日本のIT革新と労働市場
主任研究員 峰滝 和典
2001年7月
目次
I.IT革新と労働
1.IT資本と労働の代替・補完関係
2.IT並びに労働の熟年と全要素生産性
II.IT先進国の経験
1.米国の経験
2.欧州(北欧並びにアイルランド)の経験
III.日本への教訓
要旨
1.1980・1990年代、日本の製造業においてIT資本と生産労働は概ね代替関係にある。その傾向は特に、IT投資が進んでいる化学、電気機械産業、精密機器産業で顕著である。製造業全体では、生産労働は企業の生産活動にとって変動要素であるが、非生産労働は短期固定要素という傾向があることがわかった。
2.一般資本(機械・設備等)も生産労働に対して代替的である。生産労働に対する代替の弾性値は、IT投資が進んでいる化学、電気機械産業、精密機器産業では、IT資本の方が高く、その他の製造業では、逆に一般資本(機械・設備等)の方が高いという対照的な結果となった。
3.IT供給セクターである電気機械産業だけを取り出して実証すると、IT資本は生産労働に対しては代替的であり、非生産労働に対しては80年代前半は補完的であったものの、90年代に入って、代替的な関係に替わってきている。この結果から、非生産労働のなかでも事務・管理労働の部分に対する代替関係が高まってきていることが推察される。
4.日本の製造業の全要素生産性に対しては、80年代は非生産労働における熟年比率(40歳以上の労働人口の割合)がプラスに寄与していたものの、90年代に入ってその効果は消滅してきている。それに対してIT資本比率は、通期で全要素生産性に対してプラスの寄与となっている。これは日本のこれまでの年功序列的な雇用システムが崩れてきていることを裏付けるとともに、IT革新の進展が日本の中長期の成長率を上昇させる可能性があることを示唆している。
5.米国や北欧諸国などのIT先進国の事例より、IT革新が進展すればITを用いたサービス分野(ホーム・ヘルス・ケアやITサービス等)の雇用の増加が期待できる。また、IT革新の進展はこれらの国で雇用形態の変化をもたらしており、テレ・ワーカーの増加をもたらしている。
6.労働に関してより重要なことはIT革新の進展とともに教育投資の重要性が高まるということである。これはIT先進国の共通の現象である。特に日本ではこれまで社内教育が充実していたものの、雇用システムの変貌を受けて、今後国の政策として社会人教育に取り組むことが急務であろう。
*本研究の理論及び実証部分は、東京大学経済学部大学院 西村清彦教授、並びに白井誠人氏、黒川太氏との共同研究の成果の一部である。
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