「競争とルール」による中国経済の構造改革
上級研究員 荒井 崇
2001年4月
要旨
WTO加盟のねらい
中国のWTO加盟が1986年の加盟申請から16年を経ていよいよ実現する。中国のWTO加盟に関し、貿易・投資面からの議論は多い。しかしながら、中国自身がWTO加盟により何をねらっているかについて論じたものは少ない。結論から言えば、中国はWTO加盟により市場を更に開放して、「競争とルール」を国内に導入することにより経済・社会システムの再構築を目指している。
WTOの基本原則は、市場参入者がフェアな競争をすることにあり、これまで保護や補助を受けてきた中国の産業・企業は、厳しい競争にさらされ構造改革を余儀なくされる。また既得権益を持つ産業や寡占的な産業(特にサービス分野)においても競争原理が働き、消費者は恩恵を受けることとなろう。更に中国が目指している3大改革(行政改革、金融改革、国有企業改革)の主体である「政府・金融機関・国有企業」の三者間の権利・責任関係の分離・明確化にも促進効果がある。中国はWTO加盟という新段階の「改革・開放」を行い、長期持続的な経済成長過程への移行を目指しているのである。
1978年の「改革・開放」政策の実施から20年あまり、着実に市場経済化を進展させている中国の「外向きの経済成長」も新たな段階を迎える。中国の経済成長が外向きであるといわれる所以は、その貿易依存度(貿易総額 / 国内総生産額)の高さにみられる。99年時点の中国の貿易依存度は36.4%と、60年代日本の高度成長期に匹敵する。ちなみに同99年の日本、アメリカの貿易依存度は、16.7%、18.0%である。
2000年12月に開かれた全国対外貿易経済合作工作会議で、対外貿易経済合作部の石広生部長は、「第10次五ヵ年計画(2001年~2005年)の最終段階で、中国の輸出入総額が6,500億米ドル(参考 : 2000年度は4,743億米ドル)に達し、外国企業の直接投資額は年平均400億米ドル(実行ベース)を維持することを目指す」と述べ、今後も引き続き中国が「外向きの経済成長」を加速していくことを明らかにした。
ASEAN諸国へのインパクト
中国の積極的な外向きの姿勢は、ASEAN諸国に対し、「先進国への輸出、外資導入などで競争が激化するのではないか」との懸念をもたらしている。中国は、これまでアジア域内市場において必ずしも積極的でなかった姿勢をここへきて転換してきている。朱鎔基総理は2000年11月24日にシンガポールで開かれた東南アジア諸国連合と日韓中(ASEAN+3)首脳会議において、「中国と東南アジア諸国の輸出構成は異なり、米国など先進国向け輸出市場で東南アジア諸国と競合することはない。また中国が利用している外資の大半は香港や台湾などから導入されており、むしろASEAN各国にとって中国のWTO加盟は市場の拡大とビジネスチャンスの増加を意味する」と述べ、「東アジア自由貿易圏構想」を提示した。確かに中国のWTO加盟交渉が進むにつれて、中国とASEAN諸国との貿易は増加している(中国からASEAN4への輸出は、1995年の55億ドルから2000年には93億ドルへ、ASEAN4から中国への輸出は、同60億ドルから同159億ドルへ)。これを捉えて朱総理は中国のWTO加盟の影響を前向きに受け止めるようにASEAN諸国に呼びかけたのである。
もちろん短期的にはASEAN諸国が懸念するように、中国のWTO加盟はアジア域内諸国の輸出競争を激化させる可能性がある。しかし競争の激化は、ASEAN各国に危機意識を持たせ、通貨危機後道半ばとなっている経済構造改革に本気で取り組ませる契機となる可能性もある。その結果、東アジア市場における貿易・投資面での新たな競合・補完関係が生成され、中長期的には市場経済化を促進するものと期待される。
日本への教訓
中国のWTO加盟により、中国市場における競争が厳しくなることから、日系企業は中国市場における経営の現地化に取り組んでいかなくてはならない。中国に展開する日系企業の特徴として、欧米企業に比べ事務系で3倍、技術系で3倍もコストの高い出向者の問題がある。現地人マネージャーであれば数十人が雇用可能である。
日系企業と現地企業との競合激化の一例として、アジア諸国のバイク市場における、ホンダをはじめとする日系メーカーのコピー商品問題がある。ホンダなどの中国製コピーバイクが大量に出回り、本物の売れ行きが落ちている。これに対し「中国はWTOに加盟するのだから知的所有権を守り取り締まりを強化せよ」という主張がある。この事実については、以下の2点を考えねばならない。第1に、中国の技術レベルは、以前の軽工業品ではなく、バイクのような工業製品のほぼ完全なコピー商品を作れるまでに向上していることである。今回も、ホンダのブランドコピーだから売れているわけではない。性能が評価されていることに注目する必要がある。第2に販売価格が半額であるという事実である。これまで日系企業の中国生産は、コストが低く販売価格が安いことを売りにしてきた。しかし中国の現地企業による生産であれば更にコストダウンが図られ、より価格競争力を持った製品が作れるということである。
更に中国現地企業は価格・デザインなど現地の市場ニーズを捉え、迅速に対応することができる。中国の現地企業が、市場を席巻するようなオリジナル商品を生産・販売する日もそう遠くはない。それまでに経営の現地化を進め、本格的な市場競争に備えなくてはならない。2001年10月、中国のWTO加盟のメルクマールとして、APECが上海において開催される。その上海においてビジネスの先駆者達がよく口にする言葉が、今後の中国市場の行方を象徴している。「競争のないところに競争力はない」。
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