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新世紀の日本経済の課題

主任研究員 米山 秀隆

2001年1月

本文

IT革命が生かされていない理由

世界経済の減速によって、景気回復の要因の一つであった輸出にかげりが見え始め、所得環境もなかなか好転しないなか、株価の低迷が続くなど、日本経済には、先行き不安が広がっている。昨年は、日本経済がようやく自律的回復軌道に入るとの期待が高まったが、このままでは逆戻りしてしまう可能性も決して少なくない。

IT革命の進展は、確かにIT投資を増やし、昨年の設備投資拡大の原動力にはなった。しかし、日本経済にはまだIT革命を十分に生かすインフラ、ソフトが十分に整えられていない。IT投資を企業業績の向上に結びつけるためには、経営改革が併せて必要であるし、IT活用の裾野を一気に広げるためには、通信料金のより一層の引き下げが欠かせない。通信基盤の整備については、IT基本戦略の策定によって目標値が定められたものの、その実効性については、疑問を投げかける向きも多い。

一方、IT革命は、これまで行われてきた様々な仕事を効率化させ、余剰人員を発生させる一方で、新たなビジネスを誕生させ、雇用機会を創出する。したがって、IT革命の効果を、経済全体で最大限生かしていくためには、雇用移動を円滑に行っていくことが必須の条件となる。アメリカで、IT革命に伴う構造変化に対応できた一つの要因としては、労働市場が流動的であったという点が指摘されている。しかし、日本ではまだそうした条件が十分満たされているとは言い難い。

このように、日本経済には、IT革命のメリットを最大限に生かす制度的基盤やソフトが未整備であるため、IT投資はブームになったものの、現状では、それを生かして、景気を持続的な発展軌道に乗せるまでには至っていない。

財政赤字問題の深刻化

加えて、この先の日本経済の不安要因として、累増する財政赤字の問題を看過することができない。財政赤字問題については、景気回復を優先させて、その後に財政再建路線に転じるというのが、これまでの政策当局のコンセンサスであった。しかし現状では、そうした目処はほとんど立っていない。

そもそも、日本経済で、ここまで財政赤字の累増が許容されてきた一つの要因として、日本経済が貯蓄超過の状態にあり、財政赤字を国内貯蓄によって無理なくファイナンスできたため、長期金利の上昇などマイナスの影響が現われにくかったという点を指摘できる。つまり、財政赤字がある程度累増した場合、通常であれば、長期金利の上昇を通じて、それ以上の財政赤字の累増にはブレーキがかけられることになるが、日本は貯蓄超過であったため、そうしたメカニズムが働きにくかった。

しかし、こうした状態が永遠に続くわけではない。民間投資はプラスに転じており、国内の貯蓄超過部分は既に減少に転じている。そうした中で、財政赤字の拡大が続けば、やがて財政赤字を国内貯蓄によってファイナンスできない状況に陥る可能性もある。この場合には、長期金利の急上昇が生じる。長期金利の急上昇は、国債価格が暴落することを意味する。国債価格が暴落すれば、国債の発行が順調に進まなくなるだけでなく、国債を大量に保有する金融機関が巨額の含み損を抱えることになり、再び金融危機を引き起こすことにもなりかねない。

このように、現在はかろうじて成り立っている貯蓄超過が財政赤字をファイナンスするという関係は、ひとたびバランスが崩れれば、危機的状況に転じる可能性もある。もとより、直ちにこうした状況に陥る事態は想定しにくいが、このまま財政赤字が累増した場合の将来の可能性としては高くなるといわざるをえない。

また、財政赤字の拡大が、将来不安を増大させ、現在の消費を抑制させる効果を持っている点も無視できない。昨年の経済白書は、最近になって、財政の中立命題が成立しやすい状況になっていることを指摘した。これは、現在の財政状況は、国民に将来の増税が不可避であるとの確信を与えるほど悪化していることを示している。中立命題が成立する状況では、財政赤字の削減は、必ずしもデフレ効果を持たない。むしろ、財政赤字の削減が、将来の税負担を減少させるとの期待を生むため、それにより現在の消費が増加するなど、逆に景気拡大効果をもたらすことになる。

しかしながら、現状の政策運営では、財政赤字の累増が経済にやがて深刻な悪影響を与えるとの危機感は乏しいようにみえる。現実問題としては、長期金利の急上昇など、半ば市場による暴力によって危機が表面化しなければ、政策運営は変わらないというのが本当のところかもしれない。実際、カナダやニュージーランドなどで、財政再建に転じるきっかけになったのは、危機が顕著な形で表面化したからである。

危機は回避できるか

このように、今後の日本経済のシナリオとしては、IT革命のメリットが十分に生かされないまま、財政再建の目処も立てられず、問題がひたすら先送りされ、やがて長期金利の急上昇などの形で、危機に陥る最悪の可能性を全く想定できないわけではない。

過度に悲観的な見方かもしれないが、こうした可能性も想定しておくことが、日本経済の危機管理上は必要なことと考える。望むらくは、危機が表面化する前に、危機感を体現したリーダーが現れ、IT革命、財政赤字問題への対応など、必要な改革をスピーディーに進めることが望ましいと考えるが、それは果たして可能だろうか。