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富士通総研

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電子商取引が市場に与えるインパクト

主任研究員 浜屋 敏

2000年10月

要旨

ECで価格差は拡大?

昨年来、わが国でも電子商取引(EC)が本格的に普及してきた。特に、消費者向けのECでは、アメリカほどではないにしろさまざまなビジネスモデルが登場し、携帯電話やコンビニを使った日本型のECのモデルも生まれつつある。では、ECは市場や消費者の選好にどのような影響を与えるのだろうか。

ECが市場に与えるインパクトについては、米国ではいくつかの実証研究が行われており、(1)商品の価格水準、(2)売り手による価格の違い、(3)商品を販売する際のメニューコストの大きさという3つのポイントが中心になっている。私たちは、わが国におけるEC及び店頭販売によるパソコンを対象として価格調査を行い、ECが商品の価格に与える影響や価格以外の差別化要因の重要性について分析した。

3つのポイントの3番目であるメニューコストについては、各種の実証調査では事前に予想されたとおりの結果が出ている。メニューコストとは商品の価格を変更するのに必要なコストのことで、値札を変えるための費用やキャッシュレジスターのプログラムを変更するための費用などが含まれる。ECではすべての商品に値札を付ける必要はなく、店頭のようにいくつものキャッシュレジスターを置く必要もないために、メニューコストは低くなると考えられる。私たちの調査でも、米国における先行研究と同じようにECの方が価格は頻繁に変更されており、メニューコストが低いということが支持された。

一方で、商品の価格水準と店による価格差については、実証調査の結果は必ずしも事前に予想されたとおりではない。価格水準に関しては、ECによる販売は物理的な店舗を必要としない分コストを削減することができる。コンピュータへの投資や顧客からの問い合わせ対応の要員増加などのコスト上昇要因もあるが、差し引きすればECによって企業活動のコストは低下すると考えられる。しかし、音楽CDや書籍を対象にした米国におけるいくつかの実証研究においては調査によって異なる結果が出ている。同じ商品が店頭で売られる場合とインターネットで売られる場合を比較してみると、インターネットの方が高い場合もあれば、安い場合もある。私たちの調査でも、ECが店頭に比べて明らかに安いということはなかった。

また、売り手による価格の違いに関しては、売り手が他の売り手の価格情報を容易に知ることができれば情報は完全に近くなるために、店による価格差は小さくなると考えられる。また、インターネット上で商品の価格比較を行うサービスなどを利用すれば、消費者も複数の売り手の価格を容易に比較できるようになり、その意味でもECの方が店頭よりも店による価格差は小さくなると予想される。しかし、実証研究では、ECの方がむしろ店頭よりも価格差が大きいという結果が出ている。たとえば、私たちの調査では、EC店舗6店と秋葉原の店頭6店を調べたところ、同じメーカーのノートブックパソコンをもっとも高く売っている店ともっとも安く売っている店の価格差は、店頭ではわずかに価格の0.8%であったが、EC店舗の価格差は価格の20.0%にもなった。

マッチング効果と信頼の重要性

このような調査結果から、ECによる販売は実際の店頭での販売よりも価格は安くなく、店舗による価格の差も大きいことがわかる。その理由は、まず、インターネット上ではまだ効果的な情報の流通が行われておらず、価格メカニズムが十分に働いていないということが考えられる。もしそうであれば、価格比較サービスの充実や消費者の学習によって、時間がたてば価格は均衡に向かうだろう。一方で、ECでは売り手の商品と消費者ニーズとのマッチングが効率的に行われ、価格以外での要因での競争が重要になるために、価格があまり低下せず、店による価格差も大きくなるということが考えられる。もしそうであれば、時間がたっても価格に関する現在のような現象は解消せず、価格以外の要因での競争が進むことになる。

消費者に対するアンケート調査からは、ECでは価格以外の要因が重要になるということが支持されている。ECを利用する消費者は、もちろん価格の安さを重視する場合も多いが、それ以上に24時間いつでもどこでも買物ができる利便性を求めている。また、同じインターネットでの買物であれば、自分の知らないショップよりも自分が一度買物をしたことのあるショップや知名度の高いショップを選ぶ傾向にある。私たちの調査でも、ECの経験の多い消費者ほど、サーチエンジンなどでショップを探すのではなく、以前に自分が利用したことのあるショップを選ぶ場合が多いことがわかった。

ECでは実店舗とは違って、消費者は商品を実際に見ることができず、店員と会話することもできない。購入した商品を自ら持って帰ることもできない。また、自宅の住所や場合によってはクレジットカードの番号など、さまざまな情報を売り手に渡さなければならない。ECで詐欺にあうリスクや個人情報が漏洩するリスクを考えれば、少々価格が高かったとしても、消費者は使い慣れたショップを利用するであろう。ECでの消費者のショップに対するロイヤリティは、普通に考えられているよりも高いのである。

消費者向けのECビジネスを行おうとする企業は、商品の価格戦略以上に、いかに消費者の信頼を得るかということに経営資源を集中すべきである。ブランドの確立や顧客維持(リテンション)に成功し、消費者の信頼を獲得することができれば、極端な価格競争に巻き込まれることもなく、大きな利益をあげることも不可能ではない。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 電子商取引が市場に与えるインパクト [110 KB]