新たな段階を迎えるインターネット広告
上級研究員 田中 秀樹
2001年4月
要旨
アメリカのインターネット広告業界団体IAB(Internet Advertising Bureau)の調査によると、2000年第3四半期(7~9 月)のアメリカのインターネット広告市場は、対前年同期比1.6倍であるものの、対前期比▲6.5%と観測以来初めての減少を記録した。折しも、ネットベンチャーのレイオフや破綻が話題になった時期でもあり、倍々ゲームで成長を続けていたインターネット広告の急ブレーキがマスコミに大きく取り上げられた。この減少はインターネット広告の今後の低迷を意味するものなのだろうか。
ドットコム企業の出稿減少による一時的なマイナス
1996年には2 億4,700万ドルに過ぎなかったアメリカのインターネット広告市場は、97年に9 億ドル、98年に19億ドルと急拡大し、99年は対前年比2.4倍の46億ドルと、広告市場全体の2.1%を占めるまでになった。
この急成長の背景にはドットコム企業を中心としたECサイトの広告大量出稿がある。ネットブームにのり、新規株式公開(IPO)やベンチャーキャピタルから巨額の資金を調達したドットコム企業は、各社競うようにその資金をマーケティングに投入した。このため、インターネット上には広告を掲載する場所が無くなった、とまで言われ、屋外看板やTVコマーシャルにまでドットコム企業の広告があふれかえった。利益より認知度重視の風潮が大勢を占め、1999年のネット専業ECサイトの売上高に対するマーケティング費用の比率は119%にも達した。
その後、2000年春にネットバブルが崩壊すると、ドットコム企業は株式マーケットやベンチャーキャピタルからの資金調達が困難になった。財務状況が悪化した企業が最初に削減するのはマーケティング費用だ。これによるドットコム企業の広告出稿激減が2000年第3 四半期インターネット広告市場マイナスの直接要因となった。
ただ、このマイナスは一時的なものと見られている。2000年クリスマス商戦で顧客獲得の上位を占めた、ブリック・アンド・クリックと呼ばれるネットに進出した既存大手流通業や一般企業が、今後インターネット広告出稿を増やす見込みだ。
ROI重視とブロードバンド普及でインターネット広告は新たな段階へ
この激変の過程を経て、インターネット・マーケティングの分野では今までのような効率を完全無視したマーケティングプランが影を潜める一方、顧客獲得単価などのROI(投資収益率)が重視されるようになってきた。例えば、ECサイトにおける1998年の顧客獲得単価は33ドルだったのに対し、広告出稿競争が激しかった99年第4 四半期(10~12月)には71ドルに達した。仕入れた商品を販売する小売型のECサイトは粗利率が低く、この顧客獲得コストではビジネスになるはずがない。当然、ネットバブル崩壊後は下がり続け、2000年第3 四半期には20ドルとなっている。
ROI重視はインターネット広告の種類にも影響を与えている。無差別に掲載されるバナー広告の販売価格は下がっているのに対し、ターゲティングがしっかりした媒体や、属性による絞込みが行えるバナーには人気が集まっている。また、バナー広告より効率がいい、オプトインメールなどのe メールマーケティングも注目されている。
インターネット広告の課題の一つに、表現力の弱さがある。広告効果を高めようとして、バナー広告のサイズを大きくしたり色数を増やすとファイルサイズが大きくなり、ダイヤルアップでアクセスしているユーザーには不快感を持たれてしまう。しかし、常時接続で高速データ通信が行えるブロードバンドが本格的に普及するとインターネット広告も大きく変化する。リッチメディアと呼ばれる、表現力が豊かなバナーや、音楽や映像のストリーミングが積極的に使われるようになれば、TV同様の映像に双方向性が加わった新たなメディアが誕生し、広告価値も高まるだろう。
ネットバブル崩壊の影響を受け、短期的にマイナスとなったアメリカのインターネット広告だが、ターゲティングや双方向性といったマスメディアとは異なる特徴を生かし、新たな発展段階を迎えるようだ
日本のインターネット広告減速は限定的
ところで、日本の状況はどうなっているのだろうか。電通が推計した2000年のインターネット広告市場は590億円(広告市場全体の1 %)と対前年比2.4倍の急成長だ。ただ、2000年の10月~12月は若干鈍化しており、2001年も以前のような成長スピードは望めないようだ。アメリカ同様ドットコム企業の広告出稿減少がその理由だが、影響度は日米で若干異なっている。
多くのドットコム企業が新規株式公開してきたアメリカに対し、日本ではネットベンチャー向けマーケットの開設からネットバブル崩壊までの期間が短かったため、大規模な資金調達ができた企業は少数しかない。このため、アメリカのYahoo!の売上高に占めるドットコム企業比率が40%であるのに対し、日本のヤフーでは20%しかないと言われており、ドットコム企業出稿減少の影響は軽微に留まる。
ただし、日本のヤフーが始めたターゲティング広告が好調なように、広告効率を重視する動きや、リッチメディアは今後日本でも無視できないものとなるだろう。
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