富士通総研

第8回フォーラム「21世紀、経済の新しい息吹と持ち越した課題」

概要

富士通総研経済研究所では、10月18日(水曜日)経団連会館において第8回フォーラム「21世紀、経済の新しい息吹と持ち越した課題」を開催した。今回のフォーラムは、第1部「財政に期待する役割」、第2部「加速するIT社会への動き」の2部構成とし、21世紀を迎える我が国が取り組んでいかなければならない2つの大きな課題につき日頃の研究成果を報告するとともに、東京大学教授 西村清彦氏による「ITと日本経済の近未来」と題する特別講演を実施した。当日の参加者は過去最高の367名を数え、今回のテーマに対する聴衆の関心の高さを窺わせるものであった。

第1部「財政に期待する役割」において、松山は、2000年度から2050年度における医療介護費の将来推計を行い、前半25年間における医療介護費の増加率が実質賃金上昇率を上回り続けることを検証、公費負担および国民一人当たり負担が高まることから、医療介護費抑制の努力が一層求められると主張した。その具体策として、地域医療介護圏情報ネットワークの構築により効率化と満足度向上を図るとともに、職域別医療保険を廃止し地域別医療保険に一本化するよう提言した。

田邉は、収益性や採算性が比較的明らかな財投事業では、公と民の切り分け作業を行い易く証券化技術が有効であるとし、例えば道路公団の場合、現在の低水準の長期金利を利用すれば、20年物の証券化により数兆円の資金調達が可能と主張した。証券化は、財投事業に対する採算性のチェックが働くうえ、核となるアセット・バック・セキュリティ(ABS)商品の開発を通じ、国民が広くリスクを分担する証券市場の形成に向け良質な商品を提供することにもなるとして、積極的な活用を提案した。

渡辺は、減増税や歳出の増減が経済活動に及ぼす影響は、将来の財政政策に関する消費者の予想に大きく依存するとして、日本のデータを用いた推計結果をもとに、消費者の大半は減税が将来の歳出カットで賄われると予想する一方、増税で賄われると予想する消費者は殆どいないことを示した。また、歳出削減の実行時点における政府債務残高が非常に大きい場合には、歳出削減によって将来の税負担が減少するとの予想を消費者が持つため、消費はむしろ増加するとして、政府が「無駄な歳出の大胆な削減により将来の税負担を軽減する」とコミットすることにより、財政再建と景気回復の両立は可能であると主張した。

第2部「加速するIT社会への動き」において、朱は、政治的に対立している中国と台湾は、最近の貿易・投資面における経済的交流の進展により相互依存関係を強めており、とくにパソコンを中心とするIT産業においては、台湾企業の対中投資と中国での現地生産により分業関係が進み、世界のパソコン市場とIT革命に大きな影響を及ぼし始めてきていると指摘した。こうした中台間の経済関係の進展は、政治関係の緊張緩和にも貢献しており、日本企業は中台間の経済交流によってできた産業集積を積極的に利用すべきであると主張した。

田中は、インターネットにより消費者が持つ情報の質と量が変化し、消費者が企業に対して力を持つ「消費者主導型社会」が生まれつつあるが、最近では価格比較サービスや共同購入等の具体的サービスの利用が進み、米国ではこれに対応して一部自動車メーカーがビルト・トウ・オーダー(BTO)を試行する動きも出始めていると指摘した。また、「消費者主導型社会」における企業にとっては、顧客情報の活用、消費者ニーズを迅速に反映する生産販売体制、消費者主導に徹する経営が、今後重要なポイントとなると主張した。

安部は、企業が競争を勝ち抜くためには、事業のスピードアップが重要な課題となっており、これに対応するため、企業間の情報交換においてインターネット技術の活用が進み、企業間関係や情報ネットワークのオープン化が求められてきていると指摘した。しかしながら、企業間分業構造や製品の性格によっては、必ずしもオープン化が適切ではなく、自動車産業を例に望ましい企業間情報ネットワークを呈示するとともに、その実現にあたってどのような課題があるかについて考察を加えた。

絹川・湯川は、独自のネット企業データベースをもとに、ネット企業の立地要因について実証分析を行い、これまで研究例のない「若者向けソーシャルアメニティ」の定量化を試みた。その結果、ネット企業集積の初期段階においては、「若者向けソーシャルアメニティ」が重要な立地要因となっており、それが多様な小人数向け施設によって特徴付けられる「サブカルチャー型アメニティ」であることを示し、ネット企業の集積地が大都市であることの必然性を指摘した。

また、特別講演において、西村清彦氏は、IT革命によって「変わるもの」と「変わらないもの」があり、日本経済の将来を考える場合これらを見極めることが重要であるとして、生産組織、製品アーキテクチャー、消費者の性格の3つの視点から、これに詳細かつ明解な考察を加えた。

さらに、基幹インターネットにおいては、スピードが決定的に重要な「モジュラー型」製品が中心で、コモディティ化を避ける「インテグラル型」製品は難しいとされてきたが、iモードの出現により、付加価値インターネットにおいては課金システムを組込むことが可能となり、インターネット経済に新たな展開をもたらすことになったと指摘、IPv6が導入されればモノにIDを付け加えることができるため、モノがインターネット経済のインフラ・ストラクチャーとなり課金や課税を行う世界が生まれることになろうと予測した。

いずれにしても、ITの発展により「変わるもの」が経済に大きなインパクトを与えることになるが、それが単なる既存のサービスの代替に止まらず、全く新しいモノやシステムを生み出すことにより、初めてITが本質的な役割を果たすと主張、ITを生産・技術面から捉えるだけでなく需要・消費者の視点から見ていくことが大切であると結論付けた。

研究発表プログラム

9時 受付開始
9時30分~9時40分 開会挨拶
理事長 福井 俊彦
午前のセッション
9時40分~11時40分 第一部「財政に期待する役割」
9時40分~10時20分 「医療費・介護費の将来推計と財政」
主席研究員 松山 幸弘
10時20分~11時 「証券化技術による財投改革」
主席研究員 田邉 敏憲
11時~11時40分 「財政政策の経済効果」
客員研究員 渡辺 努
11時40分~13時 昼休み
 
午後のセッション
13時~16時55分 第二部「加速するIT社会への動き」
13時~13時40分 「中国・台湾の経済関係の現状と展望IT産業を中心とした経済的相互依存関係の深まり」
主任研究員 朱 炎
13時40分~14時20分 「消費者のインターネット利用の現状消費者主導型社会の可能性」
上級研究員 田中 秀樹
14時20分~15時 「企業間取引のオープン化自動車産業におけるその検証と課題」
主任研究員 安部 忠彦
15時~15時15分 休憩
15時15分~15時55分 「ネット企業集積要因の検証なぜ渋谷、赤坂周辺に集積したか」
上級研究員 湯川 抗 / 研究員 絹川 真哉
15時55分~16時55分 特別講演 「ITと日本経済の近未来」
東京大学教授 西村 清彦
16時55分~17時 閉会挨拶
社長 佐藤 至弘

全文はPDFファイルをご参照ください。

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