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  5. 情報通信技術の導入による公益事業の新たなビジネス形態

情報通信技術の導入による公益事業の新たなビジネス形態

主任研究員 栗原 潤

2000年10月

要旨

情報通信技術の積極的導入により注目を集める公益分野の動き

近年、PFI制度導入を代表例とし、公的部門全般に対して市場原理導入の声が高まっている。こうした動きを背景に、各分野での規制緩和が進展していることも周知の事実である。一方、上下水道等の公益事業分野では未だ市場原理導入は程遠い感がぬぐいきれない。海外に目を転じると、欧州では、フランスのヴィヴェンディ(Vivendi)、スエズ・リヨネーズ・デ・ゾー(Suez-Lyonnaise des Eaux)といったいわゆる「ライフライン・ネットワーク・インフラ」関連企業が、新規事業に積極的に参入し活性化を図っている。欧州公益企業は、従来の電力・ガス等の熱供給業、上下水道業、廃棄物処理業に加え、情報通信技術の進展を背景として、「情報通信ネットワーク・インフラ」分野である通信事業、更には放送事業、電子商取引、テレビ教育分野にまで進出し、またその事業を欧州域内にとどめず、米国をはじめ海外展開を実施している。こうした欧州公益企業の活動は、IT分野の利用と公益事業分野での市場原理導入・経済効率向上を迫られる我が国公益事業分野にとっても示唆に富む経験を提供してくれるとの期待が高まっている。本稿では、こうした問題意識のもと、欧州公益企業の最近の動向とその評価、また我が国への適用可能性について検討を行う。

ライフライン・ネットワークと情報通信ネットワークとの融合

我が国においても、電力会社、鉄道会社が、自ら保有する電線網、鉄道網の上に光ファイバー網を敷設し、情報ネットワーク網を構築する動きが注目を浴びている。前述したフランスのヴィヴェンディ、スエズ・リヨネーズ・デ・ゾーは、情報通信技術の進展を背景に、情報通信、更にはコンテンツ分野にまで進出している。このフランス公益企業の動きは資本市場でも積極的に評価され、柔軟且つ積極的な資金調達活動も可能となったと判断されている。このような、一見すると比較的地味と思われる公益分野、即ち、ライフライン・ネットワーク・インフラ分野が、今、なぜ注目を浴びてきているのか。その理由として次の2点が挙げられよう。まず第1の理由は、ライフライン・ネットワーク・インフラと情報通信ネットワーク・インフラとの間において、光ファイバー敷設等ハード面での融合が、技術的にも、経済的にも可能となったことである。第2の理由は、ライフライン・ネットワーク・インフラで流れる情報、即ち、電力・ガス・水道の使用量や利用時間帯、また廃棄物の種類と量が、マーケッティング情報である顧客の生活パターン、生活水準、嗜好等を推測するための有効な資源となったという点である。ライフライン関連情報は、顧客獲得、顧客ニーズ把握をするための貴重な基礎情報を含んでおり、近年のデータ・マイニング等の技術の発達により、その基礎情報を積極的に活用することが可能となったのである。この結果として、表に示すように、これまで、別々に存在していたネットワーク、即ち、ライフライン、情報通信、更には交通・物流、その他のネットワークがお互いに融合する可能性が高まり、ネットワーク間での相互情報活用が可能となってきたのである。こうして、英・仏・独をはじめとする欧州の公益企業群は、情報通信技術を積極的に導入し、ライフライン・ネットワークと情報通信ネットワークを融合させ、電子商取引による共同資材調達、携帯電話通信網の確立を進めている。同時に、融合されたネットワークを利用し、顧客に対する商品・サービス販売拡大、販売網・顧客取引の一元化を実現させている。特に電力・ガス・水道・その他サービスを総括し1枚の請求書とするSingle billingが顧客からの強い支持を得ている。また、英国のスコティッシュ・パワー(Scottish Power)は、事業を更に発展させ、「公益サービスを超えて(Beyond Utility Offering)」という標語のもと、ライフライン・ネットワークを活用し、顧客に金融保険、情報通信、電子商取引といった包括的サービスを開始しようとしている。

表 情報通技術の発達により、融合が期待される各種ネットワーク網
  ライフラインネットワーク
LN (Life-line Networks)
情報通信ネットワーク
IN (Informastion Networks)
交通・物流ネットワーク
TN (Transport Networks)
その他ネットワーク、
販売チャンネル
Other Ns (Other Networks,Other channels)
ネットワーク・
インフラ関連産業
Network Infra-structures
ライフライン・ネットワーク・インフラ
LNI (LN-infra)
情報通信ネットワーク・インフラ
INI (IN-infra)
交通・物流インフラ
TNI (TN-infra)
その他ネットワークインフラ
ONI (Other-infra)
ネットワーク・
インフラ利用産業
Network Industries
エネルギー供給業
LNE (Energy)
電子商取引関連産業
INE (E-trading)
陸運業
TNG (Ground)
宅配事業
HDN (Home Delivery Networks)
上水道供給業
LNT (Tap Water)
空運業
TNA (Air)
下水道業
LNS (Sewage)
コンテンツ産業
INC (Content)
海運業
TNM (Maritime)
販売店網等
SN/BN (Sales/Branch Networks)
廃棄物処理業
LNW (Waste)
倉庫
TNW (Warehouse)
ネットワーク
に付随する情報
Embedded Information
ライフライン関連情報
LN-Info.
一般的情報
IN-info.
交通・物流関連情報
TN-Info.
その他ネットワーク関連情報
ON-Info.

以上、近年における欧州公益企業の経験をみてきたが、これを我が国に単純に「移植」するのは誰もが早計であると考えるのは至極当然の話である。元来、公益分野の企業体は、政府からの保護が経済学的にも正当化されてきた。それが、ここにきて、突然、市場原理に基づき情報分野を中心に多角化を進めるとすれば、民間企業に対しての競争的優位を「不公正」に獲得することにもなる。また、過度の合理化策が停電、断水、廃物回収サービスの悪化等を引き起こし、文字どおり生命の基礎的活動にかかわる「ライフライン」分野の危険性を高める可能性もある。したがって、我が国公益事業の歴史的背景、情報通信分野の競争条件を考慮しつつ、日本の公益事業の経済合理化と関連分野の規制緩和を考えてゆく必要があろう。

全文はPDFファイルをご参照ください。

PDF 情報通信技術の導入による公益事業の新たなビジネス形態 [92.9 KB]