米国の京都議定書脱退による各国への経済的及び地球規模での温室効果ガス排出量への影響に関する考察
研究員 濱崎 博
2001年7月
要旨
背景・目的
1997年12月に京都で開催されたCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)以降、附属国に対して第1フェーズ(2008-2012年)における温室効果ガス削減の数値目標が設定され、欧州諸国を中心に目標達成に向けての政策の導入もしくは検討が行われている。しかし、米国では先進国を中心とした附属国のみでの温室効果ガス削減は効率的な削減が行われないのみならず、国内産業、及び家計へも深刻な影響を与えることになると、産業界を中心に京都議定書に対する反対運動が行われてきた。ブッシュ政権はこういった一連の動きを受けて、米国の事実上の京都議定書脱退宣言をした結果となり、EU等を中心に政府レベルのみならず、市民レベルにおいても米国の決定を批判する運動が繰り広げられている。事実、米国製品の不買運動も活発化している。更に、EUでは米国抜きでの京都議定書の批准が議論されており、批准国への経済・社会的影響に関する懸念が広がっている。本研究は、以上のような背景をもとに、1.米国が京都議定書を批准しないことによる各国の経済社会的影響、2.世界規模での温室効果ガス排出量への影響の2点に関して、一般均衡モデルを用いて定量的に評価し、それらの影響に関して考察を加える。対象とする温室効果ガスはエネルギー起源による二酸化炭素のみとし、他の温室効果ガス及びセメント製造時に発生する二酸化炭素といった工業プロセスで生じる温室効果ガスに関しては対象外とした。
各国経済に及ぼす影響
まず、経済的側面より評価を行う。図表1は、各国の産業部門別生産量変化を示している。米国が批准しない場合、米国製造業の生産量は増加する一方、EUでは大幅な減少となる。原因としては、米国産業は批准しないことにより、エネルギー使用に対して追加的な費用負担をする必要がない一方、二酸化炭素削減を行うEU産業部門では追加的コスト負担が生じ、米国等二酸化炭素削減を行わない国・地域に対しての競争力が減少するためであると考えられる。製造業部門以上に米国が批准しないことにより利益を受ける米国の産業はエネルギー部門であり、特に石炭(COL)、ガス(GAS)及び石油製品(P_C)での利益が大きい。二酸化炭素削減を行う必要がないため、国内でのエネルギー需要に変化が生じないためであると考えられる。
| 米国が批准しない場合 | 米国が批准する場合 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 米国 | EU | 日本 | 米国 | EU | |
| 石炭 | -3.63 | -2.03 | -12.49 | -9.26 | -29.36 | -16.96 |
| 石油 | -0.7 | -0.48 | -0.31 | -3.29 | -4.06 | -3.33 |
| ガス | 6.03 | -0.23 | -7.64 | 6.13 | -26.65 | -9.29 |
| 石油製品 | -4.52 | 0.66 | -1.83 | -3.93 | -14.33 | -0.38 |
| 電力 | -0.21 | 0.21 | -4.46 | -0.31 | -2.57 | -5.56 |
| 鉄鋼業 | -0.64 | 0.47 | -2.06 | -0.71 | -2.28 | -1.85 |
| 化学・ プラスティック ・ゴム | -0.42 | 0.37 | -1.24 | -0.35 | -1.62 | -0.95 |
| その他の製造業 | -0.26 | 0.05 | -0.39 | -0.29 | -0.69 | -0.29 |
| 農業 | -0.25 | 0.08 | -0.35 | -0.06 | -1.99 | -0.06 |
| サービス業 | -0.07 | -0.02 | -0.08 | -0.06 | 0.01 | -0.05 |
米国が京都議定書を批准した場合には、米国国内におけるエネルギー消費量が大幅に減少するのみならず、EU及び日本においても大幅なエネルギー消費量の減少が見られ、このことが米国エネルギー産業の大幅な生産量減少の原因となる。一方、米国が批准しない場合には米国国内のエネルギー使用量は逆に微増に転じ、このことが米国エネルギー産業の生産量の安定化に寄与している。
地球全体のCO2削減効果に及ぼす影響
米国が温室効果ガス削減を行わないことにより、カーボン・リーケージレート(温室効果ガス削減を行った国・地域における二酸化炭素削減量に対する他の国・地域での二酸化炭素増加量の比率)は0.16→0.32と悪化する。したがって、米国が批准しないことによって、二酸化炭素削減量が減少するだけでなく、削減目標のある国・地域において削減された二酸化炭素の3割は、削減目標のない国・地域で増加することとなる。つまり、地球規模で見た場合の二酸化炭素削減効率も非常に低いものとなる。
結論
米国が批准しないことにより、批准する国・地域はより重い経済的負担を強いられる結果となる。国際競争力の面からも米国以外にも批准を見合わせる国・地域が出る可能性がある。また、環境の面からも米国脱退によるカーボン・リーケージの増加により、京都議定書自体の温室効果ガス削減効果が非常に低いものとなる。今回と同様、米国は歴史的に自国の便益を最大化する行動をとってきた。今回も同様に、米国が批准しないことにより、米国産業界(特にエネルギー関連産業)への影響は大幅に軽減されるが、京都会議において初めて各国が現実的な温室効果ガス削減活動を停滞させる原因となり、ひいては持続可能な経済発展が達成できない結果となる。
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