富士通総研

第9回経済研究フォーラム 「社会の変革を促す」

概要

富士通総研経済研究所は、4月16日(月曜日)経団連会館において、第9回経済研究フォーラム「社会の変革を促す」を開催した。今回のフォーラムでは、21世紀の第一歩を踏み出すわが国の経済・社会が、いかなる分野においてどのような変革を行っていくべきかに焦点をあて、日頃の研究活動の成果を報告した。また、変革をキーワードに、JT生命誌研究館  中村桂子副館長による「生命というキーワードで考える変革」、スタンフォード日本センター  今井賢一理事長による「IT革命のミクロとマクロ」の2つの特別講演を実施した。現在、わが国が置かれている社会的・経済的閉塞状態の中で、21世紀の座標軸をどこに求めていったらよいか、今回のテーマに関する聴衆の関心の強さを反映し、参加者は341名と極めて盛況であった。

午前の部では、研究報告2本と中村副館長による特別講演が行われた。

梶山は、ベンチャー企業向けの新興資本市場を取り上げ、ベンチャー向け資本市場として成功している米国のナスダック市場やドイツのノイアーマルクトは、投資家優先で質を重視しているのに対し、日本の市場はいずれも公開企業の獲得に奔走した結果、投資家の利益が顧みられない市場となってしまったと指摘、日本のベンチャー向け資本市場が機能するためには、質を重視した市場作りに転換することが不可欠であり、韓国も日本と同じ状況を抱えていることから、両国の協力の余地は十分あるのではないかと主張した。

松山は、日本の医療介護制度の費用構造を取り上げ、2000年に予定されていた医療改革が白紙撤回された後、各団体から各種改革案が提出され並列列挙の状況が続いているが、各改革案が国民一人一人からみた「受益」と「負担」の変化を示していないため、基準が不明確であり、国民が比較評価・判断することができないと主張、自ら医療介護費の負担構造の将来推計モデルを作成し、1人当たりの負担の将来倍率が等しくなるよう医療介護保険制度を改革すべきであると提案した。

中村桂子氏は、特別講演において、生命の歴史の根源に遡り、そこにみられるいくつかの営みの中に、社会の変革を促すヒントがあるのではないかとの問題提起を行った。

すなわち、20世紀は「進歩」という尺度で機能や構造の「部分」に注目してきたが、21世紀は「進化」というキーワードで、さまざまに展開するプロセスに着目して「全体」を考えることが大切である。ゲノムの解明により、「部分」と「全体」の統合が可能となり、科学技術と自然をトータルに捉えることができるようになった。生命システムは、モノとエネルギーと情報をトータルとして捉えたもので、ゲノムに内包された情報により、生き物は多様かつ共通、安定かつ変化という矛盾したものを取り込むことができる。21世紀を考えるとき、DNAにある生命誕生の時からの記憶という長い時間を頭の中に入れて考えることが大切である。知識と生物感覚の「統合の知」により、新しい社会システムを作ることが、真の変革に繋がるのではないかと主張した。

午後の部では、研究報告4本と今井理事長による特別講演が行われた。

武石は、電力産業の将来像について、自由化後1年経過し電力会社間の市場を通じた大規模な競争はまだ生じていないが、今後電力取引市場が成立し取引量が増大するにつれ、電力会社の機能は発電・送電・小売の3分野へ分離せざるを得ないことを、規模の経済性の計測結果等から検討、欧米の動向も踏まえ、日本も将来的には完全自由化が不可避であり、そこに至るスケジュール作りに早急に取りかかる必要があると提言した。

栗原は、IT技術の急速な発展による通信インフラ再編の問題を取り上げ、携帯電話の急速な発達により、利用可能な地上波の電波帯域が稀少化し、電波資源の効率的利用が経済厚生上の大きな問題となりつつあるとし、現在欧米で導入されつつある電波オークション・システムの日本への導入を検討する必要があると提案、合わせて海外における導入の成否は、詳細な制度設計に左右されることを指摘した。

峰滝は、ITが労働を代替することによって起こる雇用削減の影響とITによって雇用が増大する効果について、日本の製造業を例に詳細な実証分析を行い、IT資本は1980年代以降生産労働に対し代替的に働いてきたが、電気産業の非生産労働に関しては、1980年代補完的であったものが1990年代以降代替的になってきていることを明らかにするとともに、米国や北欧の例をもとに、IT革新による雇用増加が期待されるのは、ホーム・ヘルス・ケアやコンピュータ・サービスの分野であると主張した。

長島・新堂・岩村は、IT革命と時間の稀少性と題するテーマで、近年情報取得の環境はよくなっているが、時間が稀少であるために、個人は依然として情報取得に対して消極的であり、ITの進展が理想市場を作るという楽観論は否定されるとし、パソコンや書籍・音楽CD等のネット販売価格は、店頭価格に比べ必ずしも安くなく価格のばらつきも大きいといった現象が日米両国でみられると指摘、もしそうであれば、企業にとっては、消費者の関心を獲得し囲い込んでしまう戦略が有効であると主張した。

今井賢一氏は、IT社会の本質はアーキテクチャーと知恵の組合せにあるとして、IT社会において重要となってくるコンセプトについて自説を展開した。

すなわち、IT革命のロードマップを描き、最初にどの方向にボールを蹴るかが極めて大切であり、その場合ロードマップを支える知的基盤の充実とインフラとしてのIPv6への転換がキーとなる。IT革命により、IT産業社会の実現を図るとともに、人間の潜在能力を引出しウェルフェアを高めるような情報化社会を構築することが重要であるが、そのためには、官と民が協力し新しい公共性という概念を創り出す必要がある。更に、IT時代においては、デジタル時代に相応しいアーキテクチャーとしての法体系の整備、構築されたアーキテクチャーのもとでの新しい関係性や信頼関係の形成が不可欠であり、情報という潤沢なものとアーキテクチャー・知恵といった稀少なものとをどう組み合わせていくかが本質的課題となると主張した。

プログラム  「社会の変革を促す」

9時 受付開始
9時30分~9時40分 開会挨拶
理事長 福井 俊彦
午前のセッション
9時40分~10時20分 日本とアジアのベンチャー市場
主任研究員 梶山 恵司
10時20分~11時 医療介護制度の改革とその費用構造
主席研究員 松山 幸弘
11時~12時 特別講演 生命というキーワードで考える変革
JT生命誌研究館 副館長 中村 桂子
12時~13時10分 昼休み
 
午後のセッション
13時10分~13時50分 電力産業の将来像
主任研究員 武石 礼司
13時50分~14時30分 情報通信インフラの再編
主任研究員 栗原 潤
14時30分~14時45分 休憩
14時45分~15時25分 日本のIT革新と労働市場
主任研究員 峰滝 和典
15時25分~16時10分 IT革命と時間の稀少性
主任研究員 長島 直樹 / 上級研究員 新堂 精士 /研究顧問 岩村 充
16時10分~17時10分 特別講演 IT革命のミクロとマクロ
スタンフォード日本センター理事長 今井 賢一
17時10分~17時15分 閉会挨拶
社長 佐藤 至弘

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 第9回経済研究フォーラム「社会の変革を促す」概要 [43.6 KB]