株式持ち合いの解消と構造改革
経済同友会 企画調査部調査役 (前富士通総研主任研究員 梶山 恵司
2001年7月
要旨
持ち合い株式の売却の進展を背景にした株価の低迷が続いているが、これは、株式市場が市場メカニズムを取り戻すための産みの苦しみである。
実質破綻企業が生き残れるのも持ち合いのおかげ
下落したとはいえ、日本の株価は国際標準から見れば依然として割高である。例えば、株価の水準を表す代表的な指標である株価収益率(PER)でみると、日経225のそれは90倍超と、欧米の標準である15~20倍を大幅に上回っている。1980年代、日本の高PERは、成長率が欧米に比べ高く、その将来性が買われているためと説明されるのが常だったが、1990年代に入り日本の成長率は先進国中最低となった。
割高な株価の最大の原因は、株式持ち合いによる安定保有が多く、流通株式が少ない(=浮動株比率が低い)ためである(米国の浮動株比率は9割、ドイツでも最近では7割近くに達しているのに対し、日本のそれは4~5割にすぎない)。つまり、市場に出回る株式が少ないがゆえに、株価も吊り上げ(操作し)やすい。この結果、わが国の株式市場は価格形成メカニズムが機能しない市場となっており、以下の問題を引き起こしてきた。
・構造改革の阻害要因 実質的な破綻企業であっても、浮動株比率が低く、銀行などに安定保有されている限り、市場から退却を余儀なくされるまで売り込まれることがない。つまり、株式持ち合いは、わが国の構造改革を阻害する大きな要因となっている。
・コーポレートガバナンスの不在 浮動株比率が低ければ、市場からの圧力も少なく、経営者が株主重視の経営を迫られるわけでもない。わが国でコーポレートガバナンスが機能しない最大の原因は、ここにある。コーポレートガバナンスに関して、執行役員制度とか社外取締役採用の必要性が指摘されているが、これが機能するためには、株式持ち合いが解消され、浮動株比率が欧米並みに高まることが前提となる。
浮動株重視とコーポレートガバナンス
ガバナンス機能の強化、公正な株価形成の観点からも、浮動株比率重視はいまや世界的な趨勢であり、実際、以下の動きがある。
・世界の機関投資家のベンチマークとなるMSCIインデックスは、従来の単純な時価総額(発行済み株式総数×株価)によるウェイトから、浮動株数×株価で時価総額を算出することを発表(完全実施は2002年夏)。この結果、2,000億ドルの資金が移動するといわれている(日本の構成比率は、11.5%から9.6%へと低下)。
・日本と同様に株式持ち合いが一般的だったドイツでは、その解消を促進するため、企業の保有株式売却益を非課税(従来は税率52%)とする税制改革を2002年初から実施。また、ドイツ証券取引所は、2002年夏より、ドイツ株価指数(DAX)を、浮動株を中心として組みかえることを決定。
ところが日本で「株価対策」として議論されているのは、金庫株の解禁、税制優遇措置、株式買い上げ機構の設立等、需給面から株価を支えることを目的としたものである。そこには、浮動株比率を上げることによって、株式市場に健全な市場機能をもたせ、コーポレートガバナンス機能の強化を図るといった視点が一切欠けている。
また、企業が株主重視の経営にシフトせず、収益向上努力もしない中での需給面からの株価底上げは、ただでさえ割高なPERを一段と割高にするだけだ。そのような状況下で、資金流入が一巡すれば、今度は株価急落のリスクが高まってしまう。したがって、単に個人や年金の株式市場への資金流入を促進するだけの株式市場振興策は、きわめて問題が大きい。
健全な債券市場なしに株式市場は機能しない
株価が高すぎる原因としては、債券市場にも問題がある。株式投資の期待収益率は、基本的には長期金利のリスクプレミアムであり、したがって適正株価を判断する場合、ベースとなるのは長期金利である。この点、日本の長期金利は1%台半ばなのに対し、欧米のそれは5%前後なので、日本のPERが高くても、長期金利から説明できるとする見方もある。ところが、わが国の国債は5割が政府関係機関で保有されており、流通市場で取り引きされる国債の玉が、発行総額に比較し極端に小さい。未曾有の財政赤字が続く中、長期金利が歴史的低水準にまで低下しているのはこのためである。つまり、債券市場も株式市場とまったく同じ問題を抱えており、債券価格は相当に割高(=低金利)となっている。本来なら、株式市場が市場として機能するためには、健全に機能する債券市場が前提となるはずだが、わが国での株式市場活性化に関する議論では、この視点が一切欠けている。
発達した資本市場は構造改革に不可欠
わが国同様間接金融一本槍だったドイツは、1990年代半ば以降、「構造改革のためには、市場メカニズムに基づく経済システムの構築が不可欠」との認識を深め、企業のみならず、取引所、金融機関、政策当局等、市場関係者すべてが、株式市場活性化の努力をした。だからこそ、間接金融から直接金融へのシフトに成功したのである。株式投資の優遇措置がドイツ株式市場を活性化したわけではない(そもそも個人の株式売却益は、1970年代より非課税)。
わが国でも、姑息な市場振興策ばかりを議論するのではなく、資本市場の位置付けをまず明確にし、その上で総合的・包括的な市場振興策を考えるべき時にきている。
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