富士通総研

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. Economic Review >
  4. Vol.5 No.1 2001年1月 >
  5. ユーロの動向 - 再び投資の時期到来

ユーロの動向 - 再び投資の時期到来

主任研究員 マルティン・シュルツ

2001年1月

要旨

1999年1月、順調なスタートをきったユーロではあるが、現在値は対米ドル、対日本円で70%程度にまで下落した。これは同じ通貨バスケットで比較すると、15年来(つまり米ドル高是正の協調介入「プラザ合意」以来)最低レベルである。下落傾向が続くのであろうか、それとも先行きは明るくなってきたといえるのであろうか。

欧州中央銀行(以降ECB)に着目するだけでは、十分な答えは出ない。やはりユーロの精神にまで掘り下げて答えを探さなくてはならないだろう。そもそもユーロは、欧州版「ニューエコノミー」(つまり生産性と柔軟性の向上)の発足を約束して導入されたもので、域内でドイツマルクを別の準備通貨に置き換えるという目的で導入されたのではない。1992年に調印されたマーストリヒト条約の基本精神からも理解できよう。単一欧州市場を目標とした単一欧州議定書が1987年に発効されたが、マーストリヒト条約では域内市場競争の促進と欧州統合という更に高い目標を掲げている。過去の構造的な問題(例えば物価や賃金の硬直化や公共セクターの巨大化やコーポレートガバナンスの不透明性)は解決し得るのか、また目標はどの程度達成されているのか、それがまさに国際投資家がユーロを判断する際の指標となっているのである。ECBが誇示する健全なファンダメンタルズ(低いインフレ率、財政黒字、高い外貨準備、経常黒字など)だけではなかなか国際投資家を説得できない。同様に、ユーロ安へのプレッシャーを冷静かつ慎重な態度で受け止めたECBではあるが(最近注目を浴びた理事会メンバーの失言は別にして)、その冷静な態度も、強い通貨への決心を表明する時期を待って踏み切った10月の単独通貨介入も、ユーロ高への好材料にはなっていない。

欧州版ニューエコノミーを軌道に乗せるには、以下の3段階のビジネスプランがある。

1)第1段階 : ユーロの導入=株式上場(IPO)
ユーロ導入をニューエコノミーの株式上場(以降IPO)と位置付ければ、マーストリヒト加盟基準はビジネスプランの基礎といえよう。そこでは、欧州金融財政政策の安定化が必須条件となるが、加盟国によって、既に満たされた。その結果、加盟各国の金利が低金利に歩み寄り、数十年来の財政黒字をユーロ圏にもたらした。

2)第2段階 : 欧州通貨統合(EMU)=ビジネス構築
IPO後、欧州通貨統合(以降EMU)のビジネスプランは以下のとおりである。ユーロ導入と安定と成長のための協定(Stability and Growth Pact)により金融財政政策上の制約が加盟国に課せられ、各国とも物価や賃金の硬直化及び公共セクターの巨大化を従来のように支えることができなくなり、その結果、市場に対応した構造改革が余儀なくされる。このシナリオがEMUの基本的構想である。まずはじめにユーロを導入すれば、欧州に最適通貨圏が必ず形成されるという考えである。市場に対応した構造改革はEMU以前にもグローバリゼーションの流れで進められてはいたが、ユーロによって加速化された。ある一例から。数年来ドイツで討論されてきた税制改革と年金改革がやっと法案として可決された。法人税を40%から25%に削減し、株式持合いを減らし、増加するペンションファンドを株式に投資するという内容が含まれている。この構造改革により資本市場は更に重要になり、企業間競争と透明性が高まり、その結果として欧州の投資収益性が伸びる。

3)第3段階 : 欧州の機構改革=新しい経営
単一市場と単一通貨の成果をあげるためには、今後ますます単一市場の法的枠組みと、それを遂行し監視する機関の必要性が高まるであろう。欧州を「企業」と見れば、新しい企業には新しい経営、経営陣そして監査役が必要である。同じように欧州では、欧州委員会といわゆるECOFIN(経済相蔵相理事会)の機構改革が必要である。表面上、政治的な対立論争ばかりが目立ち、前向きな取り組みが見えてこないように思われるが、改革推進の基本的傾向は変わらず継続している。現在の政治的混乱は、改革反対の表れとしてではなく、ユーロ圏の深まる政治的協力の結果として位置づけたい。

欧州の構造改革プロセスとユーロの健全なファンダメンタルズゆえ、欧州経済及びユーロの長期的展望はポジティブであると言われ続けている。上記のビジネスプラン第2段階により生産性と効率が向上するからである。欧州への直接投資の増加を見ても、現段階で既にポジティブな長期展望には同調できる。

ところが短期中期的展望については様相が異なる。国際投資家の評価は、米国のニューエコノミーの成果に対し非常にポジティブで、まだ経済危機にある「オールドエコノミー」日本にもポジティブであるのに対し、ユーロと欧州の構造改革プロセスには、なかなか厳しく、ネガティブな評価しか下されていない。それは上記第3段階でいう欧州機構改革の展望や政治のリーダーシップが明確でないからである。とはいえ、米ドルと日本円の動向も不透明さが増しているため、短期中期的に見てもユーロと欧州経済の展望はそれほど悪いとはいえない。

多くのニューエコノミーのスタートアップとは反対に、ビジネスプラン第2段階から明確であるように、欧州経済には既に収益性の高い基礎づくりができている。これから欧州改革の推進が国際社会でどこまで信頼を得るか、つまりビジネスプラン第3段階が、短期中期的に見たポジティブな展望とユーロ高へのキーとなるだろう。ユーロ導入以来受動的に見守るばかりであった欧州の政治家が、このところようやくユーロと改革プロセスを再びアクティブに支援しなくてはならないと考え出した。現在のECB介入政策が明確なシグナルである。ユーロの実現で十分証明された欧州政治家の遂行能力で、これからも目に見える改革の促進、そしてユーロの支援が期待できよう。ユーロに投資する時期が再び到来したのである。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF ユーロの動向  - 再び投資の時期到来 [115 KB]