富士通総研

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. Economic Review >
  4. Vol.5 No.1 2001年1月 >
  5. 東アジア経済の相互依存と為替制度の選択

東アジア経済の相互依存と為替制度の選択

主任研究員 杉浦 恵志

2001年1月

要旨

東アジア経済の相互依存と為替制度の選択

アジア通貨危機をきっかけに、東アジア通貨の事実上ドルペッグ制は崩壊した。一方、貿易依存度の高い諸国や企業には、変動相場制に対する不満があり、為替制度の見直し論がくすぶっている。なかでも、日本政府は円の国際化を強く主張している。円を国際化すれば為替リスクを考えず海外投資ができ、行き場のない国内金融資産の運用上メリットは大きい。しかし、それは貿易投資相手国に為替リスクを転化することになり、他国がそれを受け入れるとは考えにくい。

外国為替審議会によれば、円の国際化は域内通貨安定に資する通貨バスケットの前提条件であり、円の資金調達・運用の利便性向上や貿易・資本取引の円建て化促進、それに域内金融協力による通貨安定性の担保によって達成されるという。確かに円の使い勝手が改善すれば、国際取引に円が使用される可能性は高まると考えられ、施策も具体化しその一部は既に導入されている。だが、それだけで円の国際化がスムーズに進展すると言えるのか。

実際東アジア各国の通貨を見た場合、通貨危機がほぼ収束した1999年初頭以降も、円よりドルに対し安定的に推移している。独マルクが国際化した経験に鑑みれば、使い勝手の他に、域内相互依存の深化と、域内他国の使用インセンティブという3点を、通貨国際化の条件として考えるべきである。本稿では、域内相互依存の観点から議論を掘り下げてみたい。

第1に貿易の域内相互依存を見ると、NIES4ヵ国、ASEAN4ヵ国及び中国の域内貿易は着実に伸びているが、この9ヵ国にとって日本市場の重要性は、米国市場を上回るペースで落ちてきている。更に、米国の輸入と日本の輸入には、金額に表れない大きな違いがある。アジアの域内貿易では中間財の占める比率が高いが、域内市場の狭さを考えれば、かなりの部分が最終的に加工度の高い部品あるいは最終製品として、域外に輸出されているだろう。その意味で域外からの最終製品、特に工程の多い資本財や耐久消費財の輸入は、域内の中間財貿易を創出することになる。この点に関して米国の輸入構成を見ると、両品目の占める比率が高く、日本を除く東アジアの相互依存は米国依存で進んでいるといっても過言ではない。また、最終製品が主として米国向けにドルで値決めされるならば、調達もドルで行った方が好都合ではないか。

第2に開放マクロ経済学によれば、自由な資本移動を維持したまま通貨をリンクさせると、金融政策をリンク先の国に追随させる必要が生じる。リンク先の国と景気変動のサイクルにズレがあれば、リンクした国は経済政策の自由度を著しく制約されることになる。先の貿易構造を前提にすれば、貿易依存度の高い域内の景気変動は、日本のサイクルより米国のそれに連動する可能性が高いと思われる。自国通貨が円よりもドルに対して安定する最近の傾向は、各国にとって合理的とさえ言える。

景気変動の同期性に関する実証分析では、景気指標として、貿易との関連が強い製造業実質総付加価値成長率と、実質GDP成長率を採用した。製造業については、米国が韓国・台湾と統計上有意な相関関係にあり、中国やシンガポールともやや連動している。それに対し、日本は仏伊など成熟経済と比較的相関が高くなっているが、他の諸国とは関係が希薄である。東アジアの製造業が、米国からの製品需要によって発展してきた様子が見て取れる。

次にGDPの対東アジア同期性であるが、製造業ほど米国と日本の間に差が見られない。しかし、東アジア経済のパフォーマンスが2極化する中で、優等生の華南経済圏が連動しているのは米国の方であり、日中間ではむしろ負の相関を示している。このことだけを見れば、人民元と日本円のリンク、日中の金融政策協調は簡単にはいかない。

それでも、変動相場制や事実上のドルペッグ制と比較衡量した場合、バスケット制度は検討に値する。変動相場制のオーバーシューティングは避けられるうえ、単一通貨ペッグ制ほど投機に脆弱ではない。域内諸国にとって、自国通貨を円に対して安定させるのが望ましい状況を、いかにして創出するのかがカギを握る。それには、日本が相互依存の中核として、しかるべき役割を果たすことが重要になろう。問題は貿易構造に限らず、ドイツの例に習えば証券市場の統合や、金融節度(日銀による国債引受の可能性がありえない程度の財政節度)の維持などを検討しなければならない。それゆえ、シンガポールとの株式市場の統合は重要な一歩であると思うし、外国為替審議会における提言は、省内で財政赤字の動向とセットで議論するべきである。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 東アジア経済の相互依存と為替制度の選択 [87.9 KB]