屋システムを作り再建を図った。日本への外資の進出についても、日本の消費者のニーズを的確に掴めるかどうかが問題であり、単に巨大な資本力だけではうまくいかない。

日米の消費構造の大きな違いは、第1に、米国では極めて所得格差が大きく、高所得層と低所得層が同じ店に行くことは少ないが、日本では所得階層によって使う店が完全に異なることはない。第2の違いは、日本人は世界に例をみないブランド好きで且つ移り気な国民であるということである。第3の違いは、ナショナルブランドを別にして、例えば日本の食料品の場合、値段だけでなく味の良し悪しによって選好される傾向が強く、消費の差別化が価格以外の方法でなされる余地が大きい。このように、消費は基本的にドメスティックなものであり、米国が進んでいて日本は遅れているといったものではない。

問屋マーチャンダイジングの終焉

これまでのデパートやスーパーのマーチャンダイジング(商品政策)は、問屋さんへの丸投げで済ませてきた。デパ - トもスーパーも、基本的には単なる場所貸しに過ぎず、今売上が伸びているところは、そこに入っているテナントが命がけの商売をしている結果であり、優秀なマーチャンダイザーがいて売上を伸ばしている例は極めて少ない。デパートやスーパーは、多くの問屋と提携し、問屋が薦める商品を仕入れそれを販売するという方法を採ってきた。

ところが、近年、マーケットの成熟化とともに商品のライフサイクルが極めて短くなり、ワンシーズンの中でも売れ筋が変わるようになってきた。このため、世の中の変化に対応した商品作りに問屋が対応できなくなってきており、ここへきて問屋の力が急速に低下しつつある。こうしたなかで、最近のユニクロのように、商品を絞り、自ら商品を企画し、コストの低い中国等で大量に生産するところが急速に伸びてきた。スーパーの中にも、これまで問屋を通して中国で生産していたところが、最近では直接中国へ行ってメーカーに作らせるところも出てきている。

日本で遅れているのは、一口で言うとマーチャンダイジング、商品作りである。日本には優れた問屋制度があったが、このためにかえってマーチャンダイジングが遅れたともいえる。しかし、ここへきて問屋自体の力がなくなり、自分たちでマーチャンダイジングをしないとやっていけなくなってきた。当社でも、メーカーと直接提携して「チーム・マーチャンダイジング」を導入している。これは、直接メーカーと組んで良い商品を開発し、合理的に数量を決定し引き取るという方式である。モノ作りにおいて問屋をまったく介在させずに生産から販売まで自らリスクを採って行うやり方で、今後この方式を徐々に増やしていきたい。

消費は人間心理の問題

今の日本人の生活水準は、平均的なレベルでみて、先進国の中でも一番高いのではないだろうか。必要なものはすべて行き渡っているため、潜在的な需要そのものが弱い。需要が弱いからいくら安くしても売れず、デフレの状況に陥っている。しかし、より良い衣食住を求める人間の根源的欲求は存在する。日本人の今の心理は、将来の生活レベルを現在より下げたくないので、今の欲望を抑え貯蓄をするということではないだろうか。この不況を打開するには、情報化社会のなかで人々にインプットされている将来に対する不安感や閉塞感を、根本から除去するしか道はない。

日本人の消費構造は明らかに変化しており、従来のモノが不足している時代の経済理論ではどうにもならない。重要なのは人間心理の問題である。「消費を左右するのは消費者の心理であり、情報化時代のなかで、マスコミを通じ心理がどんどん冷やされている限り、消費は絶対良くならない」と、この4年間言い続けてきたが、残念ながらそのとおりになってきている。日本の経済指標には心理を表す指標がない。家計調査や企業マインド調査はあるが、果たしてその中にどれほど心理的な要素が定量的に組み込まれているのか疑問である。今消費者の心理を変えるには構造改革を断行するしかない。これをしないと日本の消費は絶対上向かない。

消費の動向を判断するには、マーケットの現場における皮膚感覚が大切である。セブン - イレブンには、1日1ヵ店平均1,000人、8,700ヵ店全体で870万人の来客があるが、社長室から毎日2回、すべての現場のデータをチェックしている。イトーヨーカ堂のほうは、1日5回データを見ることができる。こうしたデータをずっと見ていくと、その中に感じるもの、養われてくるものがある。消費の動向を予測するには、こうした皮膚感覚のようなものが重要であり、その限りにおいては、当面消費が良くなる兆しは感じられない。

セーフティネットは不可欠

現在の閉塞感を打破するためには、構造改革をするしかないが、その場合特に大切なのは、雇用に対するセーフティネットをきちんとすることである。例えば、雇用保険の支給期間を構造改革集中期間に限定し、現在の2 - 3倍にするなどの大胆な施策が必要と思う。モラルハザードが起こるだけだとの見方もあるが、それでもセーフティネットは重要である。企業内失業というかたちで企業が雇用を抱えていては、いつまでたっても企業マインドは変わらず、消費者の心理も変わらない。構造改革により放出された雇用を、セーフティネットで社会的にカバーすることで初めて人々に安心感が生まれ、いわゆる先が見える状態になる。今日本に必要なのは、如何にして先が見える状態を早く作るかということである。

これまで構造改革の必要性が叫ばれながら、結局手が付けられずに先送りされてきたが、これではだめだということが漸く分ってきたのではないか。構造改革をすることにより先行きの展望が開け、消費マインドが向上し安定した経済成長のもと、財政も蘇るという手順がよいのではないか。従来型の土木関係中心の公共投資ではなく、セーフティネットも含めた構造改革を下支えする支出が大切であり、そうでないと現在の閉塞感を打破し、国民心理の転換を図ることはできない。(談)

全文はPDFファイルをご参照ください。

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